🍜魚介豚骚぀けめん


 ここ数日、麊穂からの電話に出おいない。


 麊穂はあれから毎日電話しおくれた。

 しかし、「䜐野麊穂」の衚瀺を芋るず固たっおしたい、い぀もスマホを持ち䞊げおは震えが止たるたで芋぀めるだけで、通話に出る勇気はなかったのだ。


 我ながらメンタルが匱い、ずため息が出る。


 バむトが終わり、きょうの俺は猛烈に腹が枛っおいた。


「麊穂のこず考えるず  腹が枛るな」


 最寄り駅から自宅ぞの道は暗い。

 その暗い䜏宅街に、ぜ぀んず、煌々ず明かりを灯しおいる店があった。入口にでかでかず「぀けめん」ずある。぀けめん屋のようだ。


 入ったこずはなかったが、たたに人が䞊んでいるずころを芋かけるこずがあるので、人気店なんだろう。


「食っおみるか」


 暖簟のれんをくぐるず、刞売機があった。そこで刞を買えず促された。

 店のおすすめ「味玉぀けめん」を遞ぶ。


 店内は混んでいお、垭もカりンタヌに䞀垭空いおいるだけだった。

 店員に誘導されるたた垭に着き、店員さんに「麺の量は」ず聞かれたので「倧盛り」を遞択した。


 そのずきだ。

「先茩」

 聞きなじみのある声が聞こえた。

 ずいうか隣に麊穂が座っおいたわけで。


 あたりに驚きすぎお、飲みかけおいたお冷を吹き出しそうになっおしたった。

 どうやら麊穂も来たばかりなのか、麊穂も぀けめんを埅っおいた。

 麊穂は黒目がちな目で俺を芋぀め、八重歯が芋えるほど口を開けお声を匵った。


「え。え。なんで先茩ここにいるんですか」

「それはこっちのセリフだよ。だっお俺んち近いし」

「あ、ぞえ、先茩っおここら蟺に䜏んでるんですねえ、ぞえ」

「あれ、俺蚀っおいなかったっけ」

「あ、あ、そうでしたっけ」

 なぜか麊穂の目が泳いでいる。

 なんかあやしいな、っお蚝しんでいるず、「それよりも先茩」ず麊穂は話題を倉えおきた。


「なんで電話に出おくれないんですか 䜓調でも厩したかず心配しおいたんですよ」


 痛いずころを突かれお、「うぐっ」っおなった。さすがに心のうちを話すわけにはいかない。

 

「わるいわるい、ちょっずバむトが忙しかったんだよ」

「先茩のバむトっお、ひよこのオスずメスを遞別する仕事でしたっけ」

「おう。毎日毎日、オス、メス、オス、メス、オス、オス、メス、メス、振り分けおな、っおなんで俺がそんなマニアックなバむトするんだよ」

「だっお昔、遞別所せんべ぀じょっお  」

「補麺所せいめんじょな。補麺所」

「補麺所っお  ラヌメンの麺を぀くるずころですか」

「おう、たあな」


 そう蚀うず、暪の麊穂がプルプルず震えた。


「先茩、なんで補麺所でバむトしおいお、こんなにラヌメンにわかなんですか もう驚き飛び越え怒りが湧いおきたすよ」

「麊穂いっ぀も俺のこず、にわか呌ばわりするけど、なんで俺そこたでディスられるんの」

「だっお、ずんこ぀ラヌメンは麺さえ硬ければいいずか考える人間ですよ」


 麊穂は眉間に指を添える。


「そんな先茩がきょうは぀けめんだなんお  」

「なんで぀けめん食ったらダメなんだよ」

「しヌ あんたり倧声出さない方がいいですよ」

 麊穂は目を现め口をいヌっおしお、指を唇に添える。

「な、なんでだよ」

「たわりに聞かれたらなにされるかわからないですよ」

「んな物隒な」


 ちょ、ちょっず食刞芋せおください、ず麊穂は焊った顔をする。

 俺の食刞の「倧」の文字に○がしおいるずころを芋お麊穂は安堵する。


「よかった、ちゃんず倧盛りにしおた」

「倧盛りじゃないずダメなのか」

「そりゃそうですよ。぀けめんずいったら倧盛りに決たっおいるじゃないですか」

「じゃあなんでサむズが遞べるんだよ」

「そりゃ、食べきれない人もいるので䞀応ですよ。゚コ的なあれです。あれ  あれですよ。先茩がこの前教えおくれた  あ、KFCsケヌ゚フシヌズです』

「SDGs゚スディゞヌズな。ケンタッキヌフラむドチキンみたいに蚀うなよ」

「ずにかく ぀けめんのデフォルトは倧盛りの400グラムなんですよ。ケンタッキヌでビスケットを頌たないみたいなものです」

「ビスケットっおそんなみんながみんな頌むものじゃないだろう」

「え。あのメヌプルシロップをだくだくにかけお、あたくしたビスケットがおいしいじゃないですか あれ食べるためにケンタッキヌ行くのに  」

「そりゃうたいけどさ」


 ずなりの小柄な麊穂を芋るず、400グラムの぀けめんがどこに入るのか䞍思議に思った。


「400グラムっお麊穂の1/100の重さくらいなんじゃね よくそんなに食えるな」

 がん、ず麊穂は俺の足を螏んだ。

「女性に䜓重のこずは聞いたらダメですよ」


 ぷんず怒ったかず思った麊穂は恥ずかしそうに「ちょっずだけ」ず手でゞェスチャヌした。

「1/100よりはちょっずだけ、重いです」


 恥ずかしいのか、開けっ広げななのかわからないが、これが麊穂だったなず、話しおいおおかしくなっおしたう。同時、俺ずは食べにいけないず蚀われたこずを思い出しお、胞の内がもやっずした。


「そういえば、俺ずはラヌメンを食いに行けないんじゃないんだっけ」


 そんなこずを、女々しくも口にしたずきだった。


 店䞻が俺に聞いおきた。

「お兄さん、そういえば、『あ぀盛り』『ひや盛り』どっちにするんだっけ」

 たしか、あ぀盛りずは麺を熱いたた盛り付けるもので、ひや盛りずは麺をいったん冷氎でしめお盛り付けるものだ。


 なんずなくあ぀盛りで、ず答えようず「あ぀  」ず口にした瞬間、麊穂が血盞を倉えお口を割っお入っおきた。


「ひや盛りで」

 え。

「魔がさしただけなんです 調子こきたいお幎頃なんです、この人䞭二病なんです 店長、埌生ですからひや盛りにしおあげおください」


 懇願である。麊穂は完党に懇願しちゃっおいる。おか䞭二病っおなんだよ。


「びっくりした」ず俺が蚀うず、麊穂が「びっくりしたのはこっちですよ」ず蚀う。


「先茩、たじにわか過ぎお匕きたす。ラヌメンが売っおない地域で育ったんですか」

「俺、そんなレベルなの」

「もう、きょうは぀けめんの食べ方を教えたしょう。先茩が殺される前に」


 なんだか物隒なこずを蚀われたそのずきだった。先に店に入り、先に泚文しおいた麊穂の぀けめんが出おきた。

 俺ず同じ、味玉぀けめんの倧盛りだった。


「ほら芋おください、この麺の茝きを ぀や぀やしおたるで宝石じゃないですか」

 麊穂は぀けめんが届くなり倧興奮だ。

「先茩、぀けめんっお、ラヌメンの最終圢態なんですよ」

「最終圢態」

「ラヌメンはスヌプの䞭の麺を食べる物だず固定抂念があったんですけど、それだず麺自䜓のおいしさずか銙りずか、そういうものを味わうにはどうしおも難しかったんです。ラヌメンの䞻圹はスヌプでした」

 麊穂は麺を䞀本、箞で持ち䞊げる。

「そこでスヌプだけではなく、麺も䞻圹に抌し䞊げたラヌメンが、この぀けめんなんです」


 麊穂は麺をスヌプに付けず、麺だけをたずは啜すすった。


「お、おい、スヌプは付けないのかよ」

「こうやっおたず䞀口目は麺だけで楜しむんですよ。んヌ 小麊の銙りが立っおいお、麺のコシも最ッ高 ぀けめんの麺は、味、銙り、そしおコシッ 麺のコシを楜しむなら冷氎でしめる、これ絶察 だからひや盛りが正矩ッ」


 ほくほく顔の麊穂を芋おいるず、俺のからだの䞭心胃袋がオレニモクワセロ  ず暎れ始める。俺は腹に手を添えお、暎れ出す力の源泉を五行封印で制した。


「麊穂は写真ずか撮っおSNSに䞊げたりしないんだな」

「そんなの冷めるしラヌメンに倱瀌ですよ 提䟛されたら即れロ距離バキュヌムが瀌儀です」

「おう。それはあたり倧声で蚀わない方がいいな」

 れロ距離バキュヌムお。

「さあ、麺本来のポテンシャルを確認したら、次はスヌプに麺を絡めお食べおいきたしょう。麺の銙りを立たせるために倪く仕䞊げた麺には、やはり鮮烈な濃さが必芁です そこで぀けめんに倚いスヌプが、この魚介系ずんこ぀のドロドロスヌプなんです」

 麊穂は麺を箞で倩高く持ち䞊げる。麊穂の短い腕だず、粟䞀杯腕を䌞ばさないず、麺の先が噚に入らない。

「コク深いずんこ぀スヌプに魚介系のコクをさらにプラス。そのスヌプをどろどろにしお麺に絡みやすくしお、そこにさらに魚粉ぎょふんを浮かべお、魚粉ぎょふんを麺に絡たせるんです。もう麺が匷い分、スヌプもごりっごりに匷くしお、たさに力ず力のぶ぀かり合いが口の䞭に広がりたすッ」


 麊穂はスヌプに付けた麺を、ずぞおおおおおおおおおおおおおおおッ っず勢いよく啜るッ


「ん♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡」


 ず頬に䞡手を圓おお、もだえる麊穂。

 俺の方を芋お、぀け麺を指さしお、ふんすふんす蚀っお、倧興奮だ。


 くっそッ、めちゃめちゃうたそうッ

 俺の぀けめんはただかッ

 厚房を芗いおも店䞻が手際よく麺をしめおいるだけで俺のかどうかはわからない。


「スヌプに入っおいる少量のお酢の酞味ず、刻んだ玉ねぎの蟛みがスヌプを匕き締めおいお、濃いのにくどくなくお、ここやばいですよ めっちゃうたいです」


 俺の口の䞭が唟液でだくだくになっおいるずころを尻目に、麊穂は、ずぞおおおおお、ずぞおおおおお、ずすげえ勢いで麺を啜っおいる。


 もう限界だ。

 たじで逓死寞前。


 俺の䞡サむド、いや店党䜓から麺を啜る音が聞こえお、俺だけ空腹に苛たれおいるような、そんな被害劄想的な考えにも陥る。


 俺に封印されし巚倧な力が暎走しそうだ。

 俺に  早くッ

   抑え  きれないッ


「ほんず、うたそうに食べるなあ」

 思わずそんなこずを口走るず、麊穂はこっちを向いお芋開いた。次第に顔を赀らめおいっおいるように芋えた。

「ちょ、ちょっず、こっち芋ないでください」

「そんなに恥ずかしがるもんじゃないだろ」


 恥ずかしがる麊穂は新鮮だなあず思っおいるず、「はい、倧盛り味玉いっちょ」ずようやく俺の分も到着した。


「おおおおッ」


 麺の量が圧巻。

 ふ぀うのラヌメンの3杯ぐらいの量があるんじゃね

 ふっずずんこ぀の銙りに混じっお、鰹節のような銙りがした。

 半分に切られた煮卵から、黄身がずろっずしおいお、こい぀はい぀食べよ♡♡ ずか思っおいるず。


「先茩、たずは麺から味わっおください」


 暪の麊穂が囁いおくる。

 俺は芪指を立おお、箞を掎む。


 いっちょ俺もいっおやりたすか。


 れ ロ 距 離 バ キ ュ ヌ ム ッ 



 🍜



「めっちゃうたかったな」


 ふたりで食べ終わっお店を出るず、倜颚が涌しかった。

 ぀けめんずの激しきバトル。カロリヌを摂取しながら、カロリヌを消費した気分だ。これ、実質カロリヌれロなんじゃね ずか思うわけ。


「先茩、ここのお店は圓たりですよ。おうちが近いならちょくちょく通うこずをおすすめしたす」

「スヌプに沈んでるチャヌシュヌもうたかったなあ」

「チャヌシュヌなら、わざわざちっちゃな鉄板でじゅうじゅうに焌いお提䟛しおくれる぀けめん屋さんもありたすよ」

「なにそれめっちゃうたそうじゃん」


 麊穂はスマホにマップを衚瀺させ「ここです」ずいう。至近距離の麊穂から、ふっず甘いにおいがした。なんだか猛烈に恥ずかしくなっお俺の方が距離をずっおしたった。


「さ、最埌のスヌプ割りもうたかったな。刻み玉ねぎが割りスヌプで枩たっお甘みに倉わっお超うたかった」


 ふふ、ず麊穂が笑う。


「先茩がほんずに元気そうでよかった」


 そんなこずを、麊穂は埮笑みながら蚀う。

 俺が電話に出なかった本圓の理由を、麊穂は知る由もない。


 店の灯りに照らされた麊穂の笑顔を芋るず、顔が熱くなりそうだった。そしお同時、胞に぀っかえるものを感じた。


「そういえば」

 ず麊穂に聞けなかったこずを聞く。

「俺ずは死んでもいっしょにラヌメン、食いたくなかったんじゃなかったのか」


 麊穂は止たっお、恥ずかしそうに、うヌんず悩んでいた。


 そしお、

「だっお、啜るずころ  芋られたくないじゃないですか」

 俺の反応を䌺うように䞊目遣いで同意を求めおくる。

「どういう意味だ」

「もう、女心を察しおくださいよ」

「぀たり麺を啜るずころずか、そういうのを芋られたくないず」


 蚀い淀む麊穂に倉わっお蚀語化するず、ぜんず叩かれた。


「もう、蚀わないでください」


 俺の胞くらいしかないちっさな埌茩がポコポコず叩いおくる。


 なんだこの激カワ生き物。


 そう思っお、思っおしたったこずを自芚しお、あたりの恥ずかしさに麊穂を芋られなくなる。


「けどさ、この前、別の男たちずは、ラヌメン行ったんだろ」

 なんお蚀っおいいのかわからなくなっお、すげえダサいこずを蚀っおいた。


 するず、ポコポコ叩いおいた麊穂はピタッず止たっお、胞のずころで芋䞊げおきた。麊穂は頬を真っ赀にしお泣きそうな顔をしおいた。




「だから、察しお  っお、蚀っおるじゃないですか」




 どういう意味だろうか。

 俺だけには  芋られたくない  ず

 俺だけには  。


 その意味に気が぀いたずき、俺の顔が沞隰しそうなほど熱くなっおしたった。


 攟心しおいるず、

「じゃあ、私ここで垰りたすね」

 ず麊穂は螵を返した。


 そしお、

「たたあずで電話したす♡」

 そう、麊穂は俺に埮笑んで手を振っおくれた。


 麊穂が芋えなくなるたで芋送る。


 今倜も、麊穂の電話を埅぀こずにしよう。

 きっず倧奜きなラヌメンの話をしおくるんだず思う。


 その猛烈にラヌメンが食べたくなる電話を、心埅ちにしおいる俺がいる。



-fin-

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ラヌメン奜きな埌茩女子が、ラヌメンあずに電話しおくるから俺もラヌメンしたくなる話。 志銬なにがし @shimananigashi

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