第2話
今の店に入る前に、ほかの店の面接に一度だけ行ったことがあった。
求人情報誌から見つけて行ってみたのだが、明らかに怪しかった。
まずは待ち合わせした場所にきた迎えの男が怪しかった。
歯がなく、全身刺青だらけの顔色の悪い痩せた男だった。
着いて行った場所は雑居ビルの上階。そこはまるで廃墟のようだった。
出てきた店長の男はぽっちゃりしたサービス業主任っぽい人、笑顔はよかったが、あまりに事務所内も荒れていて、すれ違う女性も何だか怪しげだったので、後日お断りをした。
と、いうのもあまりに報酬が安く、残業代と変わらない金額の提示に思わず、え?と言ってしまった。
オプションで稼げるようにする、などと言っていたが、働ける環境とは思えなかったことと、オプションって何?と心配になったからやめておくことにした。
その1年後に今の店に面接へ行くことにした。求人誌で提示されていた給与と変わらず、また店内がとても清潔で、すれ違った女性は全員清潔感のある人ばかりだった。
また、ちゃんと挨拶もされていて、きっと客層も真面目な方が多いんだろうと予想できた。
とはいえ、テレビや映画の中しかこのフーゾクという仕事を知らないさゆみには、怖いことがあるのか、殴られたりしないのか、無理矢理強姦されたりしないのかも不安だった。
このホテトルという仕事は、お客様が実際店に寄って女の子と一緒に近くのホテルまで行くため、危なそうな人、一見さんは店長がチェックしてくれるとのこと。
あとは女の子からクレームのあったお客様は出禁にしている等、しっかりしている。
ちょっと安心した。
また、仕事の流れも全くわからなかったので、ホテル内でどのような手順を踏めばよいのかもレクチャーしていただくことにした。
後日、実際に使っているホテル内で実習することになった。
「さゆみちゃん、まずホテルに入ったらお店に電話、電話したらストップウォッチをスタートしてね。」
お店の幹部だという男性が細かいところまで教えてくれる。
「ストップウォッチは、ラスト15分を引いて。例えば60分の場合は45分、90分の場合は75分ね。最後の15分でシャワー浴びたり着替えたりしてもらうためだよ」
時間いっぱいいっぱいじゃなくて、余裕をもって帰り支度できるように時間は考えられてるんだ。
「あとはお風呂入れてシャワーも出した状態で、お風呂入るまではお客様を楽しませて。
60分のお客様の中にはシャワーだけでいいって人もいるけど、お風呂は溜めるようにね」
入らなくてもお風呂は必要ですか?
「終わった後入りたかったってお客様も結構いるからね。念のため溜めてね」
そうなんですね。わかりました。
「お風呂はいる前にうがいは必ず。帰る前も必ずうがいはして。
あとお風呂上がる時は先にでて、お客様にバスタオルを掛けてあげて。
意外と、バスタオル渡してくれないってクレームあるから」
そんなクレームあるんですか。わかりました。必ずバスタオルは開いて肩にかけるようにします。
「それと、入れたいと言われたときは、」
ベッドに移動する。服は...
「あー、服は着たままでいいから。研修は今は服は脱がないんだ。
そのままベッドにあがって。ローションの瓶だして」
さゆみはいただいた支給品の中からローションを取り出した。
「この瓶が男のアレと思ってまたがって。そうそう、そのまま前後に擦るように動いて」
こうですか?
「そう、それが素股ね」
これが、素股なんですね。初めて知りました。
「入れたいとお客様が言われるまえに、こっちから素股で攻めるといいよ」
わかりました。
「あとは出すときに、どこに出して欲しい?ていう人には胸、とかいって、出たときに、あっつーい!とか適当なこと言っとけばいいから」
あっつーい、ですか。
「まあ、何でもいいけど、こっちも気持ちいい振りするのがよくわからない場合は、あっつーいでいける」
へえー。あっつーい、なんだ。
さゆみは子供もいる。全く男性経験がないわけではなく、どちらかというと経験は豊富な方だと自覚していたが、知らないこともたくさんあるんだな、と思っていた。
「じゃ、来週からよろしくね」
幹部の方はさゆみに触れることなく笑顔でそう言った。
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