第90話 いちごの過去

そんな訳でアイドル運動会が始まり、司会の人がこの番組の説明をしている途中、ホムラは控え室にてネメシスといちご、特にネメシスからぐちぐちと言われていた。


「我がライバルよ貴様自分で言っていたよな?これは番組じゃなくて生放送だって?それで貴様は何をやったのだ?」

「え〜、そうですね……生放送中に推しのアイドルを見つけて、ちょっとだけ盛り上がりました」

「ちょっとなのだ?」

「少し……いや、結構盛り上がりました。すいません……」

「いちごはこのバカを見てどう思うのだ?自分で言った事を1分も経たないうちに破ったのを見て?」

「わ、私もホムラさんがいきなり大声で叫び始めたのは驚きました」

「その節は本当にすいませんでした。何の言い訳もございません。………………けど推しのアイドルが目の前にいたらしょうがなく無いか?」

「だからその自分が言った事を一瞬で破るのを辞めるのだ!!!」


そう言ってネメシスにホムラが追いかけられているのを見て笑っていたいちごだったが、ふと先程の3人組に言われた事を思い出し、少し上がっていた口角も落ち込みその表情からは笑みが消えた。


やっぱり私ってダメなんだな……


――――――

あれはまだ私が小学生の頃

私はダメな子だった。

私には双子の姉が1人いるのだが、その姉は顔はかわいく運動神経も徒競走でクラスで1番、勉強も毎回100点を取り学校では人気ものだった。

それに比べて私は顔は普通で運動神経も普通、勉強に至っては下から数えた方が早いぐらいだった。

そんな私は家で両親からよくダメな子と言われ、お腹を叩かれたりなんて毎日のことだった。

そんなダメな子な私は勿論学校でもお姉ちゃんと比べられ馬鹿にされて、学校に行くのも嫌になり自分の部屋に引きこもってしまった。

そのせいで余計に両親から疎まれ、お姉ちゃんにも「こんなダメな奴が妹だなんて恥ずかしいから早く   くれないかな〜♪」

なんて事も言われたりもした。


そんな事があり落ち込んでいた私にも唯一の楽しみがあった。

それはアイドルを見る事だ!

アイドルは優しくて綺麗でこんな私みたいなのにも笑顔を届けてくれて、そして何よりお姉ちゃん偽物なんかとは違い、本当にキラキラした人だったからだ。


「私もいつか……アイドルになれるかな?」


そんな考えを持ってからの私の行動は早かった。

パソコンで調べた所アイドルは特に体力が必要だったから、その日から走り込みを始めたり、他にも動画を見ながらのダンスレッスンや歌の練習、こんな事でへこたれてたらアイドルになれないと思い直して学校にも通い、そうして中学を卒業した所で、アイドルになる為に東京の学校へと進学する事にした。


それからは高校に通いながら数多のアイドル事務所に応募をしたり、ネットで自分の歌ってみたや踊ってみたなどを投稿したりしてみたがそのどれもが不発で、結局高校卒業までにアイドルになる夢は叶わなかった。

高校を卒業してからはフリーターをしながらアイドルを目指していたその時、私は本物のアイドル希望に出会ったのだ


「おっ!そこのお前!」

「……あっ、すみませんお会計でしょうか?」

「お会計?今はそんな事どうでも良いのだ!貴様アイドルに興味ないか?」

「え?アイドルですか?」

「そうとも!実はな我が僕が前に一度ここに来た際に貴様を見て、磨けば光原石を見つけたと言っていてな、奴がそんな事を言うのも珍しいと思って見に来てやったのだ!そして我もビビッときたから貴様を勧誘してやる!どうだ最高だろう?」


そう私に手を差し伸べて来た少女は、私よりも年下で何故かゴスロリと言われる様な服を着こなしていた、まさに私が憧れているアイドルそのものの姿をしていた。

そのせいかそれともアイドルになりたかったのか分からなかったが、私は無意識のうちにその少女の手を取っていたのだった。


そしてこれは後日知った事なのだが、私が手を取った相手は今をときめくスーパーアイドルの絶対無敵ガールネメシスさんだったのだ。


最近はアイドルになる為のレッスンばっかりだったとは言え、まさかそんな凄い人に気が付かない何て……私って本当にダメなのかな?


それから私はネメシスさんの事務所に所属する事となり、バイトと事務所でのレッスンの日々の辛くも楽しい毎日を過ごしているある日、ネメシスさんとマネージャーさんに連れられ、今後の為になるからとネメシスさんの出る番組の収録現場に向かった際に私はそこで、世界で1番出会いたく無い人に出会ってしまった。


「お、お姉ちゃん……」


幸いにもその場でお姉ちゃんに気が付かれることは無かったけど、それでもまだ見習いの私と違ってアイドルをやっている姉の姿を見て呼吸が乱れた。

折角アイドルになる為に東京にまで来たのに、そんな事お姉ちゃんでいちいち呼吸が乱れている自分のダメさ加減にまた落ち込んでしまった。


そしてそんな事がありながらもネメシスさんと同じ事務所に入ってから約1年後、いつもの様にレッスンをしているとマネージャーさんに声を掛けられた。


「いちごさん今少し時間よろしいですか?」

「あ、はい大丈夫です。それで本日はどうかしましたか?」

「いえあなたがここに所属し始めてから1年がだった事だし、そろそろ少し大きな舞台に立ってみないかしら?結構急な仕事だから無理強いはしないけど……」

「やります!是非やらせてください!」

「本当にいいの?内容聞く前に即答しちゃって」

「はい!いつもマネージャーさんが持って来てくれる仕事は、私にとってプラスになる事ばかりなので大丈夫です!」

「あなた本当に1人の時とそれ以外とで全然印象違うわね……それと私を信頼してくれるのは嬉しいけど、今度からはせめて仕事の内容を聞いてから答えて頂戴ね」


マネージャーは内心で1人の時の状態を常時発揮出来れば、もっと人気が出るのにもったいないと思いながら、いちごのスケジュールにアイドル大運動会と書き込んだ。


「そう言えばマネージャーさん結局その急ぎの仕事と言うのは何ですか?」

「あ〜それはね……まぁ明日にでもわかるんじゃないかな」

「ん?」


そんな風にマネージャーさんに軽く流された翌日、隣県の小さなデパートでのイベントを終え、事務所の入り口をくぐったところ、そこには数ヶ月ぶりに何故か汚れたゴスロリを着ているネメシスが居た。

そしてネメシスと目が合うと、ネメシスは何故か目を輝かせながらこちらへと勢いよく走って向かって来た。


「久しいな!確か……いちごだったか?今回は我がブレイブパーティーに加入してくれた事を感謝するぞ!」

「え?ブレイブ……なんですか?」

「いや〜本当に助かったぞ!これであとは我がライバルを懐柔するだけだな!」


そう言ってワハハと高笑いをするネメシスを見て、もしかして自分はやばい仕事を受けてしまったのでは?と思いネメシスに聞いてみた結果……


想像の10倍以上もの大きな舞台で、更には1人はうちの事務所のトップアイドルにして、今をときめくアイドルの絶対無敵ガールネメシスと、更にもう1人はネメシスさんが言うには、そんじょそこらのアイドルやモデルが勝てない見た目と身体スペックを持った、謎の一般男性で最近芸能関係で噂になっていた超大型企画、アイドル大運動会に出る事を知り、あまりの情報量に脳が処理出来ずに変な叫び声を上げながらその場で気を失ってしまったのだった。

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