Rev 2 : 運命
遺跡から出た2人は一度、基地に戻った。
本部に通信を取り、避難経路を確認する。
「【地球】に帰還せよ。経路は以下の通りだ。この辺りであれば、戦争に巻き込まれることはない。」
「ちょっと待ってくれ!いきなり宇宙戦争って言われてもピンとこないのだが、どういうことか説明してくれ!」
一刻も避難したいソウを横目に、ヨウは状況を確認する。
「こちらも詳しい事情はわからない。ただ噂によれば、各国が内密に行っていたプロジェクトが今実行されたということだ。」
「プロジェクト?」
「そんな話は戻ってから聞けばいいだろ!ヨウ!ここも戦場になるんだ!早く逃げないと!」
ソウに急かされて、彼らは本部と通信を切る。
そして指定された経路を【DOJI】で確認すると、彼らは【シュテン】を離れた。
二機の【DOJI】は上昇する。あたりは【地球】と同じような空と雲に覆われていたが、やがて暗黒の世界に誘われた。
「…ここからでも見える。あれ、戦闘用の【DOJI】だ…」
この宇宙に似つかわしくない、点滅した物体がいくつも確認できる。本当に戦争は始まってしまったのだ。
「とにかく気付かれないように、予定通り周り道するぞ。」
その時だった。
突然こちらに一本の光が飛んできた。
その光はヨウの搭乗する【DOJI】に被弾した。
「ヨウ!!!!」
被弾した人型ロボットは、そのまま落下した。
それを追うように、もう一機のロボットも続いた。
二機は【シュテン】に落ちた。その衝撃で、ヨウの搭乗する【DOJI】はかなりのダメージをくらい、飛行が困難になった。
「ヨウ!聞こえるか?ヨウ!!」
「聞こえるよ…」
幸いにも被弾したところがコックピットではなかったこともあり、ヨウは一命を取り留めた。
「どうする?【地球帰還】は難しいかも…」
【DOJI】は1人乗りである。2人用ではないため、2人で搭乗するのは危険である。
だからといって、修理することもできない。
「応援要請しよう。まだここからなら届くかもしれない。」
そう言うと、ソウは中枢部の通信を使用した。しかし、このエリアはすでに
「っ!どうすりゃいいんだよ!」
ソウは崩れ落ちた。そのそばにヨウが駆け寄った。
「ソウ、お前だけでも逃げろ。」
「嫌だ!」
「お前だけでも帰還できれば、助けを呼べるかもしれないだろ!」
これが無謀であることは2人には分かっていた。ここから【地球】に帰還するのには、最短でも二週間はかかる。さらに、今回は遠回りするため、それ以上かかるだろう。
それに加えて、先ほどの被弾から、戦場は思っていたよりもはるかに高速で、こちらに接近している。
「2人で死ぬなんてダメだ。両親を悲しませてしまう。それに、せっかく見つけたこの文明をこのままにしたくない。」
そう説得されても、兄は弟の意見を受け入れることはできなかった。
ソウの額から、赤い液体が流れ落ちる。それは、先ほどの拾った短剣に落ちた。
すると不思議なことに、あたりは光に包まれた。
(なんだ!?)
−其方らの望みはなんだ?
(望み?)
−再び宇宙は危機を迎えようとしている。もし其方らがそれを止めることができるのであれば、この力、喜んで其方らに託したい
「俺たちが…宇宙の危機を止める?」
「一体どういうことだ?」
力とはなんだ?それは今、この状況を打開できるものなのか?
ただ、迷っている暇はない。
「わかった!誓うよ!俺らは、宇宙を救ってやる!だから、俺たちを助けてくれ!」
2人はそう言った。
それを聞き入れた力は喜び、短剣と腕輪がそれぞれ光出した。
するとその光が【DOJI】に移り、先ほどまで壊れていた部分が元通りになった。
そして元通りになるだけではなく、ソウにはナックルが、ヨウには2本の刀剣が授けられた。
−宇宙の運命、其方らに預けたぞ!
2人はゆっくり頷いた。
予定通り、二機は遠回りに【地球】へ向かった。
「この力、どう使うんだろうな?」
「さぁ。まぁそのうちなんかわかるだろう。」
「でも、せっかく【シュテン】の人?が助けてくれたのに、あの惑星を見過ごしていいのかな?」
確かに、と兄は頷いた。
一旦帰還した後、もう一度【シュテン】に向かおう。
「おい、貴様ら!何者だ?」
突如、2人の前に複数の戦艦が現れた。そしてその戦艦から、戦闘用【DOJI】が数台送り込まれた。
「俺たちは、宇宙遺跡調査員です。今回研修のため、【シュテン】におり、現在【地球】に帰還途中になります。」
兄は彼らの無線に応えた。
しばらくして、また向こうから無線が入った。
「その武器はなんだ?調査員の使用する【DOJI】にはない装備のはずだが?」
2人は困惑した。この装備は収納することができなかったため、そのままにしていたのだ。
「これは…訳あって装備しています。」
「訳あってだと?現在、いかなる場合でも【DOJI】に武器を搭載することは禁止である。」
そう言うと、首領であろう男の声は一度止まる。そしてこれまでより覇気のある声音でこう言った。
「ただ、戦闘する時は例外だがな!!」
その発言をきっかけに、彼らは一斉に銃口を向けた。
「ちょっと待ってくれ!本当に誤解なんだって!」
戦闘する意思がないことを表現するため、2人は両手を挙げた。しかしそれは受け入れてもらえなかった。
双子は悟った。今、戦場と化しているこの宇宙では、何を言っても無駄だと言うことを。武器を装備した【DOJI】はもはや戦闘機であった。
「さようなら、宇宙遺跡調査員ども!」
そう言うと、一斉に射撃する。先ほどのヨウに被弾したものと同様のビームである。
絶体絶命の時だった。
ソウのナックルと、ヨウの刀剣が光出す。すると突然目の前に、光のシールドが現れ、ビームを受け止めた。
「これが【シュテン】の力…なのか?」
「これならいける!ここを突破できる!」
2人はそのシールドを正面を囲うように展開した。そして【DOJI】を戦闘用モードに変更し、ビームの中を突破した。
彼らの戦闘技術は訓練レベルである。【DOJI】を扱う上で、探査用モードと戦闘用モードのどちらもマスターしないと合格できないため、操縦方法は知っている。
戦闘用モードは探査用モードと異なり、簡易的なビーム砲が備え付けられている。これはあくまでも、土砂や障害物を破壊するための装置であり、決して戦闘用ではない。戦闘用モードと呼ばれているのは、かつてこの機体が戦闘機だったことの名残りであるだけで、戦闘技術はない。しかし探査用モードよりも、幾分スマートになることから、高速移動する場合に便利である。
このことを思い出し、2人は戦闘用モードに切り替えたのだ。
二機の【DOJI】はビームの嵐の中、無傷で突破した。
「させるかー!」
二、三機が背中に装備された斧を取り出して、こちらに向かってきた。
「こうなったら戦うしかないか!」
2人はシールドを小さくし、戦闘態勢に入る。
ソウはシールドで斧をとめ、両腕に備わったナックルで殴りかかる。ヨウは二刀流で、相手の技を受け流した。
どちらも【シュテン】の力のサポートのおかげで、自分らより多い数の敵兵を撃退することができた。
そして相手の攻撃が収まる隙をつき、戦艦を横切った。
「…貴様ら、覚えておけ!次会った時は叩きのめす!」
向こうの首領であろう声が無線で届いたが、2人は振り向きもせず通り過ぎた。
「フランダー!なぜ私を止めたのだ!」
「これ以上の追跡は無駄だと判断したまでです。それに…」
「それになんだ!」
癇癪を起こした上官の機嫌も伺わず、フランダーと呼ばれた男はこう応えた。
「あの力、只者ではない気がします。何か事情がある気がするのです。」
上官は彼の言葉を聞き終わるよりも早く、退出してしまった。それを見て、周りの部下はそっと肩を撫で下ろした。
(あの2人…いずれまた会える気がする。なぜかはわからないが、私にはそんな気がしてならないのだ。)
「以上が惑星【シュテン】での報告になります。」
無事双子は【地球】に辿り着き、ここまでの経緯を報告した。
「まさか【シュテン】に古代文明があるとは…なかなか興味深い情報を収集した。だが、残念なのはその遺跡は今頃、戦火の中ということだ。」
「そのことなのですが…」
ソウは一息呑み込んだ後、はっきりとした声音で要請した。
「俺たちをもう一度【シュテン】に向かわせてください!」
「…!!」
あたり一体は沈黙した。
彼らの話によれば、【シュテン】の力というものがあるおかげで、無事帰還できたという。そしてこの力が何なのか知りたいということ、そして託された使命を果たしたいという思いが、もう一度あの惑星に向かわせる動機だという。
「すぐに許可はできない。一度上と相談させてほしい。」
「それじゃあ間に合わない!もう戦いはすぐそばなんだ!あのままだとすぐ【シュテン】も落ちちまう!」
2人の要求を聞かぬまま、上官は去っていった。
「どうするか?」
「少しだけ待とう。もしかしたら許可が出るかも?」
意外にも2人の要求はすぐ採用された。
喜んだ2人は、早速【DOJI】を整備し、2人宇宙へと旅立った。
「意外でした。まさか上が二つ返事で承諾するとは…」
「いや、実は報告していないのだ。」
「はっ?」
部下にそう伝えると、上官は踵を返しルームを後にした。
(ついに、適格者が現れたのか。しかもまさか私の部下だとは…。【シュテン】め、最高のプレゼントを残してくれたものだ。)
彼はその場でひとり笑い続けた。
「これでまた【シュテン】にいけるな!」
「しかもこの力があれば、戦争に巻き込まれても、ある程度は自己防衛できるし。」
二機の【DOJI】はハイタッチし、再び紅の惑星へと飛び立つのだった。
Fin
シュテンヒーロー 〜Prologue〜 名瀬きわの @kiwano
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