おぼろのコエ
コトノハツルギ
マジナイの一環として屡々行われるウタイそれ自体を、マジナイオサの攻撃手段として解釈・定義することで、その中に含まれるコトノハを意味兵装として転用する手法。
コトノハは本来、コエまたはフミによってマジナイの文脈にこれを載せることで、初めて意味化される。コトノハと単なる言葉との大きな差異はそこにあり、従って、マジナイオサはまず第一に、如何にコトノハをマジナイに取り込むかを徹底的に叩き込まれるわけである。
が、一方で、そうして意味化されたコトノハは、マジナイという形式に必ず縛られることになる。マジナイとは「ウツシ」を原則とする現象であり、どうあれ、マジナイの対象となるものを明瞭に定義し、それらに対する、もしくはそれらから来るウツシが機能する状況でなければ効果を発揮しない。これは、マジナイオサが置かれた状況次第では即応性に欠ける部分があることは否めない。
例えば、マジナイオサが戦場に駆り出される場面では、敵方の有力な将を狙った攻撃を放つ、またはそのような攻撃を防ぐために彼らを用いることが大半だが、マジナイオサ自身を直接攻撃する兵士の存在は十分考えられる。しかし、この場合、マジナイオサ自身が敵方の兵全ての名前を記憶しているようなことでもない限り、マジナイは自らの身を守るためには使えないのである。
そこで使われるのがコトノハツルギという手法であり、ウタイという形式で唱えられたコトノハを「自分から自分に向けたマジナイ」とし、その効力として「コトノハを鍛造して武器化する」ものと定義することで、即席の意味兵装とするのである。
無論、ウタイの性質上、このマジナイはマジナイオサ自身がウタイを唱え続けている間にのみ効力を発揮するが、翻って言えば、ウタイを唱えられるだけの知識と息の長ささえあれば、意味兵装をそのまま携行し続け、場合によっては積極的かつ直接的な攻撃を行う余地さえ生じるだろう。
一方で、この種の唱えるという行為の継続を必要とするマジナイは、内包するコトノハを否定するような対となるコトノハを、唱える主体であるマジナイオサにぶつけることで、忽ちのうちに威力を失う。従って、マジナイオサがコトノハツルギを持ち出した場合、周囲の兵士はこれと直接対峙するのではなく、味方のマジナイオサを連れてきて、対抗的なコトノハをぶつけさせることが有効な手段となりうる。
ただし、唱え続けることで維持されるという性質上、ぶつけられた否定の文言をさらに否定し返すようなコトノハによるウタイを継続することができれば、変わらずコトノハツルギを維持することもできる。戦場に連れ出されるマジナイオサにとって、こうしたコトノハツルギの発動と、それへの妨害となるコトノハをぶつけること、更に妨害を無力化するためのコトノハを唱え直すことの3つは、昨今必須の技能となっていると言える。
☆☆☆
コトノハツルギは、萬の言葉で鍛えられる。
――――マジナイオサに伝わる格言、第十六番目。
世界のキリヌキ @YMSK082
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