第3話
今日は初めて「お客」を取る日だ。
店には入店時間の2時間前に、出勤確認の電話をするよう指示されていた。
正午から入ることになっているから、出勤連絡は午前10時だ。
さゆみは同居している母親の目を盗んで携帯から電話した。
「おはようございます。さゆみです。本日からよろしくお願い致します」
すると店長のアライが電話口で
「さゆみさん、本日全て予約でいっぱいです。ご出勤お待ちしております」
そう言って電話を切った。
え?予約?こっちは何の告知もしてないのに?
写真が流れてはいないか、ちゃんとチェックした。店のホームページには女の子の写真はぼかして掲載される。
知り合いや会社の人間がたまたま来ることはない。なぜなら店のある場所が、都心から離れていることと、ステイタスを大事にする男が多い会社の中で同僚がおばさんのフーゾク嬢を買うことはないと判断した。
さゆみは20代の頃、クラブやスタンドでバイトをしていた経験がある。
その時、とにかくヤクザにモテた。
ヤクザのお兄さんはさゆみを調べ、当時通っていた大学のことも両親、兄弟のことも調べ上げ、さゆみは関係を迫られたことがあった。
「おまえの親父さん、社長しとるんやな。今厳しいやろ。
わしなら、おまえに言い値を出せる。
な、俺の女にならんか」
20歳そこらの小娘にヤクザとはいえ、トップにいる人が自分のことを調べあげている。
その事実はさゆみを高揚させた。
「社長、そんなに私のことが好きなんですか?
かわいい。嬉しい。お金かけて私のため調べたの?
聞いてくれたらしゃべったのに」
こう言って瞳を潤ませたら、彼は逆にちょっと引いていた。
勝った、そう思った。
その人はヨシシゲと言っていた。
さゆみも見た目は悪くはないが、さゆみも霞むほどモデル級の女性がヨシシゲの周りには大勢いた。
ヨシシゲに誘われて同伴した店も、ヨシシゲを見るなりグラビアアイドルクラスの女性が寄ってきた。
さゆみは他の女子のように、従順ではなかった。
秘書という肩書きの本物の愛人とは肉体関係はあっただろう。そんな愛人の女の子からも相談されるような妙な立場になってしまっていた。
もう少し若いときは道端で拉致され、レイプ未遂になったこともあった。
見た目が異常に年若く見えるため、舐めてかかられることも多かった。
だいたい1人でさゆみを拉致するやつはいない。
さゆみは幼い顔立ちだ。しかし気の強そうな目を利用して、いつも強気の出立ちをしていた。
バックに誰かいるかも、を匂わせることも身を守る一つの方法だった。
拉致された時は、殺されるかもしれないと思った。
今死ぬなら、拉致した男たちに
最高の女の「喜び」を教えてもらいながら死ぬならそれもよいと考えた。
気持ちよく、させてくれるんでしょう?と言ったら、男たちは必ず一歩引いてしまう。
だいたいは初戦は先輩の男がくる。後輩より粗末なことの方が多い。
まさか、少女のような顔立ちの女に逆に恥をかかされてしまう。
そうなると先輩男は萎えてしまい、知らない場所に捨てられてしまう、そんなこともあった。
そんなさゆみが、ホテトルという本番なしの店に入り、業界未経験だからといって、うやむやに本番行為をさせることはない。
うまくごまかして、ができない性分だ。だめなものはだめ、いやのものはだめ、なのだ。
初めての客は、業界初、に引かれて、うまくいけばソープより安くやれるかも、の期待できた客だった。
新人荒らし、のような男性客は多いらしい。
しつこく入れたい、とかさゆみちゃんもしたいでしょ?とか言ってくる
そんな余裕もなければ、したくもない。
初日はすでに予約が5名、この後4人の初めて会う男性にサービスしなきゃならない。
最後までするなら、最初からソープランドに行ってます。
あまりのしつこさに、お店に連絡しますよ、と言ったら
それだけはやめて、出禁になる、と懇願してくる。
こっちも覚えたばかりの初素股でサービス。フィニッシュへ持っていった。
裸でイチャイチャするだけでもすごいことなのに。その客は最後までぶつぶつと文句を言っていた。
もし初日にこんな客ばかりだとしんどいな、と思いながら店の前で手を振り別れた。
今日はありがとう。じゃあね、と。
また来てね、とは言わなかった。
週末フードルの憂鬱 東郷みゆき @miyuki42
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