第10話  あなたを愛していた

そして卒業するとあなたはカナダに帰ってしまった。

何度も言いますが、私とあなたは、そう多くの時間をともにしたと言うことではありませんでした。

ですから、あなたがカナダに帰ってしまっても現実の私の生活には何の影響もありませんでした。

でも、あなたとの思い出が少ないが故に、その一つ一つの思い出は、私の中に蓄積して行き大きな物となり、あなたとの思い出を必要以上に大きな物へと変化させて行きました。

ですから、何も変わっていないはずなのに、あなたがいないと事実だけで、言い知れない寂しさを感じるようになりました。

私も実家から帰って来るように言われていましたから、あなたの事もあり、私も帰ることを実家につたえたのでした。

東京に未練が無いとは言いませんが、東京に残りたいと考えた一番の理由はやはりあなたでした。

あなたがカナダに帰ることを知り、実家に帰ることを言うとき、何の抵抗の未練も感じなかった。

いや違う、むしろ、ここにいたくなかった。

東京はあなたとの思い出が強すぎる。

それは数が少ないからこその重い想いでした。

あの頃の私は、東京にいることが苦痛でした。

全ての出会いを完全に想い出せるくらいの、数少ない接触しかなかったのに。

あなたとの思い出となるような場所など、日付の含めて、全て言えるくらいしかないのに、東京にはあなたとの思い出がありすぎる。

あまりにおこがましい物言いですが、そこにあったのは、たえずあなたの事を心の中の恋人にしていたからだと思います。

どこかにでかければ、今度ここにあなたを連れてこよう。

何かおいしい物を食べたら、今度ここにあなたを連れてこよう。

とても綺麗な景色を見たら、ここにあなたを連れてこよう。

そんな事をいつも思っていたからだと思います。

そして、あなたはカナダに帰ってしまう。

そして、あなたには二度と会えない。

そして、あなたとの思い出は大きな穴となって私の心を貫く。

そういう寂しさでした。

こんなことを言うとあなたは笑うかもしれませんね。

でも最後にもう一度言います。

私はあなたを愛していたんです。

本当に愛していたんです。

心から、愛していたんです。


私にも、あなたにも家族がおります。

それがいかに不道徳なことかは重々承知の上でなお言います。


私はあなたのことを愛していたのです。



申し分かりません、最後に最後にこの命がつきるがため、どうしても伝えたく、ペンを取りました。

ご不快な思いをさせたなら、心からお詫びいたします。

申し訳ありませんでした。

敬具


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