光輪

キザなRye

全編

 「ちょっと、あの空見て!」

廉斗れんとが僕にそう言った。廉斗は中学生の時に気象予報士の資格を取っていて僕の周りには彼に気象において勝る人はいない。彼の指が示している方を見るとそこには綺麗に赤く染まった背景に真っ白の積乱雲が漂っていた。綺麗な赤と白のコントラストがとても綺麗だった。

「こんなに夕焼けが綺麗に見えるのはあんまりないんだよね」

「そうなんだ」

「それに加えてこんなに真っ白な積乱雲は結構珍しいよ」

 積乱雲は激しい雨を降らすなどの夕立のような集中豪雨を引き起こす原因の雲である。そのため積乱雲の全てが全て真っ白なわけではない。

「ちゃんと写真に収めておいた方が良いよ。頻繁に見れる光景ではないからね」

天気においての話は疑うことなどせずに彼の言葉に従っておいた方が良いとかつての経験から学んでいる。僕がカメラを向けると廉斗はこうやって取った方が綺麗に見れると天気についての写真の収め方についてのアドバイスをしてくれた。気象の知識だけでなくて写真の知識まで持っているのは廉斗の凄いところである。




 三月上旬、夏と同じように廉斗は太陽の方を指さされて僕に写真撮りなよと言った。僕は何で写真を撮ることを勧められているのか全然分からなかった。

「太陽の周りに虹のような輪が見えるの分かる?」

「うん、わかるよ」

「あれは花粉光環かふんこうかんって言って光が花粉によって乱反射して虹色に見えているんだよ」

「ってことは花粉の時期が始まったってことだよね?」

「うん。そういうことになる」

 僕は相当重症の花粉症なので花粉の飛散量が多いのは気分を落ち込ませる材料でしかない。ただこの光景は一年の中で今しか見れないよと廉斗に言われるから直接太陽を見ないように注意しながら写真を撮った。写真をよく見てみると確かに太陽の周りを囲むようにスペクトルが出来ていた。花粉は苦しめられてるものではあるけど見方を変えれば一時期にしか見ることの出来ない特別なものに変わる。

 「こんなに綺麗に、しかも輪の部分がこんなに大きいのは初めて見たかもしれない」

廉斗はぼそっとそう言った。





 僕がもう少し気象について興味を持てば毎日が楽しくなるのだろうなと思う。気象予報士ほど気象に詳しくなろうとまでは思わないけれども日常を楽しめる程度の気象の知識があったら良いと思う。雲の形と空の色だけでも相当楽しめるのだろうなと思う。そしていつかそれを周りの人に説明して楽しんでもらえる日が来るだろう。廉斗が僕にしてくれ、今の僕になったように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

光輪 キザなRye @yosukew1616

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ