地元の神ってるパイセン

カム菜

地元の神ってるパイセン


 俺は唸るような蒸し暑い夜を歩く。目的は近所のコンビニである。俺こと田中命は所謂不良である。故に、コンビニ前でたむろするのは必然なのであった。

 ズボンは腰で履くし、髪は染めるし、暴走族にだって入っている。俺は気合の入った不良だ。でも、俺よりもっと気合い入ってる不良の先輩がたには逆らえないので、目を付けられないように普段は派手な色の髪をパーカーで隠していた。俺はクレバーな不良なのである。

「おーーいミコトっち!遅いよーーー!!」

「なんかお前また馬鹿なこと考えてないか?」

 この2人はヤマトとタケル。暴走族とかには入ってないし、ちょっと服装が乱れてるくらいのザコい不良だが、ダチである。しょうがないからコンビニでアイスを奢ってやって黙らせる。クソ暑い中、アイスはマジで体力とか色々なものを回復してくれる生命線であった。そんなに暑いのに外でたむろするなというのは違う。そんなことを言うのは気合の入ってない奴だけだ。暑いなんてのは心の弱いやつが言う言葉だ。

「アチーーー」

「暑すぎムリ」

「……心頭滅却しようが何しようが、暑いよなぁ」

 いくら気合いが入っていても、暑いものは暑いのである。仕方がない。俺は建設的な不良なので、涼しくなる方法について考えた。

「あちぃしさ、怖い話でもしようぜ。気がまぎれるだろ」

「えーーミコトっちそれベタすぎーー」

「文句があるなら殴るが……」

「ミコトっちてんさーーい!ちょーサンセーー!!」

「ヤマトお前……いや、俺も特に異論はない。賛成だ」

「おーーー決まりなー。じゃあ俺から。お前らよっちゃん先輩って知ってるか」

「族の人だっけ?有名だよね。よっちゃそイカ常に食ってるからよっちゃん先輩なんだっけ」

「命お前まだ暴走族なんてやってんのか。今日も1人事故で死んだらしいぞ。危ないからやめとけって」

「うるせぇ。センコーみたいなこと言うんじゃねぇ。あとよっちゃん先輩のあだ名の由来は本名のヒデオ、英雄って字なんだけどよ、それがヒデヨって訛ってよっちゃんになったらしい」

「もう原型ねぇじゃん」

「なんでああいうあだ名ってよくわからん変形してくんだろうな」

「まぁこれはそのよっちゃん先輩が体験した話だ」

 俺はライターの火を顔の下に持ってきて怪しく照らした。ふいに、訪れた沈黙は、怪談を始めるにはぴったりな雰囲気を醸し出す。

「これはよっちゃん先輩が神在月に出雲大社にカチコミかけた時の話なんだが……」

「待って待って初手から意味不明なんだけど。聞き流すの無理やって。てか神在月って何?神無月じゃなくって???」

 俺は無理と言われたので、火を消した。暑いし。

「神無月と同じく10月のことだ。神様の集会が行われる出雲地方では、神無月は逆に神様が集まってくるからそう呼ぶんだよ」

「へー、タケルっち詳しい」

「へー、そう言う意味なんだ」

「ヤマトはともかくなんで命まで知らないんだよ」

 呆れたような物言いに一瞬カチンときたけど、喧嘩をするにはちょっと暑すぎるので軽くつねるにとどめた。するとタケルがつねり返してきた。仕方がないのでさらにやり返そうとしたら、まーまーとかいいながらヤマトに止められた。貧弱な奴め。

「なんでそんなことになったのさ」

「いやそれがよっちゃん先輩、言っちゃあなんだけどすげー馬鹿でさ。族の仲間が神在月の話したら、なん規模のでかい族が集会かなんかしてるって勘違いしたみたいでさ。俺在月にしてやらぁ!!ってソッコー遠征に行っちゃって」

「奇跡の馬鹿じゃん」

「逆にワクワクしてきたな」

「で、遠征しに島根まで行ったんだけど、そこで事故ってトラックに轢かれたらしいんよ」

「え、死んだの?化けて出る系?」

「馬鹿のお化けか……」

「いや先輩が怖い話じゃねぇんだ。……轢かれて、気がついたら宴会会場にいたらしいんだよ」

「「異世界トラックだ!」」

 馬鹿二人が急に声をそろえて言うので、少しだけびっくりした。もちろん態度には出さない。俺はクールな不良だ。

「なんだお前ら急に。とにかく、目を覚ましたらなんかめっちゃ豪華な飯と酒と酔っぱらった……なんか、人じゃ無さそうなものがいっぱいいる空間にいたらしいんだよ」

「怖」

「なんか入り口の近くの方の席だったらしい」

「その情報要った?」

「そこは下座なんだな」

「で、なんかとなりに座ってためっちゃギャルっぽいねーちゃんが話しかけてきたらしいんだよ」

「それ本当に地元のコスプレとかやってるお祭りとかに巻き込まれただけなんじゃね?」

「いやオカルトな話」

「オカルトだとしたら神様……の宴会なんだよな?神様ギャルとか嫌なんだけど」

「卍マヂ神卍」

「やかましいわ」

「ギャルのねーちゃん、なんか先輩の革ジャン?あれ先輩が自力で刺繍してんだけどよ。その刺繍チョー気にしてたみたいで。それなんの柄ー?とかめっちゃ聞かれたらしい。」

「まって先輩刺繍すんの?」

「でー、なんかそのギャルのねーちゃん、あーしもアマテラスパイセンに挨拶行く時にはめちゃ気合い入れて特攻服用意したべとか言ってめっちゃ意気投合したらしい」

「じゃあそれ天棚機姫神(あめたなばたひめ)だったんじゃないか?」

「いやわからんわからんわからん!タケルっち急に何?」

「あー、なんかそう言ってたかも。てかなんで知ってるんだよ」

「俺実は実家が寺でな」

「寺生まれのTさんじゃん」

「継ぐのが嫌すぎて仏教以外の宗教めっちゃ勉強するのが趣味なんだよ」

「反抗期のクセ強くない?」

「実は俺プリンス・フィリッフ信仰とか空飛ぶスパゲティーモンスター教とか詳しいぞ」

「しらねぇよ。二重の意味で」

「お前ら話脱線させんじゃねぇよ。まぁとにかく、そこでなんかすげーいろんな人と仲良くなりまくったらしいんだよ。先輩。なんか猿の頭の人とかいたけどそういうコスプレかな?でスルーして」

「たしかに先輩ヤベェんだけど、クセ強反抗期の衝撃が今んとこ若干勝ってる」

「結局朝までフツーに騒いで、で解散ムードになった時にな。周りと仲良くなりすぎてめっちゃ引き止められたらしい」

「帰る時に、ここにおいでよ!次いつくる?って聞かれたらしくってな……まー先輩ももう仲良くなっちゃったし抗争とかする気は無くなってたから、族辞めたらまた顔だすべって答えたんだってさ」

「それが一昨年の話。で、よっちゃん先輩、ちょっと前に族引退するーって言って最後の暴走する!って結構な峠を攻めに行ったんだよ」

「……まて、命その話なんか聞いたことが」

「タケル、ニュースとかもちゃんと見てるの真面目だよな。……先輩、その時に亡くなったんだよ。無茶な走りをしてカーブを曲がりきれずに崖から落ちて」

「その時一緒に走ってた人によるとさ。遺体は細切れになっちまってさ、で、それ全部急に集まってきた動物たち、それも何故かみんな真っ白な神様の遣いみたいなやつらがさ、持ってっちゃったんだってさ。で、先輩の遺体は未だに見つかってねぇらしいんだ」

 タケルのスマホの通知オンが鳴る。ニュースアプリの新着通知らしい。こまめにニュースをチェックするあたり、あいつは本当に真面目だなと思う。そこには、今日あった交通事故のニュースの続報が載っていた。亡くなったのは、田中命という少年だってな。それを見て、タケルの表情が固くなる。

「あー、そうだ。宴会での話もうちょっと続きがあってさ。先輩、宴会の時に子分とかいるのか?って聞かれて 俺たちのこと、紹介したらしいんだよ。名前を合わせると日本武尊になる面白い奴らがいるって」

 それを聞いたタケルは、隣のヤマトを連れて走り出そうとした。手遅れなんだけどな。

 途端に、鋭いブレーキの音がして、トラックが俺たちのもとに猛スピードで迫ってきていた。俺は、フードを外して、痛んだ金髪から美しい白髪に変わった頭を見せた。

「お前たちも、すぐに馴染めるさ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

地元の神ってるパイセン カム菜 @kamodaikon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ