10話
すずめちゃんが、跨っていたバイクから降りてそのままウナ先輩に駆け寄るものだから、オタケは自重により横転するバイクに巻き込まれそうになった。すんでのところで避けながらも、命に替えて持っておけと言われたせんべい缶は離さない。派手な金属音が鳴るなか、すずめちゃんがまっすぐにウナ先輩の胸に飛び込もうとしたときだ。
すずめちゃんの額が割れて、動きが止まった。ウナ先輩がメリケンサックを投げつけてきたのだ。
額を抑えて苦悶するすずめちゃんの手から、仕込みナイフが滑り落ちる。
「ホントに油断も隙もねえ、キツネみてえな女だ」
「すずめってよんれぇ……!」
額から血を流しながら脚をとってくるすずめちゃんの腹を、ウナ先輩は容赦なく鉄板入りのヒールのつま先で蹴り続ける。誰も二人の間には入れなかった。
すずめちゃんが動かなくなったところで、ウナ先輩はオタケに近寄った。すっかり腰が抜けて缶を抱きかかえるようにしていたオタケは、喉からヒュウと息を漏らす。本当に恐ろしいものに睨まれると、悲鳴すら上がらないのだと、久々にウナ先輩に相対したオタケは思い出した。
「今日で天ノ雀は解散しろ。次に集会やトップク見かけたら、一人ずつ殺してく。いいな」
「はい……」
「オラ、缶よこせ。詫び金だろうが」
ウナ先輩は脇に缶を抱えると、また轟音を響かせて帰っていった。広場に倒れたすずめちゃんが、血溜まりに顔をつけながら薄く笑っていることに、誰も気づきはしなかった。
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