第9話  「盲目のお姫様と馬」

巨大人形劇は前回の時と同じく美術博物館の、中庭でした。

再演は本当にひさしぶりでした。

この人形劇を作った人形師は、日本人ですが、普段はヨーロッパを拠点にして居る人で、出身は北海道なので、上演は北海道が多いようですが、このフェスタだけは特別のようで、毎年のように何かしらの出物を見せてくれていました。

ですから、このお姫様と、馬の劇もいくつもの作品の一つだったので、なかなかやってくれることは無かったのです。

だからこの巨大人形劇は、本当に久しぶりでした。

夕暮れになり、博物館の中庭に行くとすでに人が集まっていました。

その風景は何一つ変わらない。

あの高1の時にあなたと見たときと何も変わらない。

と言うより、何だかあの頃に戻ったような錯覚を感じました。

馬のいななき、音楽、せつないい歌、怪しくブルーに輝く巨大な馬。

踊りまくる盲目のお姫様、でも私はずっとあなたの横顔だけを見ていた。

もう会えないかもしれない、そんな思いから。

私はあなたの横顔から視線をずらすことが出来なかった。


人形劇が終わると、スタッフの紹介などがあり最後にワークショップと言うことで操りの糸、この場合は完全なロープでしたが、それを引かしてもらうイベント。

私たちも引かしてもらい、割と重いことに驚き、楽しそうに笑うあなたの横顔を見ていたら様々なことは全部どうでも良くなり、ただただあなたの楽しげに笑う横顔を見ているだけで私も何だか嬉しくなって、ワークショップのロープを引いていました。


家路へと歩きながらあなたは子供の時のようにはしゃいで、

「アー、楽しかった」と、くどいくらい言っていましたね。

でも家が近くなってくると、急にあなたは黙ってしまった。

そしてアー楽しかったーと言っていた人とは思えないくらい、沈痛な面持ちで、口を開きましたね。

「あの盲目のお姫様はあたしなんだわ」

「えっ」と私は聞き返しましたね。

「あたしは。このまま日本にいるって盲目的に思っていた。そしてその目を開かせてくれた馬はあなたなの」

「どういうこと」

「あなたといろいろなところに遊びにいって、やはりここはあたしの居場所じゃなという思いがどんどん強くなった。

どんなにひどいことを言っているか、重々承知しています。

ごめんなさい。

でもあなたには感謝しているの。

あなたはあたしの目を覚ましてくれた馬なのよ。

どんな感謝しても仕切れない、と同時になんてひどいことをしているんだろうということも分かっています。

でもどうすることも出来ない」

あなたの目から一粒の涙がこぼれた。

その涙に私は気づかないふりをした。

でもその先の言葉が見つからず、そこからは私たちは何も話さず、ただ並んで家へと帰ったのでした。



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