41話「映し出された恐怖」

 バルディア族の集落に来てから三日が経った。そろそろ修理も終わった頃ではないだろうか。

 俺たちは、ミナのフェイスを受け取る為に長老ディアングの家へと向かった。


「待っていた」


 家の扉を開けるなり、ディアングが木造のソファに腰掛けながら出迎えた。


「あ、どうも」


 俺はディアングに近付く。


「待たせたな。この集落はどうだ? 慣れたか?」

「はい、まぁ……。散策させてもらいました。ここでは魔物肉が貴重なんですね」

「そうだ……な」

「それに孤児が沢山いるんですね」


 俺が見た限り、孤児はあの盗人だけじゃなかった。そいつがいた先には路地に沢山の子供が座り込み、ゴミを漁ったり地べたで寝ていた。


「ふむ。戦争で両親を亡くした孤児が沢山いる。しかしここには、そやつらを助けてやれる資金も家もないのだ……」


 ディアングは凛々しい顔つきだが、どこか悲しそうに語り続けた。


「しかしミィたちも孤児たちを見捨てているわけではない。週に一度、炊き出しを開いたり、たまに集落の皆で食料を配ったりしているのだ」


 それでもあの子みたいに、どうしようもなくなって盗みを働いてしまう人もいるんだ……。

 可哀想だけど、俺にはどうする事も出来ない。ユニだって履いて捨てる程あるわけじゃないし。


 ディアングに釣られ、悲しい表情をしていると、ディアングは再び顔を上げ切り出した。


「すまん。お前たちが気に病む必要はない。これの話だが……」


 ディアングらおもむろに、ミナのフェイスを取り出すと、フェイスは元の力を取り戻したかのように宙を飛び回る。


「な、直ったのか!?」

「再び浮遊する力は取り戻す事が出来た。しかし――」

「さっそく見てみよう!」

「……」


 俺はディアングの言葉を遮り、ミナの復活したフェイスに手をかざしてみた。

 あの時と同じように――俺の試験の時にアルベルト試験官がやったようにやれば――見れるはずだ。


 するとフェイスの上部にホログラムとして映像が映し出される。


「やったぞ。ミナがどこに行ったのかわかッ――」


 途中まで見た俺は口を閉ざした。

 そこに映し出されていたのは、あの年樹洞窟の穴に落とされてからのミナの姿だった。

 それ以前の映像は復元出来ておらず、その先も途切れ途切れで大事な所が抜けているようだった。


『ふん。大人――くしてく――』


 途切れ途切れの映像の中で、眠っているミナの口を手で塞ぐ何もかの姿が映し出されていた。


「――ミナ!!」


 思わず叫ぶが、これは過去の映像だ。どうにもなるはずもなく、その後、ミナは謎の人物に担がれて……。


『くそっ――』


 謎の人物は何かを物凄い勢いで投げつけた。そこで映像は終わっていた。

 おそらく、フェイスを見つけた謎の人物は壊す為に投げつけたのだろう。

 ミナは謎の人物に連れ去られた……? どこに?


 俺は瞬きをする事も忘れ、絶望に満ち溢れた表情をしていた。するとディアングが口を開く。


「まずは全てを復元出来なかった事を詫びよう」

「いやいいんだ」


 小さく、ほとんど口を動かさずにそう言う。


「そして、映像に映っていた男――」

「――知ってるのかッ!?」


 食い気味にディアングに近寄る。

 俺の心臓は張り裂けそうだった。


 不安。


 何をされているかも、どこにいるかもわからない。生きているかさえも……。


「ふむ。あれはおそらくバル族だ」

「バル……族」


 俺は聞いた事のある種族名に、一瞬固まる。

 確かマルクが言っていた。バルディア族はバル族とディア族のハーフだって。

 もしかしてバルディア族もミナ誘拐に関わって……いる?

 いやでもバル族とディア族は敵対していて、バルディア族は迫害されて追いやられたはず……だよな。

 じゃあ、どういう事なんだ?


 俺は目玉をひん剥き、ディアングが座る目の前にある机に両手をつきながら、机を見つめる。

 自分の汗が机にゆっくりとこぼれ落ちるのを待つようにじっと動かず。


 色んな思考が駆け巡る。


 そんな中、俺の駆け巡る思考を破るようにディアングが口を開いた。


「……バルディア族の元となった種族だ。その手指の間に張られた伸びた皮膚、それに黄金と淡い青が折り重なった独特な鱗。間違いない……鱗人であるバル族だ」


 やっぱりそうなのか。


「そいつはどこにいる?」


 俺は一瞬にして人が変わったようにディアングを睨みつけた。

 別にディアングが悪いわけじゃない。


 だけど……。


「鱗人はミィたちと同じく海底で暮らす種族。しかしどこにいるかまでは特定出来ない。すまない」

「……」


 俺は無言でその場を立ち去ろうとディアングに背を向けた。


「リョウ、待つです」


 ルルが俺の後に続くように腕を掴んだ。


「リョウ、どこに行くですか。リョウの大事な人――」

「――ミナだ」

「ミナはどこにいるかわからないです。今出て行っても見つからないです」


 ルルは俺の腕を強く引っ張る。


「……」


 俺は足を止めた。


 確かにルルの言う通りだ。だけどここにいたってミナの場所がわかるわけでもない。

 じゃあどうすれば――


 やるせない気持ちが拳に力を入れ、肩に力が入る。


「ィギャァァァ!!」


 外が騒がしい。


「た、大変です! ディアング様! 奴らが来ました!!」

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