第24話 その後(エピローグ)
エデンが完全停止すると、メンガはすぐに全世界に向けてエデンを止めたことと、これまでの経緯を発信した。
メンガの言葉を聞いた世界の人々の反応は様々だった。解放を喜ぶ者、怒る者、メンガの言葉を全く信じていない者、何も気にせずそのまま日々を送る者、本当に様々だった。
僕は戦いが終わった後、家に戻って両親に兄、隆生の存在と、彼がどれだけすごいことを行っていたか説明した。今まで記憶を不活性化されていたので、当初両親の反応は鈍かったが、段々とその記憶を思い出し、彼の死を嘆くようになった。
エデンがなくなり多少の混乱はあったが世界はきちんと機能し続け、何事もなく時が過ぎていった。
エデン停止から1年後、僕は東京から飛行機に乗りバンクーバーへ向かった。目的はエデン維持過激派の攻撃で命を落とした人たちを追悼する式典に出席するためだ。
その式典の前日、僕は黄田たちとバンクーバーのレストランで会う約束をした。レストランの入り口に入ると、すぐに黄田が手を振って僕に居場所を知らせてきた。テーブルには黄田の他、丁、ロバーツ、カリムもいた。
「皆さん、お久しぶりです」
僕はすぐにみんなのいるテーブルに行き、あいさつをした。
「あら、少し大人っぽくなった?」
カリムが聞いてきた。
「本当ですか? 嬉しいです」
僕はイスに座って、彼女にお礼を言った。
「そりゃ、現場で揉まれればね」
黄田が当然よという感じで言った。
「黄田さんは、こちらの病院にはもう慣れました?」
「お陰様で。充実しているわ」
黄田は現在日本を離れ、ここバンクーバーの病院で働いていた。
「いらっしゃいませ。お飲み物は、何になさいますか?」
ウェイターが聞いてきた。
「じゃあ、ジンジャーエールで」
「戸矢君。ここはカナダだから、飲酒してもオーケーだよ」
ロバーツがお酒を勧めてきた。
「ああ、そうか。でも、いいです。すいません、それで」
「かしこまりました」
ウェイターはすぐに下がっていった。
「重紀君。丁さん、今だに女子に人気があるのよ。さっきもサインくださいって若い子にせがまれたんだから」
黄田がいやらしい表情を浮かべながら言った。
「羨ましい。モテモテじゃないですか、丁さん」
僕は素直な感想を述べた。
「冗談じゃないよ。一人で考えたい時にすぐに声をかけられるんだぞ? 落ち着かないよ」
丁は本当に嫌そうな表情を浮かべながら答えた。
「それなら、普段から光学迷彩服を着ていたらどうですか? 誰にもバレないですよ」
カリムが少し茶化すような感じで言った。
「ああ。だから、一人で考えたい時はたまに使ってる」
「えっ」
皆の口から驚きの声が漏れた。
「使ってるんだ」
黄田が少し悲しい顔をして言った。
「えっ、いや、あれを使って公園のベンチに座っていたら、考えがよくまとまるんだよ。変なことには使ってないからな」
丁がしどろもどろになりながら答えた。
「うん。それは信じる」
黄田の表情を見る限り、それは本当に信じているみたいだった。
「お待たせいたしました。ジンジャーエールです」
ウェイターがジンジャーエールを持ってきた。僕がそれを受け取ると、ロバーツがグラスを持って口を開いた。
「では、改めて。みんなグラスを持って」
僕らはそれぞれ自分の飲み物が入ったグラスを手に取った。
「安室君をはじめ、今回犠牲になった全ての人のご冥福を祈って」
ロバーツの追悼の言葉に合わせ、僕らは軽くグラスを掲げ、それぞれ手にしていた飲みものに口をつけた。
次の日、僕らは式典に出るためナノネクストコーポレーション本社跡に向かった。現在この場所は公園になっており、その一画には慰霊碑とグループホームが建てられた。
「昔の面影が全くないですね」
僕は隣にいた黄田に話しかけた。
「ええ。最初この場所にまた会社を作ろうって声もあったんだけど、公園や慰霊碑を作った方がいいって声がだんだん大きくなって、今の形になったの」
「エデンから解放された影響が、少しずつ出てきたんですね」
「ええ。この事実だけでも私はエデンを止めて良かったと思ってる」
「そう言ってもらえると、僕も救われます。理由はどうであれ、僕は自らの手で人を殺していますから」
「後悔してない? 自分の決断に」
「ええ。ですが今後、敵味方関係なく犠牲になった全ての人たちの人生を背負い、彼らに対して恥ずかしくない生き方をしたいと思っています」
「相変わらず、真面目ね」
「そういうふうにしか生きられないんです」
「うん。知ってる」
黄田はすぐに答えた。
「ところで、黄田さん。まだ、端末で僕のバイタルとかチェックしてるんですか? 昨日、レストランですぐに僕が来たことに気づいたのも、端末で居場所を調べたからですよね?」
「ええ、そうよ」
「そろそろ削除してくださいよ」
「私、削除方法知らないんだけど」
「えっ?」
「まあ、いいんじゃない。昨年までエデンにずっと監視されていたんだから。エデンから私に代わっただけよ。大した違いはないでしょう?」
「ありますよ」
「あっ、ほら。メンガが来たわよ」
前を向くと、丁度メンガがステージの上に現れたところだった。皆、一斉に拍手をし、彼を迎え入れた。
僕も周りに合わせて拍手をしながら、彼女からの独立を勝ち取る方法を考え始めた。
<終>
世界はまだ、完璧ではない 交刀 夕 @KITAGUNIsan
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