イーグル

鳥海 摩耶

イーグル

 夕方。

 

 遠くの空に、灰色の点がふたつ見えた。

 かと思うと、点はあっという間に鋼の鳥となった。

 

 耳をつんざく轟音。

 

 刹那、頭上を鉄の鷲が通過した。

 

 マクドネル・ダグラスF-15、通称イーグル。

 高性能のエンジンを搭載する、双発の大型戦闘機。

 

 僕は、この機体が好きだ。

 

 鍛え抜かれたアスリートを思わせる細身のボディから広がる、鷲のような両翼。

 先端を斜めに切り落としたデルタは、特徴的なシルエットを作りだす。

 

 また、左右に備えられた可動式インテークは、鋭利な刃物のような直線で構成されており、

 その大きな開口部は機体後部の二機のエンジンに十分すぎる空気を送り込む。

 

 加えて、寄り添うように並んだ双発エンジンを挟むように、まっすぐに垂直尾翼が立っている。

 

 他の機体は、それが一つだったり、斜めに傾斜していたりする。

 しかし、F-15の垂直尾翼は、彼女の性格を表すかのように、その鋭利な三角形を空に伸ばしていた。

 

 制空任務。空を支配することを目的として生まれた、彼女。

 

 黒髪の正統派美少女を想起するのは、僕だけだろうか。

 

 真面目でまっすぐな、彼女。

 

 ああ、その美しい姿を、また見せてはくれないか。

 

 今しがた飛んで行ったイーグル編隊は、訓練飛行の帰路であろう。

 反転し、こちらに飛んでくることはない。

 

 また明日か。

 

 イーグルの残した二本の飛行機雲が、いつまでも夕空に漂っていた。

 

 

 

 

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イーグル 鳥海 摩耶 @tyoukaimaya

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