【短編】人形
大和あき
人形
「あ、やば…」
テレビを見ていたら、終わっていない課題があったことを僕は思い出して、思わず小さく声を出してしまう。
課題は、うさ耳がついたお人形を作ること。
なんともめんどくさい課題で、後回しにしてしまっていた。
普通の大学に通っていたら適当にやっていたか、そのまま放置していただろう。
しかし、僕は家政科の専門学生なのでそうもいかなかった。
今から急いで作れば提出には間に合うことを時計を見て確認する。
確か廊下にある押し入れの中にうさ耳がついている人形が入っていたはず…
僕はそう思って、押し入れを探すと、思ったよりすぐにそれがみつかった。
あの頃と変わらず、人形はサラサラな茶髪にぷっくりとした唇、ガラスの大きな瞳、フリルのついたドレスで着飾っていた。
僕は小さいころこの人形が大好きだった。
ハルちゃんと名付ける程。
男の子なのに、と言われることも多かったが僕がこうして家政科の専門学校に通うことになった原点に、この人形は確かにいたのだった。
僕はその人形を抱え、畳の部屋にもっていき、作業を開始した。人形を見ながら型紙を作り、兄に裁断を手伝ってもらう。
一区切りついたところで、一旦置いておこうと自分の部屋にもっていった。
昔と同じように窓の前にある棚に置いてみてみると、可愛いけどどこか奇妙でもあって、今にも動き出しそうなガラス玉の目が怖くなった僕は、カーテンで覆うように隠した。
翌日、自分の部屋で作業をしていたら、視線が僕に向けられている気がした。
人形のことを意識しているから感じてしまうんだ。
そう思って気にしないようにしていたけれど、我慢しながら作業し、ふとあることに気づく。
あれ…あの人形、うさ耳なんてついていたか?
僕の記憶の中にある人形は、うさ耳はついていなかった。
でも、うさ耳がついていたはずと思いながら押し入れから出したし、作業の間もなんも疑問に思わなかったはずだ。
僕はとうとう我慢できずに振り返ってしまった。
僕がついていると思っていた白いうさ耳は、ついていなかった。
僕が閉めていると思っていたカーテンも、開いていた。
人形は僕が座らせた棚の上で、キョロキョロとガラスの目だけ動かして辺りを見回していた。
僕は背筋が凍るのを感じながら、目を合わせないようすぐさま前を向く。
二度目、見たら目を合わせてしまうかもしれない。
僕は一度も後ろを見ずに部屋を出た。
夜。
部屋を空けている間、気が気じゃなかった。
僕が部屋を開けた瞬間、襲ってくるかもしれない。
いや、もしかしたらもう部屋から出て、凶器でも探している可能性もある。
鏡を見たらいるなんてことも…。
僕は今日一日ありとあらゆるホラー展開を予測して行動し、何もない度にほっと息をついた。
そしてついに、僕はあることを決心したのだった。
あいつをもう一度押し入れの中に封印する。
捨てたりなんかしたら戻ってきて逆襲してくるかもしれない、それを考慮して導き出した考えだった。
僕は意を決して部屋のドアノブに手をかける。
もし目の前にアレがいたら、このカッターで対抗しよう。
そう思いながらゆっくりとドアを開けると…
いつもと変わらない表情で、僕が座らせた場所でそいつは座っていた。
ひとまず大丈夫そうだ。
しかし油断は禁物だ。
内心びくびくしながらそいつを手に取り、僕は押し入れの前に持っていく。
もしかしたら動き出して暴れるかもしれないという思いから人形に一言、
「ごめんね」と言って首を絞めて無理やり突っ込んだ。
人形は苦しそうな顔をしていた。
【短編】人形 大和あき @yamato_aki06
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
嫌いになったら明日。/大和あき
★13 エッセイ・ノンフィクション 連載中 24話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます