第12話 拝啓2
拝啓
このたびはご丁寧なお返事をありがとうございます。
実はその手紙の後、祖父の病状が悪化いたしまして。
ほんとうにあの後すぐでした。
あの手紙も、最後の力を振り絞って書いたものと思います。
今だ、どうやって書いたのか分からないのですが、何しろ手紙が書けるような状況ではありませんでした。
おそらく手紙を出した後だと思われますが、祖父は本当に心やすらかになりました。
まるで最後の仕事をやり終えたという満足感と達成感に満たされいていたのかもしれません。
そんな風に感じられました。
申し訳ありません。
祖父ではないのでどういう内容の手紙だったのか想像でしかないのですが、なんとなく想像が出来なくもありません。
と言うのも末期になりモルヒネなどの影響で、うわごとのような事を口走っておりましたおり、さまざまな事を、うわごとのように繰り出していたころ、気になる言葉の塊を口走る事がありました。
「会いに来てくれたの」
「久しぶりだね」
「花火に行こうよ」
「人形劇、すごかったね」
「会いたかったよ」
「あれからどうしてたの」
「あれ、どうしたの、どこに行ったの」
「隠れてないで出ておいでよ」
「出てきてよ。出てきてよ」
「僕を一人にしないで」
「一人で、行かないで」
うわごとは亡くなった祖母の事と思っておりましたが、途中からどうも違うと言う印象がわきました。
それはあたかも誰かが尋ねて来て、思い出話をしているうちのまたどこかに行ってしまったという印象でした。
言葉は若い男の子のようで。
せっかく会いにきてくれたのにまた。
去ってしまった。
そんな切なさが伝わり、むしろこちらの胸まで締め付けられる思いでございました。
明らかに祖母の事ではない。
家族の間では、戸惑いが広がりました。
そうなるとむしろ、すでに祖母が他界している事が良かったとさえ思えました。
ですが今回お手紙をいただき、家族一同ふに落ちたという思いでございます。
こちらといたしても、遠い過去のことですし、そういうことがあったんだなというだけでござます。
そちらのご家族と思いは同じで、祖父にもそういうことがあったんだなと、孫の私がいうのもおかしいですが、微笑ましく感じました。
祖父はひどく寡黙な人で、他者にも自分にも厳しい人でした。
そんな人ですから、祖母も苦労したのではと思いきや、祖父は祖母に対してはとても優しく、孫の私から見ても本当に仲睦まじいと言う言葉がしっくり来るそんな感じでした。
ですから、このようなお手紙は、少し驚きに満ちてはいましたが、祖母がもし生きていたとしても、昔のことと、笑い話になっていたことでしょう。
祖父の別の一面を見ることが出来て、より祖父への人となりが垣間見えたように思い、家族一同喜んでいる次第です。
今回はお知らせくださり誠にありがとうございました。
最後に、おばあさまのご冥福をねがい、筆を置かせていただきます。
ありがとうございました。
敬具
夏の恋人「盲目のお姫様と馬」 帆尊歩 @hosonayumu
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