誘拐少女と不審者おじさん

こしあん

第1話

「くぅぅぅ…」

少女のお腹から可愛くも乾いた音が鳴る。

(おなかすいた.......)

少女は1人で街を歩いていた。

少女の名前は弥生誘香(やよいゆうか)。年は9歳で、髪はしばらく切れていないのか、へその辺りまで黒い髪が伸びており、年より幼く感じる少女だった。外が寒いせいか頬は紅潮しており、口からは白い吐息が漏れている。

1年前、彼女の両親は交通事故で他界、1人だった所を叔母に引き取られたが、そこでの扱いは酷く、ご飯を食べられないこともしばしばあった。パシリはもちろん、寒い中部屋に取り残されたり、逆に暑い日はクーラーもない部屋に居させられたこともあった。

1年間過ごし、とうとう耐えきれなくなった彼女は隙を見て家を出て、現在に至る。もう街は夜になり、騒がしくなってくる。

「全国で誘拐が多発して......「それでさ〜昨日のテレ……「それであの子ときたら…」

ビルのモニターや人の会話がうるさく鳴り響く。

もうかれこれ1日は寝なずに歩いている。さすがに慣れてきたとはいえ空腹も限界だ。少女の目尻に涙が浮かぶ。

(もう…だめ.............パパ.......ママ.......)

そこで少女の意識は途絶えた。

目が覚めると、そこは部屋の中だった。少女以外誰もいない。部屋の中にはちいさい机が1つとベッドが1つ、本棚が1つあり、中には本がたくさん入っているが少女には理解できなかった。少女はベッドの上で寝ていた。ふと、街で聞こえたテレビの内容を思い出す。

(全国で誘拐が多発して.......)

「これは…ゆうかい?」

そう思った瞬間ドアが開く。

ドアから出てきたのは見た目が30代後半くらいのおじさん。顎には髭を生やしており、身長も高く、ガタイもいい。彼は少女を見て口を開いた。

「おい…」

少女はビクッと体を震わせ、ベッドに後ずさる。

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…なんでもするので…いたいことは…」

家での事を思い出したのか、体は小刻みに震え、手にはベッドにあった布団をギュッと握りしめ、涙を浮かべている。

おじさんはそれを見て、困惑したような笑みを浮かべたあと、

「おじさんは…」

と言いかけ、髭の生えた顎をさすって考えたような仕草をした後、

「お…お嬢ちゃんにはこの……なんか.......え〜…す、すごい悪いご飯を食べてもらおう!」とふへ…と言ってにこぉ…と引きつった笑みを浮かべ、手に持っていた料理を机の上に置いた。

少女はそれを見て、震えた手で置いてあったスプーンをとった。ごめんなさい…と祈るように呟きながら目を瞑り、まるで毒味をするように米を1口だけ食べた。美味しいことが分かると、おかずも米もかきこむようにして食べた。

目をキラキラと輝かせ、

「おいしかったです!おかわりはあり.......」

ありますか?と聞こうとしたところで自分が誘拐されていることを思い出す。

「あぅ…ごめんなさい…忘れてください…」

少女はバツが悪そうに下を向き、また怯えたように小さく震え、履いていたスカートの端をギュッと掴んでいる。

「おかわりがほしいのか?」

「い、いえ.......ちがいます…生意気なこと言ってごめんなさい…」

「ちょっと待っててね…」

と言っておじさんは立ちあがり、部屋を出ていった。

(自分が生意気なこと言ったから“おしおき”される…)

少女は目を瞑り、手をギュッと握りしめていたた。ドアが開き、おじさんが料理を持って来て、机の上に置いた。

「わ、悪いものの効きが薄いからもっと食べてもらおう!………おなかいっぱいになったら言ってね?」

と、言いながら少女の向かいに座った。

少女は相手を刺激しないようにか、おどおどしながら聞いた。

「お…おじさんは…わるいひとじゃないんですか?」

「お、おじさんは、わ、悪い人だよ〜?」

「じゃあどうしてゆうかにごはんをたべさせてくれるのですか?」

「え、え〜と、悪い物を食べさせちゃうからだよ〜」

「ゆうかはなにもなってませんよ?」

と可愛らしく首をかしげる。

おじさんは困った顔をして、不自然に話題を変えた。

「そ、それより…おうちはどこにあるの?」

「え、えと…いえでしました……」

「親御さんが心配してるよ?早く帰…「いや!かえりたくない!いやだ!いや!あのいえにはいきたくたい!」

おじさんが話している言葉を遮って、急に顔を青くしておじさんから離れた。

「…何があったの?」

「おばさんたちはゆうかにいたいことします。いやです…あそこにはもういきたくない…」

少女は震え、身を縮こませた。よく見ると首辺りに痣がある。

(虐待ってやつか?おばさんって…両親がいないのか……ふざけんなよ.......どうしてこんな子にそんな事が出来るんだよ…!)

考えるうちに怒りが湧いてくる。

少女は震え、涙が浮かんでいる。

おじさんは無意識に少女を抱きしめた。

強く、優しく。

「大丈夫だよ.......辛かったな.......苦しかったよな……」

考えているうちにおじさんの目にも涙が浮かんできた。

「うっ…わぁぁぁぁぁぁん.....ぐすっ.......ひっ…うぅぅ」



こうして、少女とおじさんの“誘拐”生活が始まった。

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誘拐少女と不審者おじさん こしあん @koshian229

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