【読み切り短編】ポンコツ(高性能)AIクッキング

山鳥 雷鳥

青年は卵焼きの作り方を知りたい

 何も無い部屋、というか、何もないわけでは無いが、面白みも無く見栄えも無い部屋に俺はいた。


 ―なぁ、アルクサ。

『なんでしょうか?』


 すると、ピロン、と機械的な音を鳴らしながら部屋の中では女性の声が響き渡る。

 女性の声、というべきか機械的な女性の声は、近年、とある有名な会社が開発したAI搭載型の器具なのだが、ただ命令するだけではなく、料理のレシピや部屋の電気をつけてくれる便利なサポートメカなのだ。

 当然、AI搭載と言いう事で話し相手になってくれる何とも人様に優しい物。

 

 ―卵焼きの作り方を教えて。


 再びピロン、と音が鳴り始め、アルクサは答えを言う。

 当然、卵焼きの作り方なんて名前の通り原材料は卵を使って料理する物のはずなのだが、


『まずは豆腐を砕きます』

 ―ちょっと、待って。なんで豆腐?


 急に豆腐と言う単語が出てくる。

 本当になんで? 卵焼きに真っ先に豆腐と言う単語が最初に出てくるの? 仕込みでも使わないよ?

 そのような事を思いながら、そ、そう、と半ば驚いたような返事をしながらアルクサの返事を聞き続ける。


『だし醤油を5L準備します』

 ―そう、分かった。だし醤油ね。ごめん、ちょっと待って、5L?


 やっとまともな回答が出てきたかと思いきや、だし醤油『5L』。

 尋常じゃない。人が死ぬぞ。


 ―ん~、アルクサさん? もう一度、卵焼きのレシピを言ってくれない?

『………………卵を準備します」

 ―おお、やっと、まともな奴が出てきたよ。

『ご飯の上に掛けます』

 ―おお?

『掻き混ぜたら完成です』

 ―ちゃうねん。それは卵かけごはんなんやねん。それもめちゃくちゃシンプルな奴。


 やっと、まともな内容が出てきたらこのアルクサ、予想外な物を言い始め挙句の果てには別の料理になっているし、ほんろうにこいつは俺に卵焼きを作らせる気があるのだろうか?


『ははっ』

 ―いや、笑うなや。ほんま御願い、卵焼きの作り方教えてくれやし。

『卵をそのままフライパンで焼きます』

 ―あ、やっとまともなのでたぁ。そうそう、そうなのね、分かったわ、ってちゃうねん、そのままやったら卵爆発するわ……分からんけど。

『爆発はしません。きちんと焼けます。これが本当の《卵焼き》、てね』

 ―そうそう、ってちゃうねん。いや、卵を割った後の工程を知りたいんねん。だからほんまにお願い、教えて。


 たまに思うんだ。人工知能にも馬鹿な奴がいるんだなって。

 捨てようかな?

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【読み切り短編】ポンコツ(高性能)AIクッキング 山鳥 雷鳥 @yamadoriharami

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