第八章、バランスと混沌――、ふたりはヤマモト!

第413話

本体キング視点】


「久し振りにクランハウスを訪れてみたら、宮殿みたいになってるんですけど……?」


 えーと、私が暗黒の森の地下にある古代遺跡で引き籠もってる間にクランハウスを拡張でもしたのかな……?


 システムメニューから、クランハウスへ移動って選んだら、いきなりベルサイユ宮殿みたいな建物が目の前に、どーん! だもんね。


 そんなの私じゃなくても驚くと思うんだ。


 私がしばらく呆然としてると、宮殿の前にある噴水からぽこぽこと気泡が泡立つのが見えた。


 そして、そこから水滴を撒き散らしながら、巨大な龍が現れたんですけど!


 まさか――、


「クランハウスの中で、モンスターを飼ってるの!?」


 見た感じ十メートル以上の巨大サイズ!


 体の半分が噴水の中にあるから、もっと全長は大きいのかも!

 

 私はその龍と相対した瞬間に、【フェザービット】を展開しようとして――、


「……ん? ヤマちゃんか?」

「…………。もしかして、タツさん?」


 真っ青でゴツゴツな鱗を備えた巨大な龍から聞き覚えのある声を聞いて、私は思わず【フェザービット】の展開を止めるのであった。


 ■□■


「そっか。ついにタツさんも新しい進化先に進化したんだね……」

「せやで! ゴダに向かう途中にある竜の祭壇って所で進化してきたんや! その名も【青龍】や! カッコええやろ!」

「んー……」


 噴水の縁に腰掛けて、見上げるほどに大きくなったタツさんの姿を観察する。


 なんというか……。


「……首が痛い」

「……ワイの見た目の感想をくれへん?」

「あえて言うと、小さい方が可愛かった?」

「なんで誰も素直にカッコええって言うてくれへんのや!?」


 というか、近過ぎて全貌が良くわからないから、格好良いかどうかわからないんだけど……。


 しかも、太陽が真上にあるせいで逆光で良く見えないし。


「そもそも、そんなに巨大になっちゃって暮らし難いんじゃない?」

「ん? 縮もうと思えば縮めるで。そういう【種族スキル】を持っとるからな」


 そう言うと、タツさんはシュルシュルと縮んで、三十センチぐらいのサイズになってしまった。


 これはなんというか……。


「ぷりてぃ……?」

「ちゃうねん! 格好ええって言われたいねん!」


 それは、その姿じゃ無理じゃないかなぁ……。


 ■□■


 とりあえず、タツさんと駄弁りながら、クランハウスの中に入る。


 いや、本当、見た目も豪華な宮殿スタイルだったけど、中身も豪華だね。


 庭付き、噴水付きの次は、クランハウスの壁や柱のいたるところに精密な彫刻が施されてることに驚く。


 バロック建築って言われる奴かなー?


 直線や曲線を多用して、空間的な美しさを表現してる……ような気がする。


 まぁ、見た感じに凄い豪華というのが、直感的にわかる仕様だ。


 なんというか、中世ヨーロッパの王国貴族の生活に迷い込んでしまったような、そんな不思議な感覚にさせてくれるね。


 まぁ、庶民派の私としてはあんまり落ち着かないんだけど……。


「クランハウスはいつからこんな感じになっちゃったの?」


 タツさんに聞いたら、クランメンバーを増やしたのを契機に、クランでカンパを行って、一気にクランハウスを拡張、進化させたらしい。


 前までの、みんなでリビングルームに集まって、わいわいやるシェアハウスな感じがわりと好きだったんだけど……。


 流石に人数が倍以上になると、そういうわけにもいかないみたい。


 でも……。


「流石に部屋数多過ぎじゃない?」

「せやなぁ……」


 長くて広い廊下にはズラッと扉が並んでおり、正直、クランメンバーの数を余裕で上回るような部屋数があるように見える。


 そこを尋ねてみると、


「まぁ、使ってない部屋はいつの間にか生産施設になってたりするから、部屋数が少ないよりはえぇと思うで」


 という答えが返ってきた。


 それって、絶対、冒険担当クラブがこっそりとクランハウスを改造してるよね?


 なお、クランでカンパを行った際に、一番多くの金額を寄付したのが私の分身体らしいので、タツさんもクランハウスの勝手な改造には文句を言い辛いみたい。


 なお、私は自分の褒賞石が勝手に使い込まれてたことに気付かなかった模様……。


 いや、桁数が変わらないレベルで使い込まれてもわからないというかね?


 常にものすごい勢いで褒賞石が増えたり減ったりしてるから、どうなってるのか自分でも把握し切れてないんだよねぇ……。


「ほんで? 今日、わざわざ本体のヤマちゃんがクランハウスに来たのは何の用や? 新築のクランハウスを見に来たってわけでもないんやろ?」

「あー、しばらく姿を消すから、挨拶しとこうかなって思って……」

「姿を消すって……。なんや危険なことにでも足突っ込んどるんか?」

「いや、失踪じゃないよ? 私も進化のために白痴の魔王の玉座って場所を目指すつもりだから、暫く会えなくなると思って、顔見せに来ただけだから」

「白痴の魔王の玉座? 聞いたことあらへんな。どこにあるんや? 近いんか?」

「マップを見る限りだと、多分冥府の世界ってところにあると思う」

「いや、死ぬやん」


 一応、【地獄門】っていうスキルを使えば、冥府の世界に生きたまま行けると思うんだけど……。


 まだ試してないから確実に死なないと言えないのがなんともね……。


「多分、大丈夫……かな?」

「ホンマに大丈夫なんか……? しかし、進化ひとつするために挨拶に来るとは随分大袈裟っちゅうか……」

「各地に散ってる分身体も全て集めて行くつもりだからね。タツさんたちとも連絡取れなくなるかなーと思って、一応ね」

「そういう時はクラン掲示板でも使ったらえぇやん」


 …………。


 あ、そういえば、そんなのあったね。


「なんやねん、その『あ、そういえば、そんなのあったね』みたいな顔は……」

「エスパー……?」

「実際に思っとったんかい!」


 じゃあ、こんなに改まって挨拶することもなかったかな?


「まぁ、挨拶しに来たんはえぇことや。ツナやんもいなくなった上に、各地に散ってるヤマちゃんまで全員いなくなったら、プレイヤーたちに動揺が走るからな」

「え? ツナさんいないの? なんで?」

「ヤマちゃんと同じ理由や。進化のために海底神殿目指す言うて、新規メンバーの訓練を放り出して、行ってもうたわ」


 それは多分、半分くらいは訓練に飽きて放浪の旅に出掛けたんだと思う。


 今頃は、海の中の新鮮な魚介類を食い荒らしながら、海底神殿にでも向かってるんじゃないかな?


 まるで、シャチだね。


「じゃあ、挨拶にくるタイミングとしては良かったのかな?」

「クラン・せんぷくとしては、ダブルエースが一時的とはいえ、抜けるのは痛いんやけどなぁ……」

「大丈夫、次代のエースはタツさんだよ! 頑張って!」

「ワイ、ヤマちゃんと同期なんやけど……」


 クラン加入タイミングが一緒だから、そういうことになるのかな?


 まぁ、サブリーダーとして頑張ってもらおう!


「なんや、大々的に挨拶するって言うんやったら、今いるメンバーを大広間に集めたるけど……どうするんや?」

「そんな大々的にやるのは恥ずかしいからいいよ……。やっぱ、タツさんが代表してみんなに言っといてくれない?」

「別にえぇけど……リリやんには挨拶しといてな?」

「なんで?」

「不貞腐れんねん……」


 どうやら、私が人族国に挨拶もなしに逃げた時もそうだったらしい。


 タツさんがぶつくさ言ってる。


 まぁ、そういうことなら、リリちゃんにだけは直接挨拶しにいこうかな?


 というわけで、リリちゃんに挨拶しに行ったら、何故か途中でミサキちゃんに見つかり、ブレくんを呼んできて、「生ゴッド、生ゴッド」とか盛り上がってたら、偶然通り掛かったTakeくんに見つかって「げ」とか言われるし……。


 その後は、リリちゃんに会うついでに、愛花ちゃんパーティーや新人さんたちと顔合わせをして、結局何故か分身体の私と一緒に夕飯を作るはめになって、みんなと一緒に夕飯を食べてお泊まりすることになっちゃったんだけど……。


「結局、何しに来たの? 本体?」


 私の部屋と呼ばれる部屋(冒険担当クラブの部屋だから全然馴染みがないんだけど……)で、枕を並べて、冒険担当クラブと同じベッドに潜り込みながら、その質問の答えを探す。


「挨拶、かな……?」

「みんなと遊んでただけにしか見えなかったんだけど……」

「そうだね。楽しかったよ」


 流石、私だ。


 なんとも中身のないスッカスカな会話を楽しむ。


「というか、ベッド狭くない? なんで一緒のベッドに寝てるの?」

冒険担当クラブが敷布団がないっていうから……」

「ベッドくらい【収納】に入ってないの?」

「大丈夫。そんなことしなくても、すぐにベッドは広くなるから」

「え? まさか……」


 というわけで、【並列思考】を一時的に解除する私。


 隣に居た私の分身体がドロドロの肉塊になったのを、ちょっと気持ち悪く思いながらも【吸収】で綺麗さっぱり吸い取る。


 うん、ケ〇ヒャーのスチームクリーナーも真っ青なお掃除能力である。


「うん、これでベッドが広々と使えるように――あたたたっ!? 頭痛い!?」


 私の頭の中に流れ込んでくる経験したことのない記憶の数々に私はベッドの中で一人悶え苦しむ。


 分身体が消えると、毎回コレがあるから嫌なんだよねぇ……。


 ■□■


【Merlin視点】


 チェチェックの路地裏で、その時が来るのを僕はじっと待っていた。


「ヤマモトめ、この僕に魔将杯で恥をかかせやがって……!」


 チェチェック領の代表学園を決める魔将杯予選で、魔法学園率いる僕ことMerlinはヤマモト率いるチェチェック貴族学園にコテンパンにやられてしまった……。


 特に、僕はヤマモト相手に最後まで引き下がらずに戦ったのだが、その結果、僕は相手の力量すら読めない愚か者という烙印を押されてしまうことになる。


 特に、僕を倒したチェチェック貴族学園が魔将杯を準優勝してから、その反応が顕著になった気がする。


 まさに道化の気分だ……。


 そして、その評価が定着したせいか、学園での僕の扱いは悪くなり、また冒険者ギルドではクラン・せんぷくに喧嘩を売る馬鹿だということで、まともに野良でパーティーすら組めない始末……。


 それもこれも……。


「全部ヤマモトが悪い……! ヤマモトを殺してやる……!」


 チェチェック貴族学園との対決の前に、ヤマモトの行動はつぶさに観察してきたため、ヤマモトの行動パターンはある程度把握してる……!


 普段はチェチェック貴族学園の中に籠もりきりで、ヤマモトはなかなか外に出てこないが、それでも週に一度はチェチェックの街へと繰り出して、古臭い珈琲専門店で珈琲を飲んでいるのを習慣化してるよな?


 そして、そのお供に狼男か、背の小さな女の子を連れてるのは調査済みなんだ……!


 そこを待ち伏せる……!


 そして、ヤマモトが通り掛かったところを狙って、僕の最大の切り札である【暗殺の刃ユニークスキル】を使ってやる……!


 僕の【暗殺の刃】は、どんな敵が相手であろうとも、耐性をぶち抜いて五割の確率で即死させるという不可視の弾丸を放つスキルだ。


 イメージでいうと、当たれば五割の確率で死ぬ空気鉄砲。


 射程は二十メートルくらい。


 空気鉄砲ほど短くはないが、かといって遠距離からの狙撃ができるような代物でもない。


 僕にとっては奥の手なので、大勢の目に触れる魔将杯予選では使えなかったが……。


 ヤマモトを暗殺するという目的でなら、十分に使えるユニークスキルだ……!


 これで、ヤマモトを見つけ次第、殺してやる……!


 そして、大々的に喧伝してやるんだ……!


 ヤマモトなんて大したことない!


 この僕の方が優れているんだぞ、と!


 …………。


 まぁ、デスゲームの中で人殺しを喧伝したりしたら、益々孤立する恐れがあるから、一応【蘇生薬】は用意したけど……。


 とにかく、コテンパンにやられた僕というイメージでなくて、ヤマモトにも勝つ僕という、そっちのイメージで上書きたい!


 そのためにも、ヤマモト……お前には僕の踏み台になってもらうぞ!


 …………。


 それにしても、ヤマモトの奴、早く通りかかってくれないかな……。


 ヤマモトたちが凱旋したという情報が飛び込んできてから、もう三日も路地裏で張り込んでるんだが……。


 いい加減、饐えた臭いが装備にこびりつきそうで、早くして欲しいんだが……。

 

「――いつものお店で魔将杯準優勝のお祝いを身内だけでしたいだなんて、ロウワンくんも律儀だねぇ。それにしても、こんな遅い時間にやるぐらいなら、日を改めた方が良くないかな?」

「いつものお店を貸し切りにするには、営業時間後じゃないとダメということで、この時間になってしまったみたいですよ?」

「あそこの珈琲店、割と常連さんに人気だもんねー。昔ながらのナポリタンを食べた後に、珈琲でナポリタンの味を流し込むのが至福というか……」

「ヤマモト様は、あそこのナポリタン好きですもんね。まぁ、それもあって、あのお店で祝賀会を開こうとロウワンさんが企画したみたいですけど――」


 ――来たっ!


 しかも、背の低い女が「ヤマモト様」と言っている!


 これはもうアイツがヤマモトで確定だろ!


 僕の潜む路地裏を奴らが通り過ぎていったところで僕は飛び出す。


 そして、僕は片手を前に突き出すと――、


「あぁっ!? ヤマモト様!?」

「……え?」


 ――何故か、ヤマモトがドロドロの肉塊になっているんだが!?


 いや、待て!?


 僕はまだ何もしていないぞ!?


 そして、そのまま光の粒子になって消えてしまうヤマモト……。


 えぇ……?


「ヤマモト様……」


 そして、ざわざわとし始めた人混みの中で、呆然と立ち尽くす女の子。


 もしかして、僕じゃなくて、あの女の子がやったのか……?


「もしかして、ですか!? つい、この間もやったばかりと聞いてますよ!?」


 いやいやいや! なんで、女の子の方がガチ切れしてるんだよ!?


 あと、人が肉塊になるなんてこと、そうそうあるわけないだろ!?


 何回もあるように言うなよ!?


 頭おかしいのか、コイツ!


「仕方ないので、また復活したところで祝勝会をやり直しましょうか……。それじゃあ、今日は私一人で祝われに行ってきますね、ヤマモト様……」


 そう言い残すと女の子は立ち去ってしまう。


 というか、


「人一人が死んでるのに、その反応はおかしいだろ!?」


 僕はそう叫んでから、【蘇生薬】を使おうとするけど……。


「【蘇生薬】が使えない!?」


 なんなんだよ、この状況!?


 本当に僕が狙ってたのはヤマモトだったのか!?


 もしかしたら、なんか変なイベントが発生してる!?


 クソ、どうする……?


 …………。


 いや、どうしようもないな。


「……帰ろう」


 こうして、僕は混乱する頭を抱えながら帰路についたのだった。


 えーと……。


 ヤマモトめ、次こそは……!


 ……でいいんだろうか?


 ■□■


本体キング視点】

 

 翌日――。


「大変やで、ヤマちゃん! ヤマちゃんがグズグズの肉塊になって死んだらしいで!」

「えぇ!? 私、グズグズの肉塊になって死んでるの!?」


 ■□■


【Merlin視点】


 翌日――。


「なんで、僕がヤマモト殺しの犯人になってるんだよ!? 誰だよ、掲示板に適当なこと書いたの!? むしろ、僕はヤマモトを蘇生させてやろうと…… って、ヤマモト殺し殺しのスレッド立てられてる!? 今度は僕が狙われるのかよ!? クソー! やっぱりヤマモトめ、覚えてろよ!?」




 ■□■


 新章始めました。


 第8章もよろしくお願いします。


 そして、宣伝。


 デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの3巻が電撃文庫様より、2025/1/10(金)に発売されます。


 興味お有りの方は是非とも手に取って頂ければと思います。m(_ _)m


 それでは、本年も残り僅かになってきましたが、頑張っていきましょー。


 

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