引っ越し話1
「去年の話なんですけど、周りが
言い
言葉を探している、というよりかは、言葉はすでに見つかっているが自分の口から言うのはちょっと……てな感じか。
「焦り、ですか?」
「恥ずかしながら」
読みは当たってたようで、俺が代わりに言うと彼女は
「でも、安住さんの歳ならまだそこまで焦らなくてもいんじゃないですか?」
「前まで私もその考えでいたんですよ。『よそはよそ、うちはうち、マイペースマイペースッ! あと数年もすれば運命の人に巡り逢えるでしょ!」 って。けどま、そんな漠然とした考えは状況やら環境やらで簡単にかわっちゃったんですがね」
「と、いうと?」
「さっきの結婚ラッシュに加えてですね、両親に『早く孫を抱きたいなぁ』と柔らかい口調で脅されまくっちゃいまして。もちろん冗談半分とはわかってたんですよ? けど、私も焦ってたんで……つい」
「つい?」
「両親に『言われなくてもすぐに抱かせてやるよッ!』と
…………マジか。
頭に拳を置き、不〇家のマスコットキャラクターのように舌を出している安住さんの能天気さに俺は一瞬思考が止まってしまった。
「……え、ここに越してきたのって」
「ずばり、そういうことです!」
「……地元の仕事も辞めて?」
「当然じゃないですか! じゃなきゃ今の職場で働けてませんもん」
「そらそうですけど……なんの計画もなしで、よく今の生活に繋げられましたね。素直に凄いと思います」
率直な感想だった。
意地張って息巻くまではいいが、大抵の場合は現実の辛さに音を上げるだろう。それを安住さんはクリアしている。少々オーバーな言葉選びだが、彼女の適応能力は高いのかもしれない。
「素直に尊敬だなんてそんな――」
どんな耳してんの?
「こっちに知り合いの先輩がいるんですよ。その人に今の職場を紹介してもらったり、部屋探しを手伝ってもらったりして、なんとか。私一人じゃとてもとても……多分、半年くらいしかもたなかったと思います」
逆に半年も耐えられると思った根拠を是非ご
謙虚な態度や口調とは裏腹に自信に溢れた発言内容。きっと安住さんみたいな人が将来ビッグになるんだろうなぁ。
なんて思いつつ、俺は話を進める。
「まとめると安住さんは未来の旦那さんを探しにきた、ってことですかね?」
「その表現はちょっとくすぐったいですが……まぁ、そうですね」
「ふむふむ。ちなみに結果のほどは?」
「それが……はぁ、てんでダメなんですよねぇ」
がっくりと肩を落とした安住さんは沈んだ声で続ける。
「何回か男性の方とお食事に行く機会があったんですが……全部失敗に終わっちゃって」
「……もしかして、その場でお酒飲みました?」
「…………飲んじゃいました」
あ、それじゃあ仕方ないわ。
「ちょっと松田さんッ! その『あ、それじゃ仕方ないわ』みたいな顔やめてくださいってば!」
「な、心の声が読まれてるッ⁉」
「読まずともわかりますよッ! ……だって、自分でもわかってますから。お酒が原因だったってことぐらい」
「わかってるなら、男性といる時はお酒を我慢すればいいじゃないですか」
「それは、そうですけど……でも、初対面の相手だと緊張しちゃうじゃないですか? だからその、ほぐすために頼っちゃうといいますか……」
「あ~なるほど」
頼ってしまうと言った彼女の気持ちはよくわかる。初めましての相手なら尚更、それくらいお酒とはコミュニケーションを円滑に進めるために役立ってくれるのだ。
がしかし、万能(エリクサー)なわけじゃない。〝酒は飲んでも飲まれるな〟なんて戒めの言葉が世にある通り、アルコールによって人間関係や仕事、さらにスケールを大きくすれば人生を棒に振る人だっているわけで。
彼女もその
「このままじゃ独身ルートまっしぐら、さすがにまずいと感じて禁酒を始めたんですよ……」
俯いてしまっているせいで安住さんの表情はわからない。
「なのに……なのに……」
ただ彼女がなにを言わんとしているかはわかる。要は――、
「松田さんのせいで独身ルートが確定しちゃいましたよぉ! どおしてくれるんですかぁ!」
安住さんはクズだ。
未婚の俺には娘がいます~娘とは久しく喋っていなかったのですがここ最近はお隣さんのおかげもあって徐々に俺と話してくれるようになりました。それにしてもお隣さん、家に来すぎでは? 深谷花びら大回転 @takato1017
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。未婚の俺には娘がいます~娘とは久しく喋っていなかったのですがここ最近はお隣さんのおかげもあって徐々に俺と話してくれるようになりました。それにしてもお隣さん、家に来すぎでは?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます