「雲がわたあめなわけないだろ!」

 ギフテッドくんがこうなのは今に始まったことではない。

 あれはまだギフテッドくんが幼稚園児だった頃――


 昼間、幼稚園のみんなで砂場で遊んでいたとき、一人の園児が空を見上げてこう言った。

「あ、雲だ」

 すると他の園児たちも空を見て歓声を上げた。

「わー、きれいな雲だね!」

「わたあめみたい!」

 ここで一人の園児がソボクな疑問を口にした。

「雲って何でできてるのかなぁ……」

 すると他の園児たちは口々に、

「きっとわたあめだよ、おいしそうだし」

「いや、あれはでっかいわたが空を飛んでるんじゃないかな」

「アニメで見たけど、あれは空に浮いてる島らしい」

 などと言った。

 みんな分からないなりに無い知恵を絞って答えただけだったが、ギフテッドくんはあまりにも我慢ならなかったようで。

「……君らはバカか?」

 ギフテッドくんは作っていた砂のお城を放り出すと、みんなの前におどり出た。

「雲はわたあめでもわたでも島でもない! あれは水と氷の粒のカタマリなんだよ! そうでなかったら、どうして雲から雨が降るんだよ? 少しは考えろよ?」 

 ギフテッドくんは鼻息を荒げて熱弁をふるった。しかし彼の言い方が気に食わなかったのか、みんなは反発した。

「水や氷が空に浮かぶワケないだろ!」

「そーだそーだ!」

 ギフテッドくんも負けじと反論する。

「いや、目に見えないぐらい小さいんだよ。だから遠くからみるとわたあめみたいに見えるだけなんだって。大体雲がわたあめなわけないだろ?」

 しかし園児たちも負けてはいない。

「目に見えないものがあるなんて、どうして信じるんだよ?」

「お前こそバカだ」

 彼らはそう言ってフン、と笑った。散々な言われようにギフテッドくんも心もとなくなってきたのか、

「ウソじゃないんだ……、図鑑で読んだんだ……」

 そう言ってギュッと服のすそを握りしめ、涙をにじませた。

 するとそこに幼稚園の先生がやってきて、

「あ! またケンカして。も~、ダメでしょ、みんな仲良くしなきゃ」

 園児たちは一斉にギフテッドくんを指さした。

「アイツが先にケンカをふっかけてきたんだ」

「そーだそーだ!」

 この日のケンカはギフテッドくんのせいにされ、彼はいまだにこのことを根に持っているらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギフテッドくん。 中原恵一 @nakaharakch2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ