エピローグ

「なんで街の片付けをするだけなのに、

あんなに偉いひとがいっぱい来たんだ?」


俺はパワードスーツの準備をしながら、

疑問と文句の混ぜて言った。


パワードスーツはいつもとは違う場所、

薄暗い倉庫の中にある。


そこに追いやられた理由は

偉いひとがいっぱい来るからなのは分かっていた。


んだが、俺たちが

倉庫の中にいるのとはつながらない気がする。


「カッチュウが仕事をするからだよ。


ヤサシは当たり前のようにしてたけど、

巨大ロボットが戦う

――ケンカするのも、

救助活動をするのも、

すごいことなんだよ?」


不機嫌な俺に対して、

ゼンは俺をなだめるように説明してくれた。

俺はそれでも納得できず口を尖らせる。


「だったらその

『すごいこと』をする俺たちは、

倉庫の中に追いやられちまった理由が余計に分からん」


「多分だけど、

僕たちがカッチュウに乗ってるのが分かると、

危ないからだと思う。


ヤサシなら僕がそういえば分かるよね」


「つまり、俺たちが乗ってることがバレると、

捕まって悪いことに使われる可能性がある。

なら最初から見せない方がいいってことか」


俺は流石にそれで納得できた。

元当事者のゼンが

言うのだから間違いないだろう。

ゼンは俺の解釈を聞いてうなずく。


「今、格納庫でダルマとグソクを見ているのは、

海外の偉いひとだから、

悪いひとたちではないと思う。


だけど、そういうひとたちも

なにか利用されたりしないとも限らない。

念には念を入れるってことだね」


「やっぱ、優しいやつだなゼンは」

「ヤサシほどじゃないよ」


俺が笑うとゼンも

自分をへりくだらせつつも笑ってくれた。

ゼンは話を続ける。


「それに僕は、

仲良くないひとに見られるのは好きじゃないから。

だから、僕よりダルマやグソクに、

みんなの目が行ってるならその方が楽かも」


「そういう考えもあるか」


俺がゼンの考えにうなずくと、

倉庫のドアがゆっくりと開いた。


「ふたりともパワードスーツは着たな。

偉いひとたちは格納庫から出ていった。


早く地上で動いてるところが見たいらしい。

気にせずにダルマとグソクに乗り込め」


倉庫に入ってきた野田さんは

俺たちに声をかけた。

俺は野田さんの顔が

気疲れしたように見えて声をかける。


「お疲れ様です」


「ああ、人前で話すのは

苦手なの博士は知ってるのに

押し付けやがって……」


野田さんは文字通り

友達に文句を言う口ぶりで言った。

俺はなんだか微笑ましくなって、


「ゼンと同じタイプなんですね」


と言った。

多分俺の言うことは合ってて、

ゼンも同情した顔を野田さんに向けている。


「おれも技術屋だからな……。

そんなことはいい、さっさと行け」


愚痴の続きを言ってから、

俺たちにぶっきらぼうな指示を出した。

俺は友達に呼びかける。


「行こうぜ」

「うん」


ゼンは肩の力が

適度に抜けている声で答えた。


格納庫にはカッチュウを載せるエレベーター

レンゲザがふたつ。

ダルマとグソクが堂々と載っていた。


「ダルマの修理は

ゼンも関わってるんだよな?」


ダルマはほとんど元の形に戻されている。


それを見ながら、

俺は軽々とタラップを駆け上りながら、

ゼンに聞いた。


ゼンはタラップを登り終えてから答える。


「うん。ダルマを

ボディダルマに戻せる仕組みを作るのを手伝ったよ。

それと僕の使う新しいグソク

『ダイコクグソク』も

僕のアイディアを使ってもらってるよ」


ゼンの答えを聞いて、

俺は話題に上がった新しいグソクに目を向けた。


怖かったグソクの顔は

『集中している真剣な顔』に代わり、

手も作業や救助のために

細くて動かしやすいものに取り替えられている。


色はダルマと見分けをつけるために

黒が多めに塗り替えられた。

俺はそれを横目に思ったことをつぶやく。


「ダイコクグソクって、

見た目通りだな」


「ううん、七福神の大黒天様が由来だよ。

博士もかっこよくて

縁起が良いって嬉しそうだったし、

いい名前だと思う」


「ダルマ並べるにしては

由来と関係なくね?」


「意外とそうでもないよ。

七福神はお坊さんとしての達磨さんと合わせて、

八福神なんて言われるときもあるらしいから。


そんな凝った名前だから、

世間ではダイコク様なんて呼ばれてるけど、

今まで通りグソクでいいよ」


「ダイコク様か。

ダルマさんといい、

なんか親しみ込められてるな」


そんなやり取りをしながら、

俺たちはコクピットへ入って準備を進めた。

ドウマルが接続されるとコクピットに通信が入る。


「こちら石丸じゃ。


ぼくは偉いひとたちに

ダルマとグソクの説明をしないといかんのじゃ。


じゃから起動したあとの案内は

新しく入ったオペレーターの松島くんに任せる。


基本的に通信は身内にしか聞こえておらぬから、

気にせずリラックスしてほしい」


「分かりました」「はい」


俺とゼンが返事をすると、

博士は息を吸って、


「石丸カインドマテリアル研究所の石丸タスケが起動を許可する。

カッチュウ一号ダルマ、カッチュウ二号ダイコクグソク、

チッタ・エーカーグラター」


少し長くなった宣言をすると、

コクピットが一気に明るくなった。

格納庫の中の風景は見慣れたもの。

たが今は、隣にグソクがいる。


研究所を出た後も

ダルマとグソクはいっしょに歩き、

現場へ到着。


ゼンは壊された街の様子を見て、

カッチュウ越しにも分かるほど身を固くしていた。


瓦礫の中には、

ひっくり返った重機がいまだに横倒しになっている。


自分のしたことについて

改めて思い知らされたのかもしれない。


俺は重い荷物を分担するように声をかける。


「派手にケンカしたよな。

これはその後片付け、

罰でさせられる掃除みたいなもんだぜ」


「でも無事じゃなかったひともいたんじゃ――」


「いいや、けが人は出たけど、

後遺症とかを残すようなひとはいなかった。


もちろん死人も出てないぜ。

被害を受けたひとやものは研究所や、

ビョードー抜きで新しくなった慈善団体でサポートするってよ」


「でも――」


「今は手足を動かせよ。

ゼンには償いをする知恵とちからがあるだろう?

それにケイたちが見に来てるんだぜ」


「えっ!?」


俺は被害のない建物の方を見た。

そこには俺たちの仕事を見に来た野次馬たちが、

立入禁止テープギリギリに群がっている。


その一番前にケイたち小諸家みんなはいた。

俺が会ったことのないおじさんおばさんもいた。

俺はそんな小諸家の顔を見ながら聞く。


「確か、ケイだけが

全部を知ってるんだよな。


あとはゼンが利用されていたみたいに、

アバウトな説明だけしたとか博士から聞いてる」


「うん、だから僕が

街を壊したのは知られてない。


でも悪いことを手伝ったから、

責任取って僕が街を直すのを

手伝うことは言ってる。


今このグソクに乗ってることも教えてる」


「だったら、いいとこ見せないとな」


「そんな授業参観じゃないんだから……」


「似たようなもんだ。

家族のみんなに優しくしてもらったなら、

ゼンはその優しさに応えてやったらどうだ。


ちゃんと働いているところを見せたら、

向こうも安心するし、

すごいことをしてるって誇らしいんじゃないか?」


「誇らしい?」


「ああ。応接室にミチルさんにショウやケイ、

ゼンのトロフィーとか表彰状とか飾ってあったのは、

家族の自慢がしたいからだろ?


それに悪党に利用されるってのは、

それだけすごいやつだって証明だぜ」


「……ヤサシはホント優しいやつだね」


ゼンは困った声で

ため息交じりに言ってくれた。


まだまだ気を使った感じはするが、

俺の言うことに困っているのを隠していない。


相手の顔色を見て話そうとするのではなく、

だんだんと正直なコミュニケーションを

取るようになった気がした。


「屁理屈こねて

ゼンを納得させようとしてるだけだ。

見られてて緊張するかもしれないが、

作業始めるぞ」


「大丈夫、

見られてるのは僕じゃなくてグソクだから。


さっきも似たようなこと言ったけど

いつもの愛想笑いしなくていい分、

楽かもしれない」


「そうか、ならよかった。

松島さん、作業の指示をお願いします」


俺は司令室に声をかけた。

すると、まるで女子高生の電話のような声が聞こえてくる。


「はぁーい。

あたしてーねーな言葉苦手だから

こんな感じでしゃべるけどー、

ふたりも平等にタメ口聞いてねー」


「ええ……」


思わぬ言葉だったからか、

ゼンは返事に困った声をもらした。


こんなにもフランクな相手は

初めてだったのかもしれない。

『こんな平等』があるのかと

ゼンは驚いている気がしたので、

俺は笑いながら、軽口を叩く。


「ゼン、だいそれた言い方をしなくても、

平等は勝ち取れるんだぜ」



偉いひとたちは夕方には帰っていった。

なのでカッチュウを使った作業も

それに合わせて夕方には終わった。


この時間に研究所を出るのも久しぶりな気がする。


ゼンは歩いて帰るらしく、

隣町の方へ歩いていった。


家族にいいところを見せられたからか、

松島さんという平等な存在と出会って吹っ切れたからか、

ゼンの背筋がまっすぐになったように見える。


俺はいつもどおり自転車だ。

今日はいつも以上に気分良く自転車を漕ぐ。


少し走っていると後ろから

軽いクラクションが聞こえた。

俺はすぐに自転車を寄せる。


すると軽トラは俺を追い越していった。

軽トラのナンバープレートは

遠くの街の名前が書かれている。


しかも『深間山仏具店』

って見覚えのあるお店の名前だった。


サイドミラーには軽く手を振るひとが見えた。

顔も見えたので、

それが元気になった山田さんだと分かる。


「おっ?」


と声を出して、

声をかけようとしたが、

軽トラはあっという間に走っていった。


あれは研究所で働くきっかけになったトラックだ。

俺はしばらく忘れていたが、

あれからずっと研究所に置かれていたんだろう。

事が収まったのでようやく元の場所に帰って行った。


その後ろを見送っていると、

ほんのりと光の粉のようなものが見えた。


トラックを助けたときに見たのと同じだ。

つまり光の粉はカインドマテリアルで、

あのトラックはゴホンゾンを運んでいる。


ようやく、あのときのひとを助け、

ゴホンゾンを守りきれたことが実感できた。

俺は嬉しくなってスピードを早める。


気がつくと大通りまで来ていた。

ちょうどダルマが魔改造重機の鉄球で

吹き飛ばされたあたりだ。


当然ここから先は通行止めになってるが、

瓦礫はほとんどなくなっている。

ビルや街灯の明かりはないが、

工事のための灯りや工事のための乗り物の灯りがあり、

寂しさはまったくない。


よく見ると、

工事に使われている重機には

『神谷カインドマテリアル研究所』

と書かれていた。


そこは石丸博士の友達の研究所らしい。

さっきの山田さんもそこの所属だ。


ならばあれは間違いなく

カインドマテリアルで作られている。


「やっぱりカインドマテリアルは

ケンカに使うんじゃなくて、

ひとのために使わないとな」


そうつぶやいた俺は、

夕日に照らされる街をしばらく眺めていた。



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大慈大悲甲冑ダルマ 雨竜三斗 @ryu3to

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