第22話 中央制御室へ

メインサーバーへ向かう途中、先程ほふく前進で進んだ場所に出ると、機能を停止した維持過激派のヒューマノイドやドローンが部屋の真ん中に集められていた。メンガのいう通り、彼らのAI兵器は完全に沈黙していた。


「お疲れ様です」

黄田がその場を仕切っていた人型ロボットに声をかけた。


「お疲れ様です。見ての通り、完全に沈黙しています。皆さん。ご苦労様でした」

男性から明るい声が返ってきた。


「ありがとう」


黄田の言葉に合わせて、僕と丁も軽く頭を下げた。


「これからメインサーバーに向かうのですか?」

人型ロボットの男が聞いてきた。


「ええ、そうだけど」

黄田が男の質問に答えた。


「それなら、光学迷彩をしたまま向かった方がいいですよ。まだ、維持過激派の人型ロボットや生身の人たちが抵抗を続けてますから」


「そうね。エデンを止めるまでまだ何があるか分からないものね。そうするわ。ありがとう」


「どういたしまして」


僕たちは再び光学迷彩服を着込み、中央制御室に向かって進み始めた。




メインサーバーがある中央制御室に入ると、そこには維持過激派のリーダーであるウェブの他、元軍人のテロン、機械工学が専門の寺迫が拘束された状態で座っていた。


三人の顔はメンガに見せてもらった画像で知っていた。彼らは少し疲れた顔をしていたが、闘争心が消えた様子はまだなかった。


「マラハイドさん。黄田です。エデンサーバーの鍵だと思われるものを持ってきました」


黄田は光学迷彩服を顔の部分だけ脱いで、マラハイドの人型ロボットに話しかけた。


「おう。ご苦労さん」

マラハイドは黄田から鍵を受け取った。


「確かに。以前、私が見たものとそっくりだ。ウェブさん。これで間違いないですか?」


マラハイドはウェブにたずねた。


「ええ。そうよ」


ウェブはあっさりと認めた。


「メンガ。切り替えの準備が終わるまで、あとどのくらいかかる? そう。分かった」


マラハイドはメンガとの通信を終えた後、今度はここにいる仲間に向かって無線で話しかけた。


「みんな聞こえるか。エデンの切り替え準備が終わるまで、まだもう少し時間がかかる。それまでここで待機していてくれ」


「了解」


皆、それぞれ返事をした。


僕は待っている間、目の前にいる維持過激派のリーダーであるウェブをずっと観察していた。

彼女は全く反省した様子はなく、ただ黙って床に腰を下ろしていた。


彼女は一体どんな気持ちで兄の殺しを命令したのだろうか? どうしても知りたくなった僕は、顔の部分だけ光学迷彩服を脱いでウェブに話しかけた。


「初めまして、ウェブさん。戸谷重紀と申します。僕の兄、戸矢隆生のことはご存じですよね?」


「ええ。覚えてるわ」

ウェブは冷静な口調で答えた。


「エデンを維持することは、兄の命よりも重要なことだったのですか?」


「そうよ。エデンがなくなれば再び多様性が広がり始め、社会がまとまらなくなる。あなたはこの世界を再びカオスの状態に導きたいの?」


「多様性がこの社会を崩壊させる一歩手前まで導いたことは、僕も知っています。ですが、人の記憶をいじってまで行うことが、正しい世界のあり方ですか?」


「じゃあ、あなたはどうやって人をまとめ、社会を運営していくの? それぞれ考え方の違う人間をまとめようとしたら、決まりを作ったり、リーダーを決めて強制的に進めたりしないとできないでしょう? それともあなたは他人と協力せずとも、個人の力で社会を回せると考えているの?」


「違います。他人と心を通じ合わせることで、まとまることはできないのかと聞いているんです。話し合い、その人が抱えているものを共有することで世界を形作る道だってあるはずです」


僕の言葉を聞いて、維持過激派のメンバーは一斉に笑い出した。


「なんだ。君は共感を求めれば分裂が生まれるということが分かっていなかったのか」


軍人上がりのテロンが口を開いた。


「どういう意味ですか?」


「君は快楽殺人者と共感できるかい? 人を殺すのが大好きだという人と」


「それは……」


「だろう? 人の好き嫌いは千差万別。全てを理解することなんて出来ないんだよ。それを無理に共感しようとするのは大変だし、出来たとしても今度は共感出来た者と出来なかった者との間で分裂が生まれる。だから、人は決まりを作ったり、権力を持った組織を作ったりして、超えてはいけないラインの中で自由を謳歌しているんだよ。君の言う人に過度の共感を求めるやり方は、まさに多様性という形で前世紀に失敗したんだ」


テロンの言葉に、僕は何も言い返せなかった。


「もういいわ。このまま話を続けても平行線のままよ」


黄田が僕の腕をつかみ、彼らから遠ざけた。彼らに言い返す言葉を持っていなかった僕は、彼女が取ってくれた行動に感謝した。


「こちらメンガ。準備完了。エデンを止めるシークエンスに入ってください」

メンガが無線で皆に知らせてきた。


「よし、やるか」


鍵を手にしていたマラハイドは、メインサーバーの前に立った。そしてコンピューターにその鍵を差し込もうとした丁度その時、一体の人型ロボットが中央制御室に入ってきた。


「皆さん。お願いです。エデンを止めるのをやめてください」


この声には聞き覚えがある。確か維持派のメンバーだったゼーダーの声だ。


「ひょっとして、あなたは維持派のゼーダーさんですか?」


マラハイドが突然入って来た人型ロボットに話しかけた。


「そうです。エデンを止めるのをやめてもらおうと思い、ここへ来ました」


「お言葉ですがゼーダーさん。このことは以前の話し合いの時、そちらも了承していましたよね?」


「ええ。その通りです。ですが、私が皆さんにお伝えしたいのは維持派としての意見ではなく、AIエデンとしての意見です」

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