第11話 拝啓1
拝啓
ご丁寧なお手紙いたみいります。
まずは結論から言わせえていただきますが、せっかくご丁寧なお手紙をちょうだいいたししましたが、とうの祖母が他界しておりまして、この手紙を見てはおりません。
祖母宛の手紙ではありますが、大変失礼ながら、中を開けさせていただきました。
内容については何も申しません、祖母も他界ており、ああこういうことがあったんだなという印象です。
私にとっては、祖母は祖母でしか無く、このような若いときのことがあったと言うことが、当然あったと言うことは頭では分かりますが、全く認識出来ませんでした。
むしろ若いころの祖母の新たな一面が見て取れて、より祖母への思いが強くなったように感じます。
無論このような性格のお手紙ですから、この先何かが起こるような、過度なご期待はされていないと信じますが、いくら祖母が亡くなっているからとはいえ、何の音沙汰も無いことは、あまりに失礼と思いペンをとりました。
そうは申しましても、孫の私が何を言えるかと言う物でもございません。
ただ一つ何の慰めになるか分かりませんが、もしこの手紙が祖母の亡くなる前に届き、祖母が読んでいたら間違いなく、歓喜にあふれ、心安らかに旅だったことでしょう。
余命だとか、老い先などと申されておりますが、是非祖母の分まで心安く、長生きなさってください。
確実に言えることは、それを祖母も願っているはずです。
このたびはご丁寧なお手紙を誠にありがとうございました。
祖母になり換わりお礼を申します。
最後になりますが。
このようなお手紙を書かれたことについては、相当の覚悟があっての事と推察いたします。ですが、ご心配なさらぬよう申し上げます。
遠い過去の事でありますし、家族一同むしろ祖母の別の面が見られて、喜びと安心をいたしておる次第でございます。
思えば私ども家族からいたせば、祖母は母であり、私からすれば優しいおばあちゃんでした。
無くなる寸前まで私たち家族の心配ばかりしておりました。
私たち家族の事ばかりを気に掛けているような祖母の人生は、本当に幸せな人生だったのだろうか。
母が幼いころにはそれなりの苦労もしていたそうです。
それでも、私ども家族としては暖かい家庭を築き、子や孫に囲まれる生活の中で、確実に祖母は幸せだったはずだと信じております。
そこで今回のような、さらなる潤いのある青春があったと言うことに、家族一同祖母が幸せな人生を送ることが出来たのだろうと言う思いを強くいたしました。
むしろこの手紙をいただき家族一同お礼を申し上げたいくらいでございます。
ありがとうございました。
今後とも健やかにお過ごしくださることを切に祈っております。
敬具
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