第八十四話 報告会前の一悶着
空気が重苦しい。以前の顔合わせの時と違い今日の報告会は余程重要な内容なのだろう。出席者の面持ちも以前より険しい。部屋が静まりかえっているせいか、約一名だけ足で小刻みに音を立てていてるのが妙に気になってしまう。
その人は大忌の松様であり、卓に肩肘を付き会合の開始をまだまだかと耐えかねているようで、段々と音が大きくしている。
部屋が狭いから余計に響くんだよね……ほんと辞めて欲しい。
「……大忌、皆集まっているのだ。少しは落ち着いたらどうだ?」
「……あん? こんな短い間隔で集合が再度かかるなんて面倒だろうが。俺は妖をやりたいんだよ。神楽、どうせ大した内容じゃないんだろ? ささっと始めて終わらせようぜ」
「大した内容じゃないのであれば、五統家が集まることはないのですよ。今日の議題は外部には絶対に漏らせないような内容なのです。主様を待ちましょう」
見ているこっちの胃が痛くなるようなやり取りである。
普通に考えれば、杏様の言った通り大した内容でなければ主要人物が集まることはないだろうに、なぜこうも悪態をつくのか私にはとても理解ができない。
うん? 今日も御厨の当主様は不在のようだ。お目にかかりたいと思っていたけれど、少し残念。
今にも争いが起きそうな中、宮路の槙様は我関せずといった態度で眼を閉じて主様を待っている。対して氏神の蓮華様は楽しそうに成り行きを見守りつつ動き出す。この方は義姉様以上の壕の者かもしれない。——なぜかと言われれば、この状況に野次を飛ばしているからである。
「ははっ、ほんとお前たちのやり取りはいつ見ても楽しいさな。ほれ、もっとやれやれ」
「母様、皆が集まっている場です。どうかことを大きくしないで下さい。皆さま我が当主が失礼を致し申し訳ありません」
義姉様が止めに入っているけれど、いつもの態度とは全く違った余所行きな感じで、新鮮身があって目を見張るものがある。義姉様もやれば出来るのだな。っと感心してやり取りと傍観していると鋭い視線を感じそちらを見る……
――お前失礼なこと考えているだろう? あとで覚えてろよ?っと義姉様は口の動きと満面の笑顔で迎えてくれていた。会合終わったらささっと逃げよう。そうしましょう! そっと目を反らし何事もなかったかのように視線を落とす。
和やかな? 物騒な雰囲気が漂う中、入口の扉が音を立ってて開く。
その一瞬で場の空気が静寂に包まれ各員決められた席へと無駄な動きも無く着席する。
不謹慎だけど、この何の前触れもなく皆が一様に席につくこの一連の動きは感動を通り越して、異様であるのだけど笑いそうになってしまう。
「き、桔梗様、お気持ちはわかりますが主様が来られました。我慢してくださいね」
「わ、わかっています。梅も堪えているではないですか……もう」
この流れに慣れていないのは梅も同様で堪えているのが動揺から手に通るようにわかる。これに慣れるにはまだまだ時間がかかりそうだな……
「皆、待たせたね。薊から重要な報告があると一報を貰ったので、五統家の当主に集まって貰った。この議題は最重要であり、外部に漏らすことを固く禁ずる。
今回、当事者と関連の情報をもつ、桔梗、梅、神奈を同席することは私が許可した。御厨の当主は多忙な為、杏が代行してくれることとなる」
こうして報告会が開始される。
この会合の狙いそれは裏切り者に揺さぶりをかけることであると知ったのは、だいぶ先の話である。
桔梗話譚 ~花のしらべ~ 文月 和奏 @fumitukiwakana
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