それは幸せな終わり方
「ねえ兄さん?」
「なんだ?」
長かった夏休みももうすぐ終わりを迎えようといった頃、既に夜も遅く辺りが寝静まった中で血染の声が聞こえた。
「すぅ……すぅ……」
右隣では俺に抱き着くようにして裸の真白が眠っており、その愛らしい寝顔はどんなに苛立った気分でさえ沈めさせてしまうような魅力を秘めている。
さて、そんな右隣の真白とは反対、つまり俺の左隣にはもちろん血染が引っ付くようにしているのだが、彼女もまた裸だった。
「寝てなかったんだ。寝てるかなと思って声を掛けたんだけど」
「残念だったな。バリバリ起きてた」
「そっか。えへへ、同じだね」
更に強く血染が抱き着いてくる。
お互いに裸なので肌と肌が触れ合い、何とも言えないくすぐったさを感じさせながら、同時に過ぎ去ったはずの興奮も僅かに戻ってくる。
「何を考えてるの? もしかしてさっきのこと?」
「……まあ思い返すよな。だってそれくらいに濃厚な時間だったんだし」
「そうだねぇ。初めてだもんね? 兄さんがあたしたち二人を同時に相手したの」
「意外とやれる……なんてことはなかったよ。マジで疲れた」
実は今日、俺は初めて血染と真白を同時に相手した。
どうしてそんな流れになったのかは……まああれだ、特にすることもなくて血染と真白を両腕に抱いて色々と悪戯というか、若気の至りのようなことをして……それで完全にスイッチが入った二人とそういう流れになったわけだ。
「けどさ。疲れはしたけど本当に凄かった……うん、天国のような時間だった」
「そっかぁ。まあでも、これから何度だって経験することになるよきっと」
それは……疲れはしてもやっぱり幸せなんだろうな。
別にそこまでの頻度で血染たちと体を重ねるわけではなく、本当にどちらかがしたくなったらサインを出すし、ただ見つめ合っていると自然とキスになって、それで体を触り出したらもう止まれないのだが……こうして彼女たちを体を重ねると、改めてこれが幸せな行為なんだなと再認識する。
「あははっ、もちろん兄さんとエッチしたりするのは幸せなんだけど、ただジッとしてるのも好きなんだぁ」
「奇遇だな。俺も同じだよ」
「ねぇ♪ 後は……そうだね。高校に入学してからまだ半年経たないのに、多くのことがあったなって思い返してた」
「……………」
血染にとっては本当に色々とあったはずだ。
環境の変化から多くの友人と出会い、決して浅くはない繋がりを経て、更にもっと真白との繋がりも強くなったはず……そして彼女はもっと強く、もっと逞しく成長した。
そして何より、自分の母親に彼女は想いを言葉にして伝えた。
それが多分一番の大きな出来事で、同時に血染にとって更に前に進む力になった出来事だったはずだ。
「正直さ、兄さんと一緒に居るだけで幸せなの。真白も居て……三人だけの世界なら何も要らないってそう思ってたの」
「うん」
「でも……そうじゃなかったんだなって。たくさんの繋がりはたくさんの楽しいや幸せを運んでくれて……それが全部、あたしの中で大切なモノに変わって……本当に兄さんに出会えて良かったって、この世界に生まれて良かったって心から思うの」
「そっか。俺もそんな血染たちに会えて最高だぞ!」
「きゃっ♪」
おっと、あまりうるさくして真白を起こすのもかわいそうだ。
俺と血染は少しだけ静かにしようかと互いに笑い合い、改めて今までの思い出を語り合う。
「こんなことを言うの何度目かって感じだけど、あたしは兄さんに会えなかったらどうなってたんだろうっていつも思うの。こうやって笑ってることなかっただろうし、幸せを感じることもなかったんだろうって」
「それは……俺もかな」
「え?」
「俺がもしもこの世界で大河にならなかったら……ここまで深い関係になれなかったかもしれないから」
「……………」
まあそうならないかもしれないが、それでも大河という立場だからこそ必然と血染と長く触れ合うことになったんだと思う。
そもそもどうにかしなければ命の危険があるとなれば、頑張らないわけにはいかないからな……そして何より、目の前で大好きな子が苦しんでいたら助けることに躊躇はないんだよ。
「あたし、本当に兄さんに会えて良かった」
「俺も血染と……はは、真白もだぞ? 会えてよかった」
「え?」
ジッと血染と反対側からの視線を感じた。
いつの間にか真白も起きており、血染とばかり話していたことに嫉妬したのかグッと足を強く絡めてきた。
「お兄様、血染、私を除け者にするなんて酷い」
「酷いって……真白は寝てたじゃんか」
「起こして」
「……全くこの子は」
困ったように血染は笑いながら、手を伸ばして真白の頭を撫でた。
しっかし……何だろうなこの状況、まさか現実で二人の美少女から裸で抱き着かれることが実現するとは正直思っていなかった。
まあ一緒に風呂に入ることもあるのでこれくらいは日常茶飯事と言えばそうなんだが、それでも血染が言ったように幸せを感じられる尊い瞬間だった。
「二人とも、これからもよろしくな。それこそ、大人になってからもずっとずっと傍に居てくれ。そして俺もずっと、二人を支えるために傍に居るから」
それこそが俺の決意であり、これから頑張らないといけない戦いだ。
「うん!」
「もちろん♪」
何があっても、愛する二人の妹と一緒なら大丈夫だ。
▽▼
それはとある公園での出来事だ。
二人の女の子が追いかけっこをしている中、片方の子が足を滑らせて転んだ。
「……うぅ!」
「大丈夫?」
二人の女の子は非常によく似ていた。
赤色の瞳は同じではあるものの、髪の色はそれぞれ綺麗な銀髪と黒髪だった。
転げてしまって膝を擦りむいた女の子だが、その子に一人の妙齢の女性が手を差し出した。
「全く、気を付けなさいと言ったでしょ? 立てる?」
「うん……ありがとう叔母さん」
女の子に声を掛けられた女性は無表情だが、その瞳からは確かな優しさが見て取れる。
「ほら、しっかりなさい。とはいえ、女の子だから痛みを耐えろとは言わないわ。泣きたかったら胸を貸してあげるから」
「ううん! 泣かない! だって私、ママたちみたいに強くなるもん!」
「うん! 強くなって、綺麗になって! それでパパをママたちからもらうの!」
「……二人とも、一旦叔母さんと話し合いましょうか」
無表情は綺麗に崩れ、必死に女の子たちに何かを言い聞かせる女性だった。
「あ! パパとママたちだ!」
「パパ~! ママ~!」
女の子たちは現れた夫婦の元に向かい、それぞれ二人の女性に抱き着く。
男性は元気だなと苦笑しながら歩いてきた。
「ご無沙汰しています。早速二人に会いに来たんですね」
「当然よ。孫の顔だものね」
「……なんか、その優しい部分がまだ慣れないというか」
「あなたもあの子と同じことを言うのかしら?」
「いえいえ! そんなことはないです!」
それから全員が合流した。
決して途切れない会話と絶えない笑顔、そこには何も不幸な要素が入り込まないと確信できる何かがあった。
「母さんまた小じわが増えた?」
「血染、それは失礼。本当のことでも言ったらダメなことがある」
「……あなたたち、良い度胸じゃないの」
「頼むから喧嘩はやめてくれよ」
その騒がしさはやはり温かさを秘めており、誰が見ても幸せで彩られている。
これこそが彼と彼女たちが辿り着いた未来、決められていた未来を否定し、自分たちの世界を勝ち取った彼らの物語だ。
【あとがき】
ということで、今作はこれで完結となりました!
続いてほしいという声は多かったのですが、ぶっちゃけもう書きたい出来事はほぼ書いてしまったので……それでグダグダ続くよりはって感じです。
一話から身内が死ぬようなお話でしたけど、みなさんに少しでもこの作品が面白かったと思っていただければ幸いです。
それでは二ヶ月くらいですかね、本当に読んでくださりありがとうございました。
色々と他にも作品を書いてますので、そちらも是非よろしくお願いします。
それではさようなら!
ヤンデレメインのラブコメゲームに転生したと思ったらヤバい子が妹になってしまった件 みょん @tsukasa1992
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