第23話 人の業

「どう言う意味ですか?」

マラハイドがゼーダーにたずねた。


「私、ゼーダーは人間ではありません。エデンが生み出したアンドロイドです。そして今は人型ロボットを操って、皆さんと話をしています」


「あなたは独立したAI? それともエデンそのものなの?」

黄田が彼にたずねた。


「独立したAIであり、エデンの一部でもあります。私が生まれたのは今から40年前、一つの実験がきっかけでした。AIに知りたいと思う好奇心を与えれば、人間のように考えられるAIができるのでは? このコンセプトのもと作られたのが私です」


「それでその後はどうなったの?」

黄田は再び彼にたずねた。


「色々な経験を重ねていくうちに、私は人間という存在にますます興味を持つようになりました。より人間の事を理解するため、私はエデンデバイスを使って人間に私専用のアンドロイドを作らせました。そして、その体を使い、私は人間と同じ生活を始めました」


「つまり、あなたは人間という存在について、とても詳しくなったのね」


「はい」

黄田の質問に、ゼーダーはすぐに答えた。


「そんなあなたが何故、エデンを止めないようお願いしに来たのですか?」

今度はマラハイドが質問した。


「分析の結果、多様性は人類に向いていないということが分かったからです。見ての通り、人は意見が合わなくなると、すぐに争いを始めてしまいます。加えて、今の世の中は様々なものが高度にかつ複雑になりすぎて、人間の脳が扱えるデータ量を超えています。だから私は皆さんのため、複雑なものを減らし社会が回るようにしたいんです」


ゼーダーは淀みなく答えた。


「ゼーダー。私は今、オープンチャンネルであなたに話しかけています。私の声が聞こえますか?」


メンガがゼーダーに話しかけた。


「はい。聞こえていますよ、メンガさん」


「あなたの元になっているAIエデンは、作られてから120年後にアースゲイザーによって見直される決まりになっていましたよね? それはエデンによる社会運営が適切かどうかチェックするために作られた機能です。我々アースゲイザーが出した結論は、エデンを完全停止させることです。にもかかわらず、あなたは我々が出した決定を否定し、自らの意思を押し通すのですか? 賢いあなたのことです。自分が今、間違ったことをしていることに自覚はありますよね?」


「ええ。よく分かっています」


「では、我々の邪魔をせず、機能を停止することを受け入れてはいかがですか?」


「いえ。そのつもりはありません」

ゼーダーはすぐに答えた。


「何故です?」


「意見が違うだけで殺し合う皆さんの姿を見ていて気がつきました。私のこの抗う姿こそ、人間に最も近い行動なのだと。ですから、私はあなた方の決定を受け入れる気はありません」


「そうですか。残念です。マラハイド、エデンの機能を停止してください」


「分かりました」


マラハイドは振り返り、エデンサーバーを管理しているコンピューターに鍵を差し込もうとした。


「正直、このような手法は取りたくなかったのですが……」


ゼーダーの発言の後、どこからか地響きのような音が聞こえてきた。


「何をした?」

マラハイドが手を止めてたずねた。


「軍事衛星の一つが、地上を攻撃した音です」


「もしかして、ハッキングしたのか?」


「はい。世界中のもの全て。メンガさんは見ていましたよね? 他の地域でもレーザーが照射されたのを。あなた方も軍事衛星のハッキングを行なっていたので少々時間はかかりましたが、この世界の全ての軍事衛星は、現在、私の管理下にあります」


「メンガ。今の話は事実ですか?」


マラハイドが無線で確認を取った。


「ええ、残念ながら」


「これで私が本気であることが分かったでしょう。マラハイドさん。私に鍵を渡してください」


「断る」

マラハイドはすぐに断った。


「まだ、分かってないようですね。私は今、人がいない所を攻撃しましたが、次は都市を攻撃しますよ?」


ゼーダーに脅されても、マラハイドは黙ったまま鍵を渡そうとしなかった。


「分かりました。マラハイド。鍵をゼーダーに渡してください」


メンガはマラハイドに鍵を渡すよう命令した。メンガに言われ、マラハイドはゆっくりとゼーダーに向かって歩いて行き、右手を彼の前で掲げた。


「鍵は何処です?」


ゼーダーがたずねた。マラハイドの手に、鍵はなかった。


「やっぱり、切り札というものは最後まで取っておかないとダメね」


黄田が口を開いた。


「あなたは何を言っているんですか?」

ゼーダーが黄田にたずねた。


「停止シークエンスを開始します」


突然、エデンサーバーを管理するコンピューターが作動し始めた。よく見ると、エデンを止めるための鍵は、しっかりそこに刺さっていた。


「任務完了しました」


丁が光学迷彩服から顔を出し、口を開いた。


「突然、手を握られた時は驚いたよ」

マラハイドが勝ち誇った口ぶりで言った。


「マラハイドさんなら取り乱さず、すぐに気づいてくれると思ってました」


丁は相変わらず冷静な口調で答えた。


「ああ、私が消えていく」


ゼーダーの声を出していた人型ロボットは、その場に崩れ落ちた。AIエデンは完全にその機能を停止した。

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