片想い相手の年上幼馴染が遅めの中二病に罹った!?

赤茄子橄

本文

バンッ。


「き、君の未来に不吉な影が差すのが視えたので、護りにやってきたコン!」



自分の部屋で勉強してたら、突然勢いよく扉が開かれ、ちょっとよくわからない言葉が歌い上げられるように部屋中に響き渡る。

見てみると、部屋の入口には、巫女服を着て狐のお面で顔を隠した女の子が、お祈りをするように両手を握った姿勢でこちらを向いていた。


控えめに言って相当恥ずかしい言動をいきなり見せつけてくれた彼女は、顔こそ見えないのとお面で若干声が籠もって聞こえるとはいえ、生来の高めの背丈とかその他諸々から中身が誰なのかは丸わかり。


本気で隠すつもりはないってことかな?


ただ、彼女は普段、こんなに意味不明な格好も登場の仕方もしない真面目系美人女子大生のはず。

普段は色恋とか全然興味ない感じで、誰にでも等しく優しい朗らかでサブカル的なノリとは無縁な性格。だったはず。


それがこの状況。一体どういうこと!?

知り合ってもう17年にもなろうかというのに、ここまで彼女のことがわからないと思ったのは初めてだよ。


「えーっと、舞依まい姉ちゃん? 今日はどうしたのかな?」

「私は舞依姉ちゃんではない! 身体は舞依のものだが中身は舞依ではない。元々この身体にはこの私、神使である狐巫女きつねみこが封印されていたのだ! 段々封印が弱まっていたところ、昨晩ふとした拍子にとうとう封印が解け、私が顕現したのだ。舞依の人格が心配かもしれないが、大丈夫だ。彼女は今、私のチカラの覚醒にあてられて気を失い眠っているが、消滅したわけではない。ひとまず私のことは狐巫女さまと呼びなさい。だコン」

「..................何か辛いことでもあった? 相談くらいならのるよ? あんまり自分の中に抱え込みすぎないでよ? 舞依姉ちゃん」

「ちょっ!? 別におかしくなったとかじゃないからね!? それと、舞依姉ちゃんじゃないって言ってるでしょ!? ........................ん゛ん゛っ。......わ、私は狐巫女と言っているだろうが。間違えるんじゃない。だコン」



彼女が何を言いたいのかはマジで全くわからないし、神使なのに封印されてたあたりの設定も意味がよくわからない。


けど、普段とは口調を変えようとしてるけどすぐにボロが出てるところとか、それを指摘されて声がちょっと揺らいでいて、仮面の奥が涙目になってることが容易に想像できる感じとか、語尾をお面に合わせて狐っぽくしようとしてるのとか。

そのあたりのなんともおバカっぽい言動がそこはかとなく可愛く感じるのは、僕が彼女に恋愛感情を抱いているからってだけじゃないと思う。


バカな子ほど可愛い現象とか、普段真面目な子がいきなり変なことしだすギャップが可愛い理論とか、なんかそういうやつが効いてる気がする。


謎の狐巫女を名乗る彼女の本名は、天使舞依あまつかまい

今年19歳になるピチピチの女子大生で、名前の通り天使みたいな可愛らしい人。


ショートボブの黒髪を、昔僕があげたリボンでハーフアップにした、いつも元気いっぱい、真面目な天使。

幼馴染の姉であり、僕の姉さんと生まれた日も場所も同じ幼馴染であり、必然的に、僕とも幼馴染の2歳年上のお姉さん。


真面目な彼女だけど、いつも天真爛漫な振る舞いでドキドキさせられて、気づいたときには好きにさせられてしまった俗な天使さま。



僕、御門音夜みかどおとやは、舞依姉ちゃんのことめっちゃ好きだけど、未だに告白とかはできてない。

その理由は、ありきたりだけど、ひとえに振られるのが怖いから。


舞依姉ちゃんは多分、僕のことは弟的な存在にしか感じてない。

舞依姉ちゃんからしたら、僕は「弟の友達」で「友達の弟」の幼馴染でしかないんだと思う。

そうじゃなかったらいつもいつも薄着で無防備に無い胸を擦りつけてきたり、適当な扱いをするわけない............。

その扱いはその扱いで役得感はかなりあるんだけどね。


けど、だからこそ告白なんてしてしまって、もし振られてしまったら、その役得感さえ失ってしまうから。

だから僕はこの恋心を秘めたままにしてる。



そんな目の前の彼女は今、天使じゃなくて、似合いまくってる巫女服に身を包んでお狐さまを名乗るという痛い姿を晒す堕ちた中二病患者。


大学生でコレは..................さすがにちょっとヤバくない?

舞依姉ちゃんに惚れまくっちゃってる僕でさえ、若干引くくらいには痛い気がするんだけど。

いや、いっそ可愛いんだけどね?



っていうか、狐巫女......?

なんかどっかで聞いた記憶がなきにしもあらずって気がするんだけど......なんだっけ?


まぁ、なんにしても、勉強もちょうど良い区切りまできてたところだし、舞依姉ちゃんの戯れにお付き合いさせていただくってのも一興かも。


「えー、それじゃあ、舞依姉ちゃ............「狐巫女!」............狐巫女さん? 今日はどういったご用向きで?」

「君の未来に不吉な影が差すのが視えたので、護りにやってきたコン」

「えーっと?」



さっきと同じセリフじゃん。

それ以外考えてきてないのかな? だとしたら余計に可愛いな。


「............君の未来に不吉な影が差すのが......「もうわかったから!」......これからしばらくはこの私、狐巫女がおとくんの身の回りのお世話をしながら悪霊から護ってやるコン」



ふむふむ、なるほど、わからないね。


けどまぁ多分、何かしら僕をからかいにきたか、遊びに来たって感じなのかな。

僕をからかうつもりにしては、あまりにも恥ずかしくて無様な姿を晒しすぎてる気もするけど、とりあえず何か聞いてほしそうだし、しばらくは話を合わせていこう。


「舞依姉......じゃなくて、狐巫女さんは一体何から僕を護ってくれるの?」

「っ!」



僕が話にのっていく姿勢を見せると、狐巫女さんこと舞依姉ちゃんの背筋がちょっとだけ伸びる。

お面で隠れてて見えないけど、多分いつもみたいにパァっと嬉しそうな表情をしてるんだろうな。可愛い。


「よくぞ聞いてくれた! この私、狐巫女の封印が解けて目覚めたとき、なんとな〜く音くんのことを占ってみたのだが、とても強力な悪霊に魅入られてしまっていて近いうちに大きな不幸に見舞われるのが視えたのだコン。その悪霊はいつどこで襲ってくるかわからない。なので! 対抗する力があるこの狐巫女が! 四六時中音くんの傍に控えておいて、護ってあげようということなのだよ! ......あ、コン」

「なるほど?」



わからん。

心做しか何か覚えのある話な気もするけど、なんだっけ?


っていうか、「なんとなく占ってみた」って、設定ガバガバ過ぎない?

なんでいきなり僕のこと占うんだよ。可愛いかよ。


あと語尾をちょいちょい忘れるくらいならもうつけないほうがいいんじゃないの。


「ちょっと信じられないんだけど、ほんとにそんな力あるの?」

「あ、あるよ! ......じゃなくて、あるコン」

「ふーん、そうなんだ。なんか力を見せてもらうとかできない?」

「い、いいコンよ。じゃ、じゃあ、音くんを護る結界を張ってやろう! ただ、結界は普通の人には見えないと思うから、証明にはならないかもしれないけどな」

「ほぅほぅ。とりあえずやってみてもらえる?」

「じゃ、じゃあ、やるぞ?」

「あ、うん」



まじか。やってくれるんだ。

絶対適当に誤魔化して終わるかと思ったんだけど。


戸惑う僕を放置して、自称狐巫女さんは結界作成に取り掛かった。


両手を僕の方に突き出して手の平を広げて、目に見えないチカラを送ってくるように「むむむむむ〜」と力んで見せたあと、何やら祝詞みたいなものを叫びだす。


「祓い給え、清め給え、神ながら守り給え、幸え給え......。六根清浄ろっこんしょうじょう! はぁ〜っ!」










「..........................................えっと......結界、張られたのかな?」



当然、なんも起こったようには見えない。


「うむ、強力な結界を張ってやったコン」

「じゃあもう狐巫女さんに護ってもらわなくても大丈夫ってことかな?」

「............あっ」



なんか考えてなかったっぽいな。ここも設定アマアマじゃん。

逆になんなら設定考えてるんだろう。

ダサ可愛すぎる。


「ん゛ん゛ん゛っ。そ、そんなことはないコン。結界は弱い悪霊しか跳ね除けられないから、強いやつがきたら私が直接追い払わなければナラナイノダコンー」

「そうなんだね。強力な結果だって言ってたのに意外と強くはないんだね。でも、ありがとうね」

「っ......。い、いいのだ、気にするでないコン。これが私の使命だコンからな」


使命なんだ。


最後らへん棒読みだし、なんかお面の下の首筋がめちゃくちゃ赤くなってるし。

そんなに恥ずかしがってるのにまだ続けるの? 逆に凄いね。


っていうか、ほんとになんで急にこんな意味不明な中二病(?)を発症しだしたんだろう?


もうそろそろコレに付き合うのも終わりでいいよね?


「ちょっ!? 何するの!?」

「え? いや、そろそろ終わってもらおうと思って」



僕もちょっと飽きてきたから、舞依姉ちゃん、もとい狐巫女さんに近づいてお面を剥ぎ取ろうとしたら凄い抵抗された。


「お、終わるって何のことかなぁ〜?」

「はいはい」

「わっ、返して!」



それでもまだトボけた可愛い反応をされちゃったから、無理矢理奪い取る。


「それで、舞依姉ちゃんは......「狐巫女だってば!」......舞依姉ちゃんは! どうしてこんな茶番をしようと思ったの?」

「狐巫女..................」

「いやいや、そういうのもう大丈夫だから。満腹だから。急にキャラじゃなさすぎることしだしてほんとに心配なんだけど」

「あ、い、いや........................その〜」

「............まさか大学でいじめられてたりしないよね?」



もしかしたら大学に馴染めなくて、僕に助けを求めた結果がこの中二病発症なのかもしれない。

そうだとしたらなんとしても助けないと。


「ち、違うから! 大学は楽しく通えてる! っていうか、大学まで来てそんなことする人いないから!」

「あ、そうなの? だったらよかった。で? なんでこんなことしてるの?」



僕のシンプルな質問に、たっぷり時間をかけて悩む狐巫女さん、もとい舞依姉ちゃん。

しばらくの間、僕の顔と、僕の手にあるお面と、地面の3つの間で視線を行き来させて逡巡したあと、観念したように「はぁ」っと溜息を吐いてポツポツと話し始めた。




「だって......音くんは、巨乳の子以外だったら、特殊能力に目覚めた不思議ちゃんしか好きにならないんでしょ......? ほら、棚の奥に隠してるえっちな漫画の中でも、1冊だけ凄く大事そうにしてるやつのヒロインがそうだったし............。他の作品にでてくる女の子たちは皆おっきい胸の子ばっかりで......。舞依はそうはなれないけど......。あの本だけ特別大事そうにしてたし、もしかしたらあのヒロインみたいなキャラに近づけたら、胸がなくても音くんが好きになってくれるかもしれないと思って............」

「ほぉ〜..............................?」







まだ全部はよくわからないけど、今の説明でなんとなく察するところがあった。


これはもちろん、本当に悪霊とか未来視とかできるって話じゃない。

もともと舞依姉ちゃんはそういう力とかない普通の女の子だし、狐巫女も封印されてたりするわけない。


っていうか、狐巫女って言葉になんか既知感というか聞き覚えあるなって思ったら、さっき舞依姉ちゃんに言われて思い出した。

僕の部屋の本棚の奥の奥に隠してるはずの漫画に出てきた設定そのままだわ。


漫画って言っても、本当は僕の年齢で読んじゃいけないR-18指定のすっごい下品なやつ。端的に言えば、アダルティな漫画だ。


別に僕が自分で買ったわけじゃないよ。

僕の生まれたときからの幼馴染で、舞依姉ちゃんの弟でもある天使恋治あまつかれんじが以前に僕に押し付けてきたものだ。


そもそも僕はそんなに性的な欲求とかない方だし、興味もちょっとだけしかない。

僕は基本的には自分でいやらしい漫画を持とうだなんて思わないタイプだ。


いつ姉ちゃんが物色するかもわからない部屋の中にソウイウモノを置いとくってこと自体、本当は不本意。

そんな小心者の僕が、自分でソウイウ漫画を買ったりするわけない。


ましてや長年好きな気持ちを伝えずに秘めていた相手である舞依姉ちゃんにだけは、マジで絶対見られたくないものだった。

でも恋治くんはめっちゃ強引だから、2次元モノも3次元モノも含めて、これまで何冊も何冊も押し付けられて、かと言って処分するにも困ってしまうほど。

結局、かの有名な死のノートばりの厳重な管理をするに至ってる。


大体、僕と恋治くんの女性のタイプはぜんぜん違う。

恋治くんはちょうど1年くらい前から僕の姉さんと付き合ってて、昔は無自覚だったらしいけど、ずっと姉さんの特徴に当てはまる女性ばかり推してきてた。


姉さんは、雰囲気だとか内面はお姉さん感に溢れてる大人しいタイプで、見た目は低い身長と大きな房をお持ちの、端的に言えばいわゆるロリ巨乳。

恋治くんが渡してくるアダルティな作品はどれもこれもそういう属性ばっかり。


対して僕のタイプは言うまでもなく舞依姉さんみたいな人。

舞依姉さんは不満そうにしてるけど、僕は愛しく感じてるまな板みたいな胸元。

姉さん曰く、AA寄りのAカップらしい。


運動神経が良くて暴れまわりがちな舞依姉さんにはむしろ好都合だと思ってたんだけど、特に大学生になってからは運動ができてもあんまり意味ないらしくって、いつも姉さんの胸元と自分のを見比べて悲しそうにしてる。

僕にとっては、そうやって悲しそうにしてる舞依姉さんの姿も、無性に可愛く感じられて好きなんだけど。



ともかく、天真爛漫ぺったんこ残念系お姉さん、って感じの属性が僕のドンピシャなんだけど、恋治くんの持ってくる作品にはそういうのは全くと言っていいほどない。

むしろ真逆の、大人しくて豊満なしっかりものヒロインばかり。

何が悲しくて姉さんと属性被りまくりのヒロインでお楽しみをしなきゃいけないのか......。


そんな中で唯一。ただの1本だけ、僕のタイプドンピシャ属性のヒロインが出てくる作品があった。あれを渡されたのはもう何年も前の話だ。

性欲はそんなにないけど、その作品だけは、1回だけお世話になった。


その漫画の中では、特殊な神通力を持った天真爛漫ぺったんこ不思議ちゃん系お姉さまが身を粉にして悪霊から主人公を護って、その姿に感銘を受けた主人公がヒロインにベタ惚れ。

後半はただただイチャイチャベタベタとくっついたり、ヤることヤったりするっていうお話だった。


ぶっちゃけストーリーはめちゃくちゃ雑で、イチャラブに全振りしている駄作っていう印象は拭えないけど、舞依姉ちゃんと重ねて妄想するのは悪くなかった。というかぶっちゃけよかった。

それ以来何年も放置してたからすっかり忘れてたけど、確か他の作品よりも圧倒的に大切にするようにカバーフィルムをつけて専用の金庫に入れた上でいつもの隠し場所にしまっておいた記憶がある。


何を隠そうその作品こそ、今日いきなり舞依姉さんが始めた茶番そのままの設定だったんだよね。

思い出してみれば、口調も、チカラ(笑)の目覚め方も、悪霊とかの設定も、叫んでた祝詞的な何かも、チープさも含めて一緒だわ。







ふむ、話を聞く限り、舞依姉ちゃんは僕のことが好きで、恋治くんに押し付けられた巨乳モノの作品があまりにも多いから、それとは属性の違う自分に脈がないと思って、なんとか好かれるために可能性の高い作品の真似をした............的な感じ?


えー、可愛いなぁ。




......................................................っていうか僕ら両思いだったんだ!?!?!?!?!?

え、舞依姉ちゃん、恋愛とか興味ないんじゃなかったの!?!?!?

僕のこと弟扱いしてたわけじゃなかったの!?!?!?


マジかマジか!

嬉しすぎるんだが!?

ヤバイよヤバイよ~!


けど、それよりも。そんなことよりもヤバいのは......。


「なんで舞依姉ちゃんが棚の奥のヤツ知ってんの!?」



あんなに厳重に隠してたのに!?


「なんでって......。昨日、夕希ゆきちゃんが教えてくれたからだけど」

「姉さん!? なんで姉さんは知ってるんだよ! っていうかなんで教えるんだよ!?」



どうやら僕の姉さんが勝手に教えたらしい。

マジで余計なことをしてくれる!

っていうか、あの作品群、僕の性癖ってわけじゃないけど、実の姉に大人本が見つかってるの嫌すぎる。

隠し場所考え直そう......。


「えっとね、舞依がそろそろ音くんとの関係を進展させたいなって相談をしてみたら、夕希ちゃんから「性癖から攻めるのが良いんじゃないか」って言われて、その流れで......ね?」



いや、そのアドバイスもアフターフォローも悪質すぎるでしょ............。

弟のプライバシーは......?



「っていうかさ、舞依、音くんに告白したようなもんなんだけど......返事とかもらえないの、かな......」

「え。あっ、あ〜......。えっと、その。僕も昔からずっと好きでした。よろしくおねがいします......?」

「ほっ、ホントに!? お付き合いしてくれるの!? っていうか、昔から好きだったって!? 嘘っ! 音くんってば全然そんな素振りなかったじゃん! 舞依がおっぱい押し付けてもなんにも反応しないし、友達のお姉ちゃんとかただの幼馴染としか思われてないと思ってたんだけど!?」



まじか、そんなふうに思われてたのか!?

っていうか、あれ、アピールしてくれてたんだ......。

めっちゃ我慢してて損した......。


「あっ、あれわざとだったんだ......。いや、僕の方こそ、弟扱いされてるだけだと思って頑張って意識してないフリしてただけなんだよね......」

「そ、そうなんだ......。え、えへへ。じゃあ舞依たち、これから恋人ってことでいいのかな? ......私、押し付けるおっぱいもないけど......?」



なんだ、僕らはお互い意識しあってて、むしろ意識しすぎてて、勘違いしてたのか。

っていうか、まだ一部、誤解が解けてないな。


「いや、あの本は僕の趣味ってわけじゃないからね?」

「うん? どゆこと?」

「恋治くんに押し付けられただけなんだよ。僕はああいうの買わないよ。それに、僕は舞依姉ちゃんみたいな............胸のない人の方が好きだよ......」

「............それ、ホント......?」



胸がない、だなんて言われてるんだから怒ってもいいところだろうに、舞依姉ちゃんは不安半分、期待半分ってな表情で上目遣いに見上げてくる。


「うん、ホント。僕のタイプの女性像は、舞依姉ちゃんだから......」

「あっ。ふーん。へぇ〜。そうなんだぁ〜」



長年の想いが成就した嬉しさから余計なことを口走る僕の様子に、不安そうな表情から一転、ニヤニヤとからかうようにこちらを見つめる舞依姉ちゃん。

安定して可愛い。


けどからかわれたまま終わりってのもなんか癪だからね。


「うん。20歳を目前にして狐巫女とか結界とか意味不明なことを言い出しちゃうような痛い舞依姉ちゃんが、めっちゃタイプで大好きなんだよね」

「もうっ、あれはただの演技だから!」

「あははっ、うんうん、そうだよね。演技だよね〜」

「もーっ! 適当に流さないでっ!」



*****



「いやぁ、でもよかったよ」

「ん? なにが?」



告白をしあってから、ひとしきりいちゃいちゃしたあと、一息ついた頃に舞依姉ちゃんが微妙に遠い目をしながら話し出した。


「舞依、音くんのお部屋におっぱいの大きい女の子が載ってる本がいっぱいあるの見せられたとき、あんまりにも悲しくてムカついて、全部燃やしちゃったからさぁ。どうやって諦めてもらおうか悩んでたんだよね〜」

「......え?」

「あと、もしも振られちゃったりしたらどうやって脅そうか迷ってたんだけど、その必要もなくなったし、よかったよかった!」

「......ほぉ?」



燃やした?

脅そうか迷った?


あれ?

いつもの天使な舞依姉ちゃんらしくなくね?

爽やかないい笑顔なのに、なんか圧力ない?


「音くんも知っての通り、舞依のお母さんもシンデレラバストなんだよね。だから舞依の胸がおっきくなる可能性ってほとんどないじゃない? なのに音くんが巨乳しか愛せないかもしれないってなったら、それはもう脅しちゃうしかないよね?」

「そ、そんなことは無いと思うけど......」

「舞依、浮気とか絶対、何があっても許さないからね?」

「も、もちろん。舞依姉ちゃん以外を好きになることなんてないからね!」

「あはっ、嬉しいっ♡」



そんなのは当然だよ。

長年思い続けてきた僕の想いを舐めないでほしいよ、まったく。


「でも......」


ん? あれ。やっぱしなんか雰囲気が......いつもと違う......?

目が据わってる......?







「もし、万が一にも舞依以外に気持ちが向きそうになったら言ってね? その時はどんな手を使ってでも、舞依への気持ちを思い出させてあげるからね?」


........................こんな中二病のときの設定とか比にもならない昏い一面もあるとか、僕の天使はやっぱ最高だね......。

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