第21話 カラクリ
吹き飛ばされた僕に、苦しんでいる時間はなかった。
耳鳴りがする中、僕は何とか体制を立て直し、ラボの奥にある壁の影に隠れた。そして、そこから少しだけ身を出し、女の姿を確認した。
身長は180センチくらいで、目にゴーグルのような物をつけていた。あれで光学迷彩を見破っているのか。でも、どうやって?
女が僕に向けて銃を撃ってきた。僕は慌てて壁の中に身を隠した。
彼女が電子パルス銃ではなく短機関銃を使用しているのは、生身の人間を標的にしているからだ。つまり、彼女は初めから僕たちがここへ来ることが分かっていたか、またはわざとここを手薄にして待ち構えていたということだ。
「オラオラ。壁の中に隠れてないで出てこいよ」
彼女が再び僕を挑発してきた。
光学迷彩は、赤外線カメラには映らない。重量センサーがあればこちらの位置を確認できるが、床にそのようなものは見当たらない。彼女は一体何を使って、こちらの位置を特定しているんだ?
「一つだけ聞かせてくれ。なぜ、戸矢隆生を殺した?」
考える時間が欲しかった僕は、彼女に話しかけた。
「あいつがエデンの仕様を変えるプログラムを作ってたからだよ。完成前に見つけてあいつもろとも葬り去ってやろうと思ったが、どうやらすでに完成していたみたいだな。まあ、こっちはもうすぐ世界中の軍事衛星をハッキングし終わるから、そんなこともうどうでもいいけどな」
「そんなことさせるか」
僕は胸から電子パルス銃を取り出し、彼女のいる方向に向かって発砲した。彼女はすぐに壁の影に身を隠した。
「お前たちに耐えられるかな? 自分達のために他の人間が犠牲になるのを」
彼女の言葉から、迷いは全く感じられなかった。
何としても彼女たちの暴走を止めなければ。僕は再び少しだけ壁から身を乗り出し、周囲の状況を確認した。
何か変わったものはないか? あたりを見回していると、すぐに彼女は再び僕に向けて銃を撃ってきた。僕は急いで壁の中に身を隠した。
その時、僕の肘に何かが当たった。それはこの部屋に置くにはあまりに似つかない黒い小型の箱だった。手にとってよく見ると、スピーカーのような物がついていた。なぜ、こんな所にこんなものが? 声を届かせるため? 入り口の方に視線を向けると、同じような箱がそこにもあった。まさか。
僕はもう一度、壁から姿を現し、彼女に向かって電子パルス銃を撃った。そして、その時、前方にも同じような箱がある事を確認した。
「おっと、お前もやっとやる気になったか?」
彼女がすぐに撃ち返してきたので、僕は再び壁の中に身を隠した。
間違いない。彼女はこちらの位置を三つのAIを使ってつかんでいる。
まず一つ目のAIが音波でこの部屋にある質量のあるものを解析する。
次に二つ目のAIが部屋の状況を通常のカメラ映像から解析し、そして三つ目のAIで本来そこに存在しているはずなのに、カメラ映像に映っていないものを探知する。
光学迷彩は光を屈折させることで姿を見えなくしているだけなので、質量はなくならない。だから、探知できる。
そういうことなら、今取れるベストな作戦はこれだ。僕は胸から音響閃光手榴弾を取り出し、彼女に向かって投げつけた。
「うわー」
彼女が悲鳴をあげた。僕は壁から姿を現し、前方に向かって走って行った。
そして、彼女の姿が見える所まで来ると、彼女に向けて電子パルス銃の引き金を何度も引いた。
兄の仇がとれること、任務を達成できること、彼女から反撃されるおそれがあること、様々な感情が僕に何度も引き金を引かせた。
「もう、十分よ」
誰かが僕の腕と銃をつかんで下げた。視線を横に向けると、そこには光学迷彩服から顔だけ出した黄田がいた。
「あなたの勝ちよ、重紀君。よく、やったわ」
黄田は倒れている彼女に向かってゆっくりと歩いて行った。そして側まで来ると、しゃがんで彼女の体を調べ始めた。その間、僕は何もせず、ただその場に立ち尽くしていた。頭の中は真っ白で、しばらく何も浮かんでこなかった。
「こちら黄田。敵の生死を確認中、ポケットからエデンのものと思われる鍵を発見しました」
黄田が少し興奮気味に本部と連絡をとった。その言葉を聞いて、僕もやっと我に返った。
「了解。これよりインストールを開始します」
黄田は立ち上がり、近くにあったコンピューターの前まで行った。そして電源を入れ、青いフラッシュドライブをそこに差し込んだ。
僕は黄田のそばに行き、その様子を見守った。モニターを見る限り、プログラムは順調に読み込まれていた。
「こちら黄田。インストール終了しました」
黄田が本部に状況を伝えた。するとしばらくして、メンガが全員に向かって無線でメッセージを伝えてきた。
「こちらメンガ。敵のシステムをハッキングし、自動防御システムを停止させました。次の作戦に移ってください」
僕たちの最初の任務は、無事成功した。
「すぐにメインサーバーの所に行くわよ」
その喜びに浸る間も無く、黄田が次の任務に移るよう促して来た。
「はい」
僕と黄田は実験室を出て、丁とともにメインサーバーがある中央制御室に向けて移動を開始した。
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