11話

 大きな缶のなか、紙のかき混ぜられる気配を脇に感じながらウナ先輩は気分よく帰宅した。

 部屋にはまだ沖那君が居た。ウナ先輩の母親からコーラとポテトチップスを貰って、マーガレットを読んでくつろいでいる。

 階下では「またそんな格好で出歩いて」「これがイケてるんだよママ」なんて仲の良い会話が聞こえてきて、階段をのぼる足取りからも機嫌が良いのが分かる。はたして平和的にコトは済んだのだろうか、と思っていると、せんべい缶を小脇に抱えたウナ先輩が鼻歌交じりに入室してきた。

「天ノ雀解散させてきた」

「えっ、すずめちゃん潰したの?」

「チョロいよあんなの。それに詫び金も、デカい方取ってきた。こんなデカい缶目の前にして、あの小箱の方を取ってくるって、ホントに甘いんだからよ」

 まあそこも可愛いけどな、とキスをすると、せんべい缶を部屋の真ん中に置いた。

 手招きして沖那君を隣に呼ぶと、二人で手を重ねて、蓋のへりを掴んだ。

「この缶だと大層な金額になるな」

「ドキドキするね」

 敬々しく蓋を持ち上げた缶の中には、何があったか。覗き込んで、まず沖那君が悲鳴を上げた。

「なんだよこれ!」

 叫んで、ウナ先輩は缶を思い切り蹴飛ばした。

 

 騒ぎを聞きつけて上がってきたウナ先輩のママが見たものは、部屋に散らばるウナ先輩の数多の写真、切り取られた黒髪の束、そして干し肉のようになった、すずめちゃんの舌だった。

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舌切りすずめちゃん 髙 文緒 @tkfmio_ikura

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