第89話 開会式

会場に入るとそれは分厚い仮面越しでも分かるほどの歓声と、それと同時に俺達のチームが入った瞬間その歓声の中に少しの困惑の声も聞こえて来た。


まぁそれもそうだろう、何故なら俺達のチームメンバーはリーダーでもある今をときめく人気アイドルのゴスロリに、その後輩で殆ど知名度の無いいちごさんに、そして何より本当に何処の誰か分からないそれも変な仮面を被った不審者が、どちらが先頭を歩くかを揉めなが会場に入って来たら、それを見た者は当然困惑するだろう。


「おい!邪魔だぞ!ゴスロリ!」

「貴様こそ!例え我がライバルであろうとも先頭を譲る訳にはいかん!」

「あ、あの!お2人共その、恥ずかしいのでやめて下さい!」

「俺は今日自分の事務所の宣伝に来たんだ!だから俺が1番目立つ位置に居るのは当然だろう。それにお前は既に知名度あるんだからここぐらい譲ってくれたっていいだろ!」

「何をいうかと思えば!そんなこと知らん!我が覇道の前には何人たりとも居てはならんのだ!それに貴様が前に居ると邪魔で前が見えんのだ!」

「ハッすまんなw俺がお前と違って高身長スタイル抜群で。それならそうと言ってくれよ私はチビで前が見えないので順番変わって下さいってな!」

「何だと?そんなものこうしてしまえば関係ないのだ!」


そう言うとネメシスはホムラの背中に飛び乗り、そのまま肩の上までアイドル活動で培った身体能力でよじ登った。


「くそッ!何すんだゴスロリ!重い降りろ!」

「貴様!この世界で1番の美少女に重いとは何だ!」

「世界一の美少女はうちの妹だ!ボケカスが!いいから降りろって言ってんだよ!」

「ほ、ほんとにやめて下さいお二人とも!」


そんなこんなで俺達は自分達の持ち場に行くまでにその後も何かとやらかしながらも、若干一名を除いて無事に到着し、ゴスロリ俺いちごさんの順番で縦に並び、そしてその一名は、現在恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にさせながら床に座り込み顔を伏せていた。


その後もホムラとネメシスはしょうもない事で言い合い、その度にいちごが2人の後方であわあわしているうちに、いつの間にか他のメンバー達も集まり開会式が始まっていた。

流石の2人も開会式場では静かにしており、それぞれのチームのリーダーによる意気込みは流石は今をときめくアイドルだ、ネメシスが多分だが心にも無い綺麗事をドヤ顔で宣っていた。


そんなこんな俺たちが騒いでいると、それを聞いた隣の女性グループらしい3人組からクスクスと少し馬鹿にしたように笑った。


「ちょっとネメシスの所見てよw」

「うわ〜何あれ?ネメシスは知ってるけど他の2人って誰?」

「仮面の方は変だけど目立ってる分、もう1人よりかはマシよねw」


それが聞こえてしまったいちごが落ち込んでいるのを感じ取ったホムラとネメシスが、どうしたのかをいちごに聞こうとした所で2人の耳にも、隣の3人組の話が入って来た。

それを聞いたネメシスが怒り立ちあがろうとした所をホムラが肩を掴み静止した。


「我がライバルよ何をするのだ!」

「馬鹿かお前は?これは普通の番組じゃなくて生配信だぞ?いくら相手がお前の人気に嫉妬して、姑息な姑みたいな事しか出来ない奴らに手を出して、アイドル人生終了させてもいいのか?俺的にはそっちの方がいちごさんが嫌な思いすると思うけど?それに相手もどうせ俺レベルなんだから、アイドル界のトップのお前はそんな最底辺には慈愛の心を持ってやれよw」


煽られたからには煽り返さないのは無作法というもの……

という訳で3人組を横目に煽り返していると、その3人組の顔が茹蛸のように真っ赤になっているのを見て、後半からは半笑いになってしまった。


いや〜煽ってくる割には煽り耐性なさすぎだろ

ちょっとはうちのアンチどものメンタルを見習ったらどうだ?

ゴスロリもそうだけど本番中にこんな事するって、コイツらはアイドルとしての自覚が低いんじゃ無いのか?

それともアイドルは本番中に問題起こしても許されるのか?

あ、勿論俺は最初からゴスロリと喧嘩して周りの注目を集めたのは、最初っから目立つ為なので悪しからず。


そんな事を考え他のアイドル達の様子も気になり周りを見渡してみると、やはり分かっていたとは言え殆どアイドル知識の無い俺からしたら、誰がどんなアイドルグループで、どれだけ人気があるのか分からなかったが、明らかに1チームだけ周りから浮いているグループがあった。


何であいつら女装してるんだ?

それも似合ってないし、もしかしてアイドル以外にも芸人チームとかもあんのかな?

そうして次のチームに目を向けるとそこに居たのは……


「クライシク!!!」

「うわっビックリしたな!急に大声上げるんじゃ無いのだ」

「しょうがないだろ!だってあのクライシスだぞ?いちごさんも知ってるよね?クライシス」

「は、はい勿論知ってます」

「いや〜良いよねクライシス!あとでサイン貰いに行こっと!」


そんな訳でクライシスを見つけて1人盛り上がり出したホムラを落ち着かせようとしていると、いつの間にか2人の頭から失礼なアイドル達の事は抜け落ち、最終的にはホムラが盛り上がり過ぎて、開会式が終わった後でスタッフさんに叱られた。


「やっちまったぜ」


テヘッ★

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