第414話

 ■□■


本体キング視点】


 ▶冥府の世界


 青みがかった紫色の空、岩のように硬い灰色の大地――。


 自然の象徴ともいえる緑は、その世界には一切確認できず、不毛な大地に時折見えるのはバオバブの木のような幹が異様に膨らんだ不気味な造形をした大樹のみ。


 太陽は見えずに、空には油膜のように七色に光る雲が掛かり、なんというか五感を通して生き物が居てはいけないような世界だと訴えかけてくるみたいだ。


「これが、冥府の世界……」


 ボクデンに勝利したことによって手に入れた特殊スキル【地獄門】を使ったら、なんか禍々しい感じの扉が空間に現れたので、それを押し開けて入ってみたら、いきなりこの光景だ。


 目がチカチカするサイケデリックな光景が、どうやら冥府の世界のデフォルトらしいね。


 ▶冥府の世界にようこそ!

 ▶冥府の世界では外部世界と連絡を取るためのチャット機能などが使えません。

 ▶また、冥府の世界は場所によってステータスが封じられたり、スキルが封じられたりする特殊な環境です。

 ▶プレイヤースキルが攻略の鍵となってきますので十分に気を付けて下さい!


 そして、なんか不穏なシステムメッセージが流れたんですけど……。


「これは、いきなりダメな奴じゃない?」


 とりあえず、クラン専用の掲示板を開こうとしてみたら、ブブーッと警告音が鳴ったんですけど……。


 うん、いきなりタツさんたちとの連絡ができなくなっちゃったみたい。


「まぁ、連絡できなくても別にいいかな? 元々マメに連絡するようなタイプでもないしねー」


 SNSとか一日更新して飽きちゃうタイプだしね! そこは特に問題じゃないと思う!


「むしろ、スキルやステータスが封印される方が問題あり? なんか不穏過ぎるんですけど……。とりあえず、ボディーガード代わりに分身体でも呼び出そうっと。【肉雲化】発動……あれ、発動しない?」


 ▶スキル無効化エリアです。

 ▶スキルの発動に失敗しました。


「えぇ!? いきなり詰んでない!?」


 とりあえず、気になったのでステータスの方も確認してみるけど、こっちは下がってなかったみたい。……セーフ。


「だったら、このエリアはステータスの暴力で突き進んでいけばいいのかな?」


 どこまでがスキル禁止エリアなのかわからないから、急に切り替わったりされると困るけど……。


 うーん、なかなか厄介なところだね! 冥府の世界って!


「機械天使装備は……あ、フェザービットが飛ばない? これ、推進装置とかで空を飛んでると思ってたけど、実はスキル的な力で飛んでたんだ……」


 まぁ、装備としての性能はいいから、わざわざ換装する必要もないかな。


 とりあえず、スキルも使えないので徒歩で移動することにして……白痴の魔王の玉座ってどこにあるんだろう?


 そう考えたら、視界の端に矢印が表示されたね。


 多分、あっちの方に白痴の魔王の玉座があると思うんだけど……。


「え? ……ナニアレ?」


 矢印の先を見てみたら、宙に浮かぶ巨大な岩と宙に浮かぶ巨大なお盆みたいな大地と、地上に築かれた城壁のようなものが見えたんですけど……。


 とりあえず、街なのかな……?


「よくわからないけど、あぁいうものがあるってことは知的生命体がいるのかもしれないね」


 冥府の世界って名前だから、生物なんていないのかと思ってたよ。


 いや、本当にいるかどうかはわからないけどね?


 でも、何かしらの建物っぽいし、行ってみるだけの価値はあると思いたい。


「とりあえず、あそこを目指して歩いていこうっと」


 岩のように硬い大地を踏み締めながら移動を開始したところで――、


 ビシビシビシッ! ――シュルルルルッ!


「おぉう……?」


 岩のように硬い地面を割って、植物の蔓のような物が私の両脚に絡みつく。


「というか、植物の蔓だね」


 どうやら、地上に植物があんまりいないと思ってたら、地下に生息してたみたい。


 というか、不毛な大地っぽいし、地下に潜んでても、あんまり栄養が取れないから、久し振りの栄養を取るために、私に蔓を絡み付けてきた感じかな?


 食虫植物ならぬ、食邪神植物だね。


「わー」


 蔓に捕らえられて、空中に逆さ吊りにされる私。


 これは、なかなかにハードな蔓プレイだね!


 とりあえず、蔓でも引っ掴んで、謎の植物を地面から引き抜いてあげようかなーと思っていたら――、


 ザン! ザン! ドサッ! ――バギッ!


 私の脚に絡みついてた蔓が一瞬で斬られて、地面に頭から落下したんですけど……。


 私が頑丈だったから地面が砕けるぐらいで済んだんだけど……普通の人だったら確実に死んでたんじゃないかな?


 地面に激突した時にできた亀裂を見て、しみじみとそう思うよ。


「グズグズしないで! 逃げるわよ!」


 そう言って、剣を片手に走り寄ってきたのは、ゴツいゴーグルをした緑髪ツインテのお姉さんだ。


 これは――、


「第一冥府人? とりあえず、スクショ撮っとこっと……」

「逃げろって話、聞いてた!?」


 地面を割って次々と現れる植物の蔓を素早く剣で斬り落としていくお姉さん。


 なかなかの実力者なのかな?


 そのお姉さんは、私の手を素早く握ると引き摺るようにして、その場から駆け出す。


「懸命に走りなさい! 冥府植物の餌になりたくなかったらね!」


 そう言いながら、時折振り向いては追い縋ってくる植物の蔓を持ってる片手剣で斬り裂いて撃退する。


 うーん。


 多分、お姉さんは一生懸命逃げてるんだと思うけど……。


 私からするとすこぶる遅い……。


 というか、このままだと、普通に植物の蔓から逃げられそうにないので、お姉さんを捕まえようと伸びてきた蔓の前に割って入って、蔓に私を捕まえさせるフォローまでするよ。


 お姉さんは私の手を引きながら前を走ってるので、私がフォローしてることに気付かないみたい。


 そして、そのまま蔓を私に絡みつかせたまま逃げるんだけど――、


 バキッ! ビキッ! ドカカカッ!


「何!? 地面が割れてるの!? どうやら、獄中花が本格的に追ってきたようね……!」


 背後を振り返るお姉さんが、地面が隆起して、派手な砂煙が上がっているのを見て、そう叫ぶんだけど……。


 多分、蔓を絡み付かせたまま私が走ってるせいで、植物さんが地中引き摺り回しの刑になってるせいなんじゃないかなぁ……。


 というか、もっと簡単に蔓が切れるかと思ったら、案外と頑丈っぽいね。


 斬属性に弱くて、叩属性に強いとか、そういう特性があるのかな?


 そんなことを思いながら走ってたら、更に多くの蔓が私に絡みついてきた。


 逃さないって感じなのかな?


 まぁ、関係なく走るけど。


 ドカン、バコン、ベコン!


 なんか地中から、そら恐ろしい衝突音が聞こえてくるけど、私は一切気にしない。


 まぁ、私に被害はないからね。


「ちょっとアナタ大丈夫!? 蔓に滅茶苦茶絡み付かれてるじゃない!?」

「あ、これ、ほとんど切れてる蔓だから。平気平気」

「そうなの……?」


 いや、多分、全部繋がってると思うけど。


 まぁ、植物さんを引っ張ってる影響で砂煙も凄いし、蔓が繋がってるか、切れてるかなんて把握できないでしょ。


 というわけで、その後も暫く逃げ続けて、植物さんを地中引き摺り回し摩り下ろしの刑にしていたら、その内に光の粒子になって、決着がついたみたい。


 うん、強敵だったね……。


 私は決着がついたとわかった……巻きついてた蔓が消えた……んだけど、お姉さんはその事に気が付かなかったのか、随分と走り込んだところで、ようやくストップ。


 そのまま地面に座り込む。


「はぁ、はぁ、はぁ……。どうやら向こうも諦めてくれたようね……。冥府の世界の獄中花のテリトリーに入ったら、普通は逃げ切れないものだけど、今回は運が良かったわ」


 いや、普通に退治しちゃってるけどね。


 まぁ、助けてもらった(?)のは確かなんだし、お礼ぐらいは言っておこうかな?


「えーと、助けて頂き……ありがとうござい、ます……?」

「なんで疑問形なのよ……」


 考えてみたら、私の方がお姉さんを助けたんじゃないかな? って途中で思ったから疑問形になっちゃったんだけど……。


 まぁ、細かいことは気にしないでおこうっと。


「冥府の世界の人に会うのは初めてだから、ちょっと言い淀んじゃっただけだよ」

「残念だけど、私は冥府の世界の住人じゃないわよ? 私の名前はセポネア。放浪中の人族の剣士よ」


 人族……?


 人族が冥府の世界に……?


「死んじゃったの? 可哀想……」

「いや、それだったら、あなたはなんなのよ……」

「え? 私は【地獄門】を開いてやってきたから、死んでないよ?」

「私も【地獄門】を開いてやってきたのよ!」


 …………。


 【地獄門】って複数あるの!?


 いや、まぁ、スキルなんだから複数設置できてもおかしくないのかな……?


 それにしても、わざわざ冥府の世界に放浪しにくるなんて……。


「変人?」

「アンタに言われたくないわよ……」

「否定できない」

「……なんか調子狂うわ、アンタ」


 そう言ってから、セポネアさんがようやく立ち上がる。


 ひと息つけたのかな?


「私が冥府の世界までやって来たのは――」


 何かを言いかけたけど、その言葉を飲み込んで、遥か前方を睨む。


 その視線の先には、砂煙を上げてこちらに突き進んでくる巨大な蜘蛛の姿があった。


 そして、その蜘蛛の背には魚を擬人化したような奇妙な人型が三人ほど乗っている。


「……どうやら、冥府のアウトローたちに見つかったみたいね。あなた、名前は?」

「ヤマモト」

「そう、ヤマモト。武器を持ってないようだけど戦える?」


 あ、そっか。


 スキルが封じられてるから、【収納】からガガさんの魔剣が取り出せないんだ。


 これは困ったかも。


 素手で、あの蜘蛛とか触りたくないし。


「戦いたくないです」

「なんで希望を言ってくるのよ……。いいわ、だったら少し離れたところで見てなさい。アイツらをボコボコにして、あの乗り物を奪ってやるわ!」


 あの乗り物って……。


 蜘蛛……!?


 えーと……。


「どさくさに紛れてあの蜘蛛を触らずに倒せないかな……?」

「乗り物として使うって言ってるでしょうが!」


 いや、その乗り物として使いたくないんだけど……。


 …………。


 ゴネると怒られそうだし、やめとこうっと……。




 ■□■


※本編とは何の関係もないCM劇場※


デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの3巻が電撃文庫様より、2025/1/10(金)に発売されます。


WEB版から大分加筆修正してますので、御興味のある方は、是非お買い求め頂ければと思います。


購入特典SSなんかに関しては、近況ノートの方に書きましたので、購入を検討しておられる方はそちらもご参考にして頂ければと……。


それではノシ

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デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる ぽち @kamitubata

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