第2巻 文野史織の日常
プロローグ
プロローグ 01 - 釈明
わたし達についての物語を再開するために、ひとつ前提事項を考える必要がある。
超能力。
冷戦時代とは異なって、それは科学に基づいているわけではない。もっと
たとえば、わたしの悪友、文野詩織の場合を例に取ろう。
彼女――〈きまぐれトリガー)――の放った弾丸は、必ず命中する。
もちろん、さまざまな解釈が可能だ。彼女には天賦の才能があるだとか、ちゃんと定期的に訓練しているからだとか(全天周囲式クイックドローなる専用の設備さえも用意されている)。標的と認めるや否や、彼女は暖速から弾道計算からを瞬時にこなし、最適解で射撃をこなしている、と言うことだってできる。
しかし、どれもが説明としては不安定だ。何かが突っかかる。はたして人間は、仮に才能があったとして、現に定期的に訓練をしたとして、正しく100%の確率で標的を撃ち抜くことができるのだろうか? 他者では再現不可能、というこの点だけをとって、超能力と言うこともできる。でもそれはいささか乱暴だ。
急いで補足するとすれば、こと文野詩織にとって、”銃”とはその種類を問わない。輪ゴム鉄炮から、アクション映画に出てくる銃火器、ナポレオン式の大砲、果てはまだ存在していないビーム兵器だって、彼女が”銃だ”と認識すれば、先の「お約束」は成立する。
――彼女が対象を銃だと認識すれば、それは不具合が発生する可能性を超越してまで、射撃シークエンスを達成し、弾丸は標的に命中する。
ここになぜは発生しても、その疑問符は意味を十全に発揮しない。なぜなら、それが文野詩織、〈きまぐれトリガー〉だからだと言う他ないからだ。
正直言おう。読者諸兄諸姉と同じく、わたし自身も困惑しているし、わたしのいる世界も困惑しているのだ。
一歩譲って、こう考えても良い。
文野詩織が最高に幸運な人間で、彼女の標的が相対的に見て、絶望的に運のない人間だったとする。だからたまたま弾丸が命中してきただけで、すべては偶然の賜物だったとしてもまあまあ良い。ありえなくもない話だ。
しかし彼女のもう一つの超能力の話をすれば、さすがに擁護できなくなるに違いない。
「お約束」その二――文野詩織は、胸の谷間に銃を格納することができる。
正確には、正しく谷間だったり、胸の横だったりするのだが、結論としては一緒だ。
一層頭を悩ませることに、これには彼女なりの”銃”の定義がそのまま採用される。
つまり、輪ゴム鉄炮から、アクション映画に出てくる銃火器、ナポレオン式の大砲、果てはまだ存在していないビーム兵器だとしても、彼女がそれを”銃だ”と認めさえすれば、胸の谷間に仕舞えてしまうということになる。
物理法則も何もあったものじゃない。
著しく常識から乖離している。
でもそれが現実だ。
試しに文野詩織本人に尋ねてみてもいい。どうしてそんなことができるの? 彼女はきっとこう答える。「銃って胸に仕舞えるものだろ。ガキの頃に見たよ」
そういう、説明困難で、了解不可能なかつ個人的な象のことを、わたし達は超能力と呼んでいる。総合的に称したところで、何かが安心できるものでもないのだが、仕方なくそうしている。
そして、すまないが、そういった能力を持っている人間が散見されるのが、わたしの所属する世界だ。
弁解の余地があるのなら、こう言わせてほしい。
――なんか最近増えてきたんだよ、と。
スウィート・スウィーパーズ 織倉未然 @OrikuraMizen
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