誘拐少女と不審者おじさん
こしあん
第1話
「くぅぅぅ…」
少女のお腹から可愛くも乾いた音が鳴る。
(おなかすいた.......)
少女は1人で街を歩いていた。
少女の名前は弥生誘香(やよいゆうか)。年は9歳で、髪はしばらく切れていないのか、へその辺りまで黒い髪が伸びており、年より幼く感じる少女だった。外が寒いせいか頬は紅潮しており、口からは白い吐息が漏れている。
1年前、彼女の両親は交通事故で他界、1人だった所を叔母に引き取られたが、そこでの扱いは酷く、ご飯を食べられないこともしばしばあった。パシリはもちろん、寒い中部屋に取り残されたり、逆に暑い日はクーラーもない部屋に居させられたこともあった。
1年間過ごし、とうとう耐えきれなくなった彼女は隙を見て家を出て、現在に至る。もう街は夜になり、騒がしくなってくる。
「全国で誘拐が多発して......「それでさ〜昨日のテレ……「それであの子ときたら…」
ビルのモニターや人の会話がうるさく鳴り響く。
もうかれこれ1日は寝なずに歩いている。さすがに慣れてきたとはいえ空腹も限界だ。少女の目尻に涙が浮かぶ。
(もう…だめ.............パパ.......ママ.......)
そこで少女の意識は途絶えた。
※
目が覚めると、そこは部屋の中だった。少女以外誰もいない。部屋の中にはちいさい机が1つとベッドが1つ、本棚が1つあり、中には本がたくさん入っているが少女には理解できなかった。少女はベッドの上で寝ていた。ふと、街で聞こえたテレビの内容を思い出す。
(全国で誘拐が多発して.......)
「これは…ゆうかい?」
そう思った瞬間ドアが開く。
ドアから出てきたのは見た目が30代後半くらいのおじさん。顎には髭を生やしており、身長も高く、ガタイもいい。彼は少女を見て口を開いた。
「おい…」
少女はビクッと体を震わせ、ベッドに後ずさる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…なんでもするので…いたいことは…」
家での事を思い出したのか、体は小刻みに震え、手にはベッドにあった布団をギュッと握りしめ、涙を浮かべている。
おじさんはそれを見て、困惑したような笑みを浮かべたあと、
「おじさんは…」
と言いかけ、髭の生えた顎をさすって考えたような仕草をした後、
「お…お嬢ちゃんにはこの……なんか.......え〜…す、すごい悪いご飯を食べてもらおう!」とふへ…と言ってにこぉ…と引きつった笑みを浮かべ、手に持っていた料理を机の上に置いた。
少女はそれを見て、震えた手で置いてあったスプーンをとった。ごめんなさい…と祈るように呟きながら目を瞑り、まるで毒味をするように米を1口だけ食べた。美味しいことが分かると、おかずも米もかきこむようにして食べた。
目をキラキラと輝かせ、
「おいしかったです!おかわりはあり.......」
ありますか?と聞こうとしたところで自分が誘拐されていることを思い出す。
「あぅ…ごめんなさい…忘れてください…」
少女はバツが悪そうに下を向き、また怯えたように小さく震え、履いていたスカートの端をギュッと掴んでいる。
「おかわりがほしいのか?」
「い、いえ.......ちがいます…生意気なこと言ってごめんなさい…」
「ちょっと待っててね…」
と言っておじさんは立ちあがり、部屋を出ていった。
(自分が生意気なこと言ったから“おしおき”される…)
少女は目を瞑り、手をギュッと握りしめていたた。ドアが開き、おじさんが料理を持って来て、机の上に置いた。
「わ、悪いものの効きが薄いからもっと食べてもらおう!………おなかいっぱいになったら言ってね?」
と、言いながら少女の向かいに座った。
少女は相手を刺激しないようにか、おどおどしながら聞いた。
「お…おじさんは…わるいひとじゃないんですか?」
「お、おじさんは、わ、悪い人だよ〜?」
「じゃあどうしてゆうかにごはんをたべさせてくれるのですか?」
「え、え〜と、悪い物を食べさせちゃうからだよ〜」
「ゆうかはなにもなってませんよ?」
と可愛らしく首をかしげる。
おじさんは困った顔をして、不自然に話題を変えた。
「そ、それより…おうちはどこにあるの?」
「え、えと…いえでしました……」
「親御さんが心配してるよ?早く帰…「いや!かえりたくない!いやだ!いや!あのいえにはいきたくたい!」
おじさんが話している言葉を遮って、急に顔を青くしておじさんから離れた。
「…何があったの?」
「おばさんたちはゆうかにいたいことします。いやです…あそこにはもういきたくない…」
少女は震え、身を縮こませた。よく見ると首辺りに痣がある。
(虐待ってやつか?おばさんって…両親がいないのか……ふざけんなよ.......どうしてこんな子にそんな事が出来るんだよ…!)
考えるうちに怒りが湧いてくる。
少女は震え、涙が浮かんでいる。
おじさんは無意識に少女を抱きしめた。
強く、優しく。
「大丈夫だよ.......辛かったな.......苦しかったよな……」
考えているうちにおじさんの目にも涙が浮かんできた。
「うっ…わぁぁぁぁぁぁん.....ぐすっ.......ひっ…うぅぅ」
こうして、少女とおじさんの“誘拐”生活が始まった。
誘拐少女と不審者おじさん こしあん @koshian229
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