まさかね。

 

 貴方に甘露煮のような言葉を向ける。

 優しくて、淡い、綿毛で包み込まれたような世界。

 そんな世界に俺たちはたった二人。

 

 

 貴方はあいつに恋をしたね。

 

 『東雲色の綺麗な空が、海を飲み込んでてな。あいつが手を伸ばして笑ってて。とろけるような気持ちだった』

 

 貴方は嬉しそうに語ったね。

 今思えば、恋だったなってね。

 楽しそうに二人、はしゃいでたみたいだね。

 俺から見れば、叶わぬ恋ってやつね。

 

 

 貴方はあいつに告られたね。

 

 『年上やけど、守りたいって思ったんや』

 

 覚悟決めたようなあいつの顔ね。

 踏みつけてやりたかったね。

 そのあとも楽しそうに時を過ごしたみたいだね。

 俺から見れば、時間の無駄ってやつね。

 

 

 貴方はあいつにプレゼントをもらったね。

 

 『今度一緒に水族館、行こうや』

 

 貴方は喜んでたね。悔しかったね。

 貴方はそのあと、それを探してたね。

 俺が捨てたんだよね。

 踏み潰して炭にしてね。

 

 

 あっ、灯火が消えた。

 あいつ、あっけなかったよね。

 でも抵抗してて、面白かったね。

 貴方も見てたよね。見ちゃったよね。ね?

 

 

 貴方は見事悲しんだね。

 

 俺の拍手に目も向けなかったね。

 貴方は笑いもしなくなったね。

 これで何度目だっけね。

 何度も同じ事してるよね。

 

 

 でも貴方は今度こそ。そう、今度はちゃんとね。

 煙草も吸わないね、酒も飲まないね。

 いや、そりゃ飲ませないよね。

 みんなのこと気にすることできなくていいね。

 

 

 可愛いね、泣いちゃったね。

 お腹すいたね、ニンジンさんだね。

 小さく切ったお野菜はお気に召したかな?

 おねむだね、寝ようね。飴あげるね。

 

 

 まるで、おままごとの世界。

 貴方が息子で、俺がママ。

 続けよう、貴方が眠るまで。

 二人っきりの、おままごと。



 後ろで、ガリッと何かを噛む音がした。

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短編集 群青ロラレ @kamikirez

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