今日の彼女の空模様

影束ライト

今日の彼女の空模様

 僕の幼馴染は天気女だ。

 彼女が笑えば空は晴れ、彼女が泣けば雨が降る。

 けどそのことを知ってるのは僕だけ、彼女自身さえ自分の心が空に現れることを知らない。

 今日の空模様はどんなだろう?


 _________

(入学式)

 今日は高校の入学式。

 僕と彼女は同じ高校に入学する。


 僕は今、晴れ晴れとした空を見ながら自分の家の前で立っている。

 なぜ自分の家の前で立っているかと言うと、単純に高校まで一緒に登校する約束をしているからだ。


 ただ高校までの道のりは彼女が僕の家の前を通る形になる。

 故に僕は自分の家の前で彼女を待っているわけだ。


 そうして突っ立ていると、長い黒髪を揺らしながら彼女が近づいてくる。


「おはよー!今日入学式だね!」


 彼女は元気に笑顔で挨拶をしてくる。


「おはよう。そうだね、高校もよろしく」


「うん!よろしくね!」


 僕らは互いに軽いお辞儀をする。

 そして二人で通学路を歩き出す。

 僕らの通う学校は電車を乗るほどの距離があるので、歩いて駅に向かいそこから高校まで歩く道のりとなる。


「高校、楽しみだね!文化祭とか修学旅行とか、中学のときよりもすごくなってるんだよね!」


「うん。でも早速、最初の一大イベントがあるよ」


「え?それって……」


 僕らが駅から歩いて数分、僕らがこれから通う高校が見えてくる。

 それと同時に下駄箱前に書かれたクラス分けの紙の前に多くの人が居るのが見える。


「そっか。クラス、別になるかも、しれないのか……」


 彼女がそう言った瞬間、晴れていた空が突然曇っていく。

 これは彼女が不安を感じている時の天気だ。


「お願い、私の代わりに見て!」


 彼女は人ごみに着くなり、まるで神に祈るかのように顔を伏せて手を合わせる。

 僕はそんな彼女の願い通り、人ごみをかき分けて自分と彼女のクラスを確認しすばやく彼女のもとに戻る。


「……どうだった?」


 そう聞いてくる彼女は顔を上げようとせず、また天気はどんどん雲の量を増やしていく。

 どうやらかなり不安らしい。


「クラスはね、なんと、」


「なんと?」


 そう聞き返してくる彼女、雲の量はさらに増えていく。

 僕が答えを伸ばして雨が降る一歩手前のような天気になった瞬間、


「一緒のクラスだったよ」


 晴れた。

 僕の一言で彼女は顔を上げ、それと共に真っ黒な雲で覆われた空は雲一つない晴天になった。


「うそ、ほんとに?……やったあぁぁぁ!!!」


 彼女は念のためと、天候が悪くなり人が減った紙を確認し、さらに喜ぶ。

 もはや空に薄い虹がかかるほどだ。


「じゃあ一年一緒のクラス、よろしくね!!」


「うん。よろしく」



 ____________

(テスト週間)

 時は進み、初めて高校のテスト週間。

 僕と彼女は僕の部屋でテスト勉強をしている。

 なお天気は晴れ。


「じゃあまずは文系から」


「それなら任せて!文系科目得意だから!」


 そう言う彼女の宣言は本物で、僕が分からないところを彼女はすらすらと教えてくれる。

 そして教えるたびに晴れている空がさらに晴れていくので、教えているのが楽しいのだろう。

 だがそんな時間も長くは続かない。


「じゃあそろそろ理系科目に移るか」


 その瞬間、彼女は目をそらし、空は急激に曇る。

 僕は天気など見なくても知っているが、彼女は理系が苦手だ。


「今日は文系科目頑張ったし、もう終わりに……」


「はいはい。教科書だして、やるよー」


 その後彼女はしぶしぶといった形で勉強をした。

 なおテストとテスト返却時の天気が崩れることはなかった。




 _____________

(体育際)

 時は夏休みを終え、秋が近づいてきたころ。

 我が校では体育祭が行われる。

 ただし開催当日、今日の天気は曇り気味だ。


「ふふふ、このまま雨が降ればいいんだ……」


 彼女は暗い表情で笑う。

 そのたびに空に雲が増えて暗くなっていく。


 その理由は明確であり、理由は彼女のでる種目にある。


「雨さえ降れば、リレーはなくなるんだ」


 彼女はリレーに出ることになった。

 別に彼女は運動が苦手じゃないし、クラスの中でも足は速い方だ。

 ただ問題は走る順番にある、彼女はじゃんけんに負けた結果リレーのアンカー。

 そして彼女は運動は苦手でないが、注目されるのは苦手。


 このまま雨が降ってしまえば多くの生徒の楽しみを奪うことになる。

 すでにいくつかの競技は終わっているので今さら延期をすることもない。 


 初めての体育祭だし、僕は最後まで楽しみたい。

 だから僕は彼女に声をかける。


「リレーで一位を取れたら、限定プリンおごってあげるよ」


 その瞬間、空に一筋の光が差した。

 だがまだ空は雲に覆われている、どうやらもう一声必要らしい。


「あとは、喫茶店の限定パフェも。どう?」


「……ほんと?」


「もちろん」


 僕が頷くと、空からだんだんと雲が消えていき、輝く太陽が現れる。

 つまり彼女がやる気になったということだ。


「よーし、やるぞー!!約束だからね!!!」


 そしてリレーが終わると、彼女は輝く太陽を背に笑顔でピースサインを僕に向けてきた。



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(文化祭)

 体育祭が終わり、そう時間をたたずに文化祭が始まる。

 僕らのクラスは割と無難にお化け屋敷だ。


「お客さん入りまーす!」


 その声でお化け屋敷は始まる。が、


「暗いよぉ、怖いよぉ」


 彼女は真っ暗な教室の中でそんなことをつぶやいている。

 ちなみに僕は教室内で音を流して怖がらせたり、物が壊れたら直したりする裏役だ。

 そして彼女は暗い場所が苦手だけどクラスメイトに押されて最後に人を驚かす雪女の役になった。


「無理だよぉ、なんで私が最後なの」


 マイナスな言葉を吐く彼女と連動し、カーテンの隙間を見ると外がだんだんと曇っていく。

 文化祭の雨となると外でやってる屋台が出来なくなるくらいだと思うが、この学校は夜に外で行われる一大イベントがある。

 僕はそのイベントを楽しみにしてるので今雨が降られると困る。


「ほらもうすぐお客さん来るよ。用意して」


「え~、でも暗いし、怖いし、この恰好はずかしいし」


 彼女は次から次に愚痴をこぼす。

 ただどれだだけ愚痴を言ってもお客さんは止まってくれないし空も晴れない。

 ……仕方がないな。


「ほら用意して。ちゃんとやったら休憩時間で好きな物おごってあげるから」


「……いつも私が物でつられると思わな」


「そういえば三組の喫茶店で出すパンがすごく美味いって噂だったな。五組はいろんなお菓子を出してるんだって」


「分かった、分かったよ!私やるから!その代わり覚悟してよね!」


 ……覚悟ってどれだけおごらせられるんだろう?


 そんな僕の財布が心配になる発言をした彼女がスタンバイしたのを確認し、僕は自分の仕事のために裏にまわる。


 その時、カーテンの隙間から光が漏れているのが見えた。



 ________


 文化祭は順調に進み、僕の財布の中もかなり寂しくなったころ、文化祭は最後のイベントを迎えていた。

 その最後のイベントこそ運動場で行われるキャンプファイヤーだ。



「すごいね。私キャンプファイヤー見るの初めてかも」


「確かに、林間学校とか雨でキャンプファイヤーできなかったからね」


 あの時は彼女関係なく雨が降り、あのとき彼女の力も絶対じゃないってことを知ったんだよな。

 僕らが人が少ない隅の方でキャンプファイヤーを眺めていると、どこからともなく音楽が流れ始め、それに合わせて何人かの生徒が踊り出す。


「おぉ、みんな楽しそうだね!」


「うん。……せっかくだし一緒にどう?」


 僕が手を差し出すと、彼女は驚きながら手を取ってくれる。


「そうだね。せっかくだし、踊ろうか!」


 僕たちは星明りに照らされながら踊ったのだった。



 ___________

(クリスマス)

 僕と彼女はクリスマスの今日、昼から遊ぶ約束をしている。

 出かける前に天気を確認すると一日中晴れ。

 いい天気ではあるが、ホワイトクリスマスにはならなそうだ。

 彼女は結構ロマンチストなので、雪が降れば喜ぶと思ったのだが。


「こんにちは。寒いね」


「こんにちは。ちゃんと防寒してきた?」


 彼女は手袋やマフラーを僕に見せて防寒してきたとアピールをしてくる。


「よし。じゃあ行こうか」


 今日は駅の近くにあるショッピングモールを回り、近くのカフェでパフェをおごるというのがメインだ。


 どの状況も天気が崩れるようなことは無かったし、パフェを食べている時はとてもよく晴れていた。

 そうして遊んで過ごし日が傾いたころに帰る。

 ただ冬というのは暗くなるのが早い物で、家の近くに着くころにはすっかり夜だ。


 本来ならすぐにでも帰らなけらば行けないが、僕は今日やりたいことがあるので彼女の了承を得て少し寄り道をする。


「おぉ~、なんか久しぶりだね!」


 僕らが今いるのは家の近所にある高台。

 昔はここでよく遊んだものだ。


「相変わらずの言い景色だね」


 高台からは街のほぼ全体を見通すことが出来る。

 今はいろんな家の明かりが夜を照らす景色が見える。


「でもどうしてここに寄ろうなんて言ったの?」


「……今日は楽しかった?」


 僕の突然の質問に驚きながら、彼女は頷く。


「うん。すごく楽しかったよ?」


「そっか、それはよかった。………」


 僕はしばらく黙ってしまった。

 いや、次に言うべき言葉は考えてたが、いざとなると全部忘れてしまうものだ。

 それに彼女は次の言葉を急かしてこない、おそらく感づいているのだろう僕が何を言うか。

 僕は一度深呼吸をし、彼女に向き合う。

 考えるのはやめた、空を見ることもしない、ただ彼女に伝わればいい。


「あなたのことが好きです。僕と恋人になってください」


 僕は頭を下げながら手を伸ばす。


「………」


 しばらく僕が手を伸ばしていると、不意に頭に冷たい感触を覚えた。

 そして彼女の方を見た瞬間、彼女は俺の手を握って、


「私でよければ、あなたの恋人にしてください」


 笑いながら答えてくれた。


 空からはまるで二人を祝福するかのように雪が降った。





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