Rev 1 : シュテン
惑星【シュテン】にたどり着いた二機の人型ロボット【DOJI】は無事着陸した。
【DOJI】のパイロットのひとりダイモン=ソウは、早速機体から飛び降り辺りを見渡した。
そして、あたりに何もいないことを確認すると、ヘルメットを外す。
ここ【シュテン】は、紅く輝く美しい惑星である。現在人間が多く暮らす【地球】という蒼く輝く美しい惑星と対なる惑星として発見されて以来、この惑星の調査は飛躍的に進んだ。
その結果、空気や環境も【地球】とほとんど同じことが判明した。唯一異なるのは、草木が一切なく、赤茶色の土一色で染まった壮大な大地だということだ。この土は特殊で、植物の代わりに光合成をし、あたりに酸素を排出している。
「おい!ヨウ!お前も降りて見てみろよ!」
「分かってるって!」
ソウにせかされて、もう一機の【DOJI】からひとりの青年が飛び降りた。
「俺たち、マジでラッキーだぜ!まさか【シュテン】の調査員に選ばれるなんてよ。」
2人はハイタッチした。
彼らダイモン=ソウとヨウは双子の兄弟である。
小さい頃から共に、宇宙の遺跡調査員に憧れ、切磋琢磨しながら士官学校を卒業し、初の現地調査としてこの【シュテン】の遺跡調査を任されたのだ。
「【シュテン】といえば、遺跡調査員の憧れ。今注目の惑星であり、まだまだ未発見の遺跡も多いって話だぜ。」
「それな!てことは、まだ誰も知らないお宝とか発見しちゃったりして!」
2人は持参した軽食を食べながら、調査への熱い想いをぶつけ合った。
小腹が満たされると、2人は【DOJI】に戻り、すでに開拓されたエリアに向かった。
このエリアは、遺跡調査員らによって開拓された基地である。基地といっても、そこまで広いわけではなく、必要な物資や【DOJI】のエネルギー保管庫、休憩室といった最低限の設備があるだけのエリアである。
彼らは【DOJI】を専用保管庫にセットし、必要な物資を詰めた。そのあとは、中枢部に向かい現状を上官に報告した。
「ダイモン=ソウ、ヨウ。無事【シュテン】に到着いたしました。」
《2人とも、無事到着できて何よりだ。早く調査したい気持ちはあると思うが、今日は休みなさい。明日から調査を開始せよ。以上だ》
「
報告を終えると、2人は顔を見合わせた。
「ヨウ、お前ニヤニヤしすぎだろ。」
「いや、ソウの方がニヤニヤしてるって。」
早く調査したい気持ちを抑え、2人は休憩室に向かった。
休憩室には何個か2段ベッドがあった。
2人は贅沢に1人ひとつの2段ベッドを使用した。
ただ小さい頃からの癖で、ソウは2段目、ヨウは1段目に横になった。小さい頃、ふたりは2段ベッドで寝ていて、兄が上、弟が下であったため、その感覚が今も抜けていない。
「なぁ、ソウ。」
「なんだよ、早く寝ろよ。」
「何でだよ。」
「寝ないと、明日来ないだろ。」
「…」
ヨウはため息をついてから、改めて口を開いた。
「この惑星が何で【シュテン】って言われてるか知ってるか?」
「いや?」
ソウが寝返りを打つ。そうすると少し古びた2段ベッドが軋んだ。
「この惑星を発見した人が、ここで【鬼】と出会ったんだってよ。ほら、日本って国あっただろ?昔。そこに出てくる鬼、酒呑童子から名付けたらしい。」
「へー、詳しいな。」
「まぁね。」
ヨウも寝返りを打つ。再び休憩室には、ベッドの軋む音が響いた。
「もしさ、鬼にあったらどうする?」
「どうするって…」
弟の突拍子もない例え話に驚いたが、少し考えたあと兄は答えた。
「仲良くなる。」
「本気かよ。」
「だって鬼って言われたって、悪いやつかどうかなんてわからないだろ?なら味方につけようぜ。強そうじゃん。」
「こっちが先に殺されそうだけどな。」
弟が弟なら兄は兄である。幸か不幸か、ここには彼ら以外に人はいなかったので、誰も彼らを止めたりはしなかった。
「じゃあ、ヨウはどうすんだよ。」
「…わかんない。」
「何だよ、それ。」
質問するなら答えくらい用意しておけよ、と伝えると、ソウは瞳を閉じた。
この惑星には【鬼】がいるかもしれない。馬鹿馬鹿しい。ただもしも鬼のような存在がいたとしたらどうするだろうか?
翌日、彼らは【DOJI】に乗り、周辺調査を開始した。
この【DOJI】という人型ロボットは、元は戦闘機として開発されたものである。今から1000年前、惑星【地球】で起きた世界戦争は、やがて宇宙規模になった。そこで宇宙空間でも戦闘を行うことを可能にするため、この【DOJI】が開発された。
ただ現在はこの戦争が鎮火し、役目を無くした人型ロボットを再活用する目的で、あらゆる技術に回された。その一つが、この宇宙遺跡調査員用の探査ロボットである。
《おい!ヨウ!来てくれ!》
ヨウ向けに通信が入る。なんだよ、と言いながらソウいる方角に移動した。
「これ、洞窟だよな?こんなの事前資料の地図にあったか?」
「いや、知らんなー」
洞窟は【DOJI】が通れるほどの大きさである。こんな洞窟があれば誰だって気づくはず。少なくとも、洞窟は遺跡調査員のロマンだ。見逃すはずがない。
「何かありそうだな。」
「だな。」
2人は【DOJI】に乗ったまま、その洞窟に入っていった。
平衡感覚的に、どんどん降っているのがわかる。一方通行であり、分かれ道はない。
「待て!」
ソウが停止した。そして、右側の壁を見る。
「ここに、何か描かれているように見えるんだが…」
「たしかに!」
壁の埃を取り払うと、不思議な絵が浮かび上がった。
「壁画か!もしかして、この惑星には文明があったのか!?」
「かもしれないな。」
ただその壁画はだいぶ古びていて、所々削れている。部分的にわかるのは、真ん中の方に描かれた丸と棒である。それを何か光のようなもので囲われていて、その隣には何か描かれていたが、上から黒く塗りつぶされている。
「この塗りつぶされている部分だけど、これ多分この壁画が描かれてから、だいぶ後に書き加えられた感じがするな。」
「何で壁画に落書きするかなー」
これらの壁画はさらに奥に続いており、文字のようなものも発見した。しかし、どの文字もこれまでの古代文字には該当しなかった。
「俺たち、すごいもの発見しちまったな!」
「だな。これは一回持ち帰って、報告しよう。」
その時だった。
急に地響きが続き、洞窟が崩れ始めた。すると来た道を塞ぐように、岩が崩れ落ちた。
2人は何とか崩落に巻き込まれずに済んだが、出口は塞がれてしまった。
「おいおい。これじゃあ、帰れないぞ…」
「【DOJI】を戦闘用モードに切り替えるか?」
「いや、この地盤がどれくらいなのかがわからない今、下手に衝撃を加えると、かえって危険かもしれない。」
このままここにいてもしょうがない。帰る方法はまた後で考えようとソウがいうと、ヨウも頷いた。そして2人は、さらに奥に進んだ。
「【鬼】の仕業かな?俺たち、やばいもの知っちゃったんじゃない?」
「それで祟りか?」
「そんなところ。」
冗談が冗談に聞こえず、2人の空気は気まずくなった。
すると【DOJI】内にいるはずの、2人にふわりと風が吹き抜けた。
––ここに来てはいけない
––よくぞ、ここに現れたな
––早く引き返せ!さもなくば…
––さぁ受け取りたまえ!わが魂…
その風は声のようだった。そして何故か反発し合っているように聞こえた。
「おいおい、オカルトは勘弁だぞ。俺は考古学は好きだけど、オカルトやホラーにはめっぽう弱いんだよ。」
「いや、俺もだよ!」
どうやら2人とも同じ声が聞こえたようだ。
そして、その声に導かれるように、二機の【DOJI】はさらに奥へと進んだ。
「目の前に光が見えてきたぞ。」
「出口か?」
しかしその光は出口ではなく、ある広間から漏れていたものであった。しかもその光はライトではなく、広間の真ん中にある玉座に埋まっている宝石から出ているものだった。
「間違いない。ここには確かに文明があったんだ。」
周辺に
その玉座には、短剣と腕輪が置かれていた。
「かつての王様か何かが身に付けてたものか?」
2人は【DOJI】から降りて、その玉座にある短剣と腕輪に触れた。
するとそれらは光りだし、彼らの脳内にヴィジョンのようなものを映し出した。
(おい、これはなんだ?)
(ヨウも同じものを見ているのか?)
(あぁ)
この遺跡の過去の記憶だろうか?
赤茶色の大地に火柱が立っている。辺り一面に広がる炎によって、住宅からビルまで粉々になっている。
人々が、隊員の誘導をうけて、戦艦に搭乗している。その戦艦は複数あり、この大地を離れて行く。
ひとりの男がいる。彼は周りに説得されているようだったが、それを無視して姿を消す。
彼は玉座の前にいる。
(さっきのやつと同じだ!)
そこに短剣と腕輪を置いた。そして再び姿を消し、それ以降姿を表すことはなかった。
しばらくして別の男が現れた。
その男は驚愕している様子で、執拗に壁を傷つけていた。
ソウとヨウは我に帰った。息が荒い。
今のはなんだ?この遺跡に刻まれた記憶か?
「二番目に出てきた男、あいつがあの壁画を汚したってことか…一体なんのために?」
「おい、そんなこと言ってる場合じゃない!」
ヨウはやっと繋がった無線を聞いて、表情を曇らせた。
「また、宇宙戦争が勃発し始めたって…」
「嘘だろ?ここ何百年もなかったのに!なんで今頃?」
「わからない。ただ上官から【シュテン】が戦争に巻き込まれるかもしれないから、直ちに避難するようにと。」
冗談じゃないとソウは悪態をついた。これでは歴史の繰り返しではないか!また人々が無意味に傷つけ合うだけの、悲しい歴史を刻むことになる。
「せっかく、【シュテン】についてわかりそうだったのに…」
戦争に巻き込まれるということは、このエリアも無事では済まないだろう。
「せめてこれだけでも持って帰ろうぜ。」
そういうと、ソウは腕輪を、ヨウは短剣を手にし【DOJI】に戻った。
すると不思議なことに、先ほどまでなかったはずの出口が現れたのだ。
「ここから退避しよう!」
そう言って、彼らはこの場から離れた。
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