最終回

☆過激な内容となります、ご注意下さい。




「なん……で?」


 聞く迄も無い、俺は可愛い女の子が苦しむ姿が好きなんだ。

 ぱっくりと裂かれたおなかから、ぼろぼろと内臓が零れ落ちる。


「ああ、流石だ、内臓まで美しい」


 私から零れる内臓を、受け止める俺。


 そして、両手一杯、グロテスクにも見える小腸を掬い上げ、見せつけるようにキスをした。

 変態だ、気持ち悪い変態。


 でも、それが、俺だ。


「あ、ぐっ」


 痛い、痛いッ!!


 痛い? 何で? こんなに?


 視界が赤く染まり、明滅して、歪む。

 喪失感と絶望が指先を冷たくする。


 おかしい、今の私には内臓なんて飾りだったハズ、物質的な攻撃で死ぬような私じゃない。神に近付いたハズなのに。


 ぱたりと仰向けに倒れた私に、内臓を手にニタニタと笑う俺が迫る。


「ココでは、神の力は使えない」


 そんな……それじゃ、普通に血肉で生きるだけ?

 じゃあ、どれだけ? どれだけ内臓が零れた? 飾りぐらいに思っていたそれらが、今では私のいのちの欠片。


 倒れ伏した私が横目にみると、べちゃりと機能を失った生ゴミが広がる。

 私の小腸と大腸だ、こんなにも溢れ出した。これじゃ、もう。


「食べる事も飲むことも出来ない。どうあっても、もう死ぬ」


 そう言って、俺はペチャンコになった私のお腹を踏みつけた。


「ぐぶっ」


 強烈な痛みに、ビクンと体が跳ねる。意志を無視してビチビチ跳ね回る。自分の体を止められない。

 出てはいけない大事な内臓が傷口からグチャリと飛び出して、口からはドロドロの血を吐き出した。

 真っ赤な視界が激しく明滅しているのは、意識を失うのと、痛みで覚醒するのを繰り返しているから。


「おもしれぇ、魚みてぇ!」


 痙攣する私を見て、俺は馬鹿みたいにゲラゲラと笑っている。

 死ぬ、死ぬの? 神の力を封じられ、人間に近い体にこんな事をされたなら、幾ら私だってすぐに死んでしまう。


「大丈夫、グチャグチャに内臓をかき回しても、すぐには死なない。知ってるだろ? その位には君は丈夫だ」

「あ、ぐ……」


 そうだ、凶化したユマ姫から引き剥がした私の体は、それぐらいに強い。

 だからこそ、長く苦しむハメになる。


「だから、一日ぐらいは生きられる。たっぷり楽しんで、精一杯鳴いてくれ」


 心底楽しそうに俺が笑った。


 そうだ、俺は、可愛い女の子を台無しにして、グチャグチャに殺してみたいって、そんな猟奇的な願いがあった。

 最悪だ、最悪の願い。歪んだ願望。

 それが、私に牙を剥く。


「コレは膵臓かな? コレはなんだろ? なぁ、知ってる? 知らないか、どうせ潰すし」

「あ、ああぁ……」


 ひっくり返った私に見せつける様に、俺は私の内臓を、大切な内臓をグチャグチャに踏み潰す。

 台無しにしてしまう。


「あー靴が汚れちゃった」


 ひとしきり、つま先で私のおなかや内臓を踏み潰して遊んだ後、俺はがらんどうになった私のおなかに腰掛けた。


 マウントポジションだ。


 そのまま、無造作に無遠慮に、私の髪の毛で靴を拭った。


「ぐぷ……」

「なんだ、つまんないな」


 この頃になると、私はもう痙攣して飛び跳ねる力もなくして、手足はだらんと投げ出されたまま。


「安心して、永遠に嬲るなんてしない。内臓も無しに長くは保たないでしょ。大丈夫、最後には僕が殺してあげるから」

「ふー、ふー、ふー」


 ウーパールーパーみたいな顔しやがって!

 なんて、ムカつく!


 怒りを糧に、私は血を吐き出しながら、なんとか呼吸を整える。

 確かにそうだ、私は、ここで死ぬ。コイツは神の上の存在。


 世界を作ったようなヤツに勝てるハズがない。


 でもただで死んでやらない、私はずっと、そうやって、生きて来た。


 ぐらぐらと揺れる視界で、ニタニタと笑う俺。

 私は歯を剥き出しに闘志を滾らせ、挑発するように言ってやる。


「こんな事が、本当に楽しいのですか!?」


 だって、私達はまだキスしただけ、あんな事もこんな事もしないまま、ぐちゃぐちゃに壊してしまうなんて馬鹿げている。勿体ない。そうだろ?

 猿みたいに盛って、思うがままに犯してみろ! 噛み千切ってやる。


「うーん?」


 すると、俺はちょっと困ったような顔をする。


「だって、は新品が好きみたいだから、綺麗なままの君を壊したいんだ」

「そんな……」


 想像以上の、ド変態。


 なんだ、コイツ、本当にイカれている。

 いや、それが俺だ!


 悔しいが、悲しいが、コレが俺だ。


 グチャグチャな欲望が混ざり合って、まともな形になっていない。ピンク髪のエルフで猫耳魔法少女を望む様な、とりとめのない欲望のごちゃ混ぜが、私の体で発散されようとしている。


 それが、恐い。


「何て、馬鹿な事を!」

「ふーん、ずいぶんと生意気だなぁ」


 私がなんとか声を絞り出すと、マウントポジションでのし掛かる俺は心底嬉しそうに笑うのだ。

 そして、拳を振り上げる。


「キャッ!」


 痛い、え? 嘘?


 色々されると思ってた、犯されたり舐められたり。でもコレだけはやられないと思っていた。

 だってそう、これじゃ丸っきり台無しだから。


 私はグーパンチで、思いっきり顔面を殴られた。


「な、なんで?」


 片手で触り、顔を確認する、鼻が折れて、血が噴き出していた。形の良い鼻が崩れてしまった。

 どうして? ひたすらに奇蹟を起こし。私を用意したんじゃないの? 完璧に可愛い女の子を作ったんじゃないの?


 顔は、顔だけは殴られないと思っていたのに。


「違うだろ? 知ってるはずだ、俺は自分で自分が可愛いって思ってる女をズタズタに壊したかった」

「ヒッ!」


 そんな、なんで?

 いや、そうだ、そうだった。俺はそう言うゲスだった。


「グッ、ギッ」


 目の前で、思い切り振り下ろされるパンチ。必死に両手で顔だけは守ろうとする、それが私のアイデンティティだから。


 でも、人外の膂力と、丈夫な骨格をもつはずの私が、いとも簡単に壊される。


 腕の骨が折れて、指があらぬ方向にへし曲がる。それでも俺は殴るのを止めない。途轍もない威力、まるきり人間の力じゃない。ハンマーで殴られてもこうはならない。


 痛いッ! 痛いッ! やめて!


「あーもう、殴りにくいなぁ」


 なのに、俺は私にそんな事を言う。


「素直に殴られてよ、ほら、両腕を開いて」

「??」



 意味が解らない。



 従うハズがない。従う道理が無い。

 そんな風に言われた所で、コチラには。



「え?」



 でも、私の体は、私の意志に反して、べたりと腕を開いてしまう。

 左右にガバッっと、全てを受け入れる様にして。



「ッ!?」



 マウントポジションの相手に! 顔面を殴ろうとする相手に! まるで無防備に! 顔を晒した!


 その時、ドクンと心臓が跳ねた。名状し難い興奮が、私の体を駆け抜けた。


「なん……で?」


 意味が解らない。信じられない。

 はじめは、魔法を使われたのかと思った。或いは洗脳されたのかと思った。

 目の前の俺が、神を越える力を持ったNZが、私の体を操ったのだと。


 でも、違う。それだけは解る。



 コイツはただ、私にしただけ。



 それだけで、殴って下さいとばかりに、私は顔を晒け出す。


 な、んで? 私の体は、顔面を、殴られたがっている??



 認めたく無い……認めたくないけど。


 紛れも無く、私は興奮していた。


 ゴクリと飲み込んだツバは、恐怖ではなく、期待。



 とんでもない膂力で、容赦なく顔面に振り下ろされる拳を想像して、鉄よりも尚固い拳が、可愛らしい私の顔面にめり込む様を想像して。



 私はハッキリと発情していた。



 その事を、認められず、ポカンとした私の目の前で、ゆっくりと拳が振り上げられる。


 今、目の前に、高く振り上げられた拳がある。


「ぎッ!」


 容赦なく、拳が、私の顔面にめり込んだ。

 グシャリと壊れる音がした。強烈な痛みに意識が飛んだ。


「がッ!」


 でも、次の一撃で、飛び起きた。

 目が覚めると同時、後頭部が地面に打ち付けられて、すぐさま気を失う。


「ギッ!」


 三発目で、前歯が折れた。

 きっとまぬけな顔になった。グルグルと視界が回る。

 もう、顔面はグチャグチャだ。



 コレだけ殴られれば、普通は本能が顔を守ろうとする。とっさに腕を振り上げる。

 だけど、私の腕は意地でも本能に抗った。

 爪がボロボロと剥がれるぐらいに、地面を掻きむしり、それでもべたんと腕を開いたまま、振り下ろされる拳を顔面で受け入れる。


「あっああぁぁ……」


 そして、何より、殴られる度に下半身がピクンと跳ねるのだ。

 それが、何より恐ろしい。


 絶望の中、私はひたすらに殴られる。

 殴られながら……発情していた。


 グチャリ、グチャリと、振り下ろされた拳が顔面に沈む度。

 ゴン、ガン、ゴン、ガンと、後頭部と地面がリズムを刻む度。


 腰がピクンと跳ねるのだ。


 イッっている。

 それも! 激しく!

 意識が飛ぶまで無慈悲にぶん殴られるたび、ビクンビクンと腰が跳ねる程。

 疑いようも無く、私は殴られる事に興奮していた。


「なんえ?」


 回らない呂律で、私は尋ねた。

 ケラケラと笑いながら、俺は答える。


「そりゃ……決まってるだろ? 君が根っからのドMだからだよ」

「あ……?」


 そんな!? だから私はこんなにも快感を?


 ぶん殴られて悦ぶのが、俺の理想の女の子なの?


 じゃあ、いままで私は、こんな風にぶん殴られる為に、苦労して、辛い思いをして、冒険をして、惑星となってまで、何億年も過ごして来たの?


 それが、悔しい。


 粉々に砕けた眼底から、水晶体と一緒に涙が零れる。


「フヒヒ、そんなになっても、グチャグチャになっても、それでも君は美しい」


 楽しそうに、嬉しそうに、俺はケタケタと笑うのだ。

 それが、それが……だよ? 悔しいのに、悲しいのに……


 どうしようもないぐらいに、嬉しい気持ちが溢れてくる。私を殴って、彼が喜んでくれるのが嬉しくて堪らない。


 それが、恐ろしい。 興奮にハァハァと息づく自分の声が信じられない。


「でも、喜んでばかりじゃ興ざめだなー、僕は君が泣き叫ぶ所も見たいんだ」

「ふぇ?」

「だから、コレ」


 俺が、私の目の前に取り出したのは、ゴツゴツとした、鈍色の金属。

 コレ……巨大なペンチ!?


「ペンチじゃなくて、プライヤーって工具だよ、工具! 知らない? このゴリゴリの金属のカタマリで摘まんだら、どんなモノでもズバッっと抜けるよ」


 抜く? なにを?? なんで?

 ニヤつく顔で、俺は、私に、おねだりをする。


「だから、さぁ、早くしてよ!」

「???」


 意味が、解らない。

 解りたくない!

 抜く? 何を?


「ほら、あーんして!」

「ッ!!??」


 私の、歯を!?

 嫌だッ! そんなの。


 なのに、私の口は私の意志を無視して、あーんと開いた。

 丸っこくて可愛らしい歯を無防備に晒すのだ。


「いい子、いい子、じゃあ始めようかな」


 金属のカタマリが、私の丸っこい歯をギリリッっと掴む。


 そして、そのまま……


 ――ゴキッ!


「あ゛ギッ!」


 いきなり犬歯を抜かれた。


 それも敢えて捻って、へし折りながら。弄ぶみたいに。

 私の全身がピンと硬直する、同時に意識が明滅する。ハッキリと感じる程に失神と気絶を繰り返し、穴という穴からボタボタと体液を垂れ流す。


 痛い、痛い! 痛いッ!


 痛みだけが脳を支配する。

 そんな私の錯乱を無視して、可愛らしい私の口内に、再び容赦なく金属のプライヤーが侵略する。まだ痛がっている途中、視界は明滅し、バタバタとのたうつ最中、なのにお構い無し。


 金属が口内にゴリゴリと押し入って、奥歯に狙いを定め、強引に掴んだ。


 ――バキッ!


 そのまま、潰した。視界は激しく明滅する。明るくないのに眩しい、暗くないのに、視界が欠ける。


 そして、まだ終わらない。

 砕けた歯はまだ抜けていない。


 だからコイツは遠慮も無しに、歯が砕けて剥き出しになった私の神経を、ゴツゴツしたプライヤーで……グチャリと挟んだ。


 挟まれたのを、遠い意識で私は感じた。もうそれだけでひっくり返って仰け反る痛み。

 でも、それで終わりじゃなかった。その剥き出しの神経を、無理矢理、そのまま、強引に引き抜いた!


 目の前で、キラキラと星が舞う。夜よりも、宇宙で見たよりも、激しく瞬く。

 痛みに脳が吹き飛んで、宇宙まで飛び出したみたい。いっそ爽快感すらあった。

 それも僅か一瞬の事だ。すぐさま熾烈な、言葉に出来ない、今まで感じた痛みとは次元の異なる激烈な痛みで上書きされた。あっさりと私の意識は飛んだ。




 ビタンビタンと、ガツンガツンと、音がした。



 遠いところから鳴ってるようで、それは間近で鳴っていた。


 良く見れば、自分の頭や、腕が、地面に叩きつけられる音だった。

 あまりの痛みに、痙攣する手足が地面をのたうち、震える頭が後頭部をガンガンと地面に打ち付けていたのだ。別の生き物になったみたいに。


 何より信じられないのは、そんな死のダンスを踊る私を、目の前の俺が腹の上にどっかりと座ったまま、心底楽しそうに観察している事だった。


「おもしれー、たまんねー。じゃあ、ガンガン抜いてっちゃおうかな!」

「あ、え、う……」


 サーッっと血の気が引く。


 嫌だ、恐い。心底そう思った。

 口を開けたくない。


 生きようとする本能が、神に植え付けられた愛情すらも上回る。


 押し入ろうとする無骨な工具に、口を閉じる事で、本能が控え目な抵抗を示した。泣きながらプライヤーを咥えるだけの精一杯の抵抗。


 それでもまだ、私の腕はぺたんと開いたまま。ひたすらに服従を貫いている。望むがままに暴力を受け入れる。


 その、あまりにも惨めで、健気な、ひとかけらの抵抗は、余計に俺を興奮させた。


「ふへへ、イヤマジでエロい。可愛い。顔が半分グチャグチャでも、それでも、いや、だからこそ」


 俺はあからさまに、興奮している。

 それが、興奮して貰える事が、心底嬉しいのだから、自分が恐い。信じられない。


 調子にのった俺は、ゴツい金属のカタマリを、プライヤーと呼ぶ拷問器具を、私の目の前でぷらぷらと振る。


「大丈夫、優しくするから、ね? はい、あーんして?」


 嘘に決まってる。

 そんなモノを手に口を開けさせて、やることなんて決まっている。


 なのに、私はあーんと口を開けてしまった。

 すると、もちろん、どうなるか?


 ――ブチッ!


 躊躇せず、小臼歯を抜きやがった。

 もう、何度目か、ビクンと大きく体が跳ねた。


 でも、今度はワザと痛くするような抜き方じゃなかった、折ったり潰しながらじゃなく、ただ垂直に引き抜いた。


 だから、刺激に慣れきった体は変な反応を示す。

 ピンと足が跳ねたのだ。ハイヒールが飛ぶぐらい激しく。


 そして、歯だけでなく、足からも訪れる激しい神経の痛み。そう、攣ったのだ。


「へっ?」


 絶望の悲鳴でも、絶叫でもなく、私の喉から変な声が出た。



 それほどに現実が受け止められない。



 なぜかって? 別に足が攣ったぐらいで不思議がる事ではない? コレだけ痛ければ足がつるのも当然?


 普通はそうだ、でもこの攣り方はちがう。

 思い出すのは中一の夏休み。猿みたいに自慰に耽った俺が、ベッドの上で痛みに仰け反った記憶。


 足がピーンと攣った記憶。



 これは、ソレと、同じ!



 殴られるたびにイッて、嬲られるたびにイッて、歯を抜かれて絶頂イキまくって。

 何回も、何十回も、体の限界まで達した証。


 私は、認めざるを得ないほど、激しく発情している。

 浅ましいほどに乱れて、壊れるのにも構わず、絶頂している。


「あぐっ、え?」


 痛みで? 歯を抜かれて? イッってる?

 そんなのって!

 そんな女の子、酷過ぎない?


 痛みの刺激と、快楽が同時に脳を刺激して、グチャグチャにかき回す。

 視界が赤く染まり、脳内がピンク色に染まる。吐き出した血に溺れながら、だらんと舌を突き出した。


 痛みには耐えられる。

 だけど、快感に抗う術が、ない!


「じゃあ、どんどん抜いちゃおうかな」


 そんな私の異常を知ってか知らずか、俺はテンポよく、私の歯を抜き始めた。

 それでも私の口はあんぐりと無抵抗を貫いたまま。ペたんと腕を開いたまま。


 ――ブチッ! ブツッ! ベリッ!


 ――ピーン! ピーン! ピーン!


 歯を抜くと同時、連動して、私の心を無視して、ピーンと足が攣る。


 そのたびに、私はみっともないほど発情した。

 もう、隠しきれない。


「えっ! うっ! がっ! あ❤ んっ❤ ひぁ❤」


 声まで、漏れる。


 だらんと舌を投げ出して、無様なアヘ顔を晒す。

 吹き出した血に溺れ、突き出した舌が喉に詰まり、殆ど窒息状態。なのにゲホゲホと苦しみながら、のたうちながら、絶頂イッている。


 なんて、みっともない生き物だろう。

 なんて、はしたない生き物だろう。


 こんな無様を晒せば、当然に俺にも気付かれた。


「マジ? 歯をブチブチ抜かれて絶頂イッってんの? スゲー!」


 ゲラゲラと腹を抱えて笑っている。


「あぅ、ううぅ」


 嫌だ、恥ずかしい、死にたい。


 今更だ、もう殺されるだけのハズ、なのに私は恥ずかしい。

 真っ青に血の気が引いた顔が、羞恥と興奮に真っ赤に染まる。


 惨めで、はしたない姿を、大好きな彼に見せたくなかったと、そう言う乙女心らしい。


 何だコレ? これじゃ、いっそキチガイ。

 でも、ソレが私。


 こんな女の子を理想として、私は自分を仕上げてしまった。


「せっかく面白くなって来たのに、歯は全部抜いちゃったな」


 気が付くと、私の歯は残らず抜き取られてしまった。奥歯も残さず、全部!

 私の口内は、もう腫れ上がった肉が血を吹き出すだけの場所。


「うーん、何かないかな?」


 そんな中をプライヤーでかき回しても、何も残っていない。もう潰すモノも引き抜くモノもない。


「ふえ?」


 そう思ったのに、私の体は、ココでも私の意志を無視した。快楽に壊されていた。

 舌でペロリとプライヤーを舐めたのだ、最後にコレを潰して、引き抜いて下さいと、おねだりをするように。


 ヒッ! と息を飲む。


 絶望に血の気が引く。体と心がまるで一致しない。


 心臓だけはドクンドクンと脈打って、俺の様子から目を離せない。


「ん? 舌? でもなぁ、コレを抜いちゃうともう鳴けないでしょ? それに、舌はもうやったじゃん」


 ソレはきっと、俺が針で舌を突き刺してボロボロにしたことを言っているのだろう。

 もう二番煎じだからやりたくないと、本当に嫌なヤツだ。


 でも、助かった。ホッと息を付く。


 なのに、私の体は舌を苛めて貰えないと解ると、露骨にガッカリした。肩が落ちて、シュンとしょげている。


 まるで体が思う通りにならない、痛みを快楽に置き換えて、完全に支配されている。


「だから、もっと面白いモノ出してよ」


 俺は俺で、好き勝手な無茶を言う。アレだけ歯をブチブチと引き抜いておきながら。プライヤーでつまらなそうにペチペチと舌を叩いて、もっと出せとおねだり。

 そして、物のついでとばかり、舌先をプライヤーでグチャリと潰した。


「ギッ!」


 それだけで、激烈な痛みが体を駆け抜け、仰け反る。視界が明滅し、ついでとばかり、腰が跳ねる。きわめて雑に扱われ、またイッった。


 健気で、いじらしく、なにより惨めな、精一杯の私の反応。

 なのに、なのに、俺はつまらなそうにため息を吐いた。


「飽きたなぁ……その反応ソレ


 滅茶苦茶な言い分、狂おしい程に腹が立つ。


 なのに、ソレだけ酷い事を言われた事実にすら、私は興奮していた。雑に扱われる事に喜んでいた。


 ぐちゃぐちゃにされた感情に、翻弄される。


「うーん、あ、コレとかどうだろう?」


 そう言いながら、俺はぐちゃぐちゃに歯肉をかき混ぜて、肉の間から掘り返したのは神経だった。


 それも、一際ぶっとい、本線みたいな一本。


 ソレをプライヤーで軽く掴む。


「!”#$%&」


 それだけで、もう、意味が解らない程の痛み!

 腹にどっかり座られたまま、それでも体がビタンビタンと飛び跳ねる。


「ロデオみてー」


 俺は、腹の上から見下ろして、飛び跳ねる私を無邪気に楽しんでいた。

 朦朧とした意識の中で、私はぼんやりと覚悟を決めた。


 どうせこの神経のカタマリを潰したり、引き抜いて遊ぶのだろう。


 そうしたら、今度こそ、私はショック死するか、発狂して精神が破壊される。


 それなら死んだと一緒だ。いっそ、早くやってくれ。



 …………いや、違う。

 いい加減認めるしかない、私はソレを期待している。胸が高鳴り、ワクワクしている。


 何と言う……。業の深さ。


 こんな女の子を望んだ事が何よりも罪なのだろう。

 ココが地獄だろうか?


 しかし、私の期待は裏切られた。

 俺は、神経を無造作に潰したり、引き抜いたりはしなかった。


「よっと!」


 ただ、ピンッと引っ張った。音がしそうな程。

 もちろん、気を失う程の激しい痛み。


 ――ピーン!


 そして、足が攣った。


 引っ張られた神経と足の神経が直接繋がったみたい。

 そんな私のピーンと伸びたつま先を横目に、俺はニヤニヤと神経を引っ張ったり、縮めたりして、弄ぶ。


 ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピンッ!


 ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン! ピーン!


 歯の神経を引っ張られると、同じだけ足がピーンと伸びて、攣った。


 足が攣る度に、攣る回数の十倍ぐらい、私は達したイッた


 激しい痛みを快楽に置き換えて、体が滅茶苦茶にに発情した。


「オモシレー、連動してる」


 すっかり玩具だ。


 私はぐるりと白目を剥いて、ボロボロの顔面は更にグチャグチャ。痛みと快楽、脳みそを左右に揺らされて、強烈な刺激に翻弄される。


 ピンッ! ピンッ! ピンッ! ピーン!


 ピーン! ピーン! ピーン! ピーーーーーン!


「ヤベェ、引っ張ったままだと、ピーーーーンって!」


 神経を引っ張ったままにすると、足もピーンとつっぱったままになる。

 何が面白いのか、俺はゲラゲラ笑っている。


 楽しそうで何より。だけど、私は堪ったモノでは無い。

 ピーーンとしている間、コッチはずーっとイキっぱなしなのだ。


「アグッ❤ あがっ❤❤ ぐぎぃ❤❤❤」


 脳内がピンク色に占領される。私の全てが溶けていく。


「あれ、反応しなくなった」

「あ、えう……」


 違う! イッたまま、帰って来れなくなったのだ。


 ぼんやりとしたまま、頭がピンクのふわふわに包まれる。

 快楽が痛みを追い越してしまった。


 こんな……こんな生き物があるのだろうか?

 生命の維持に必要なサイン、死をもたらす痛みを前に、アヘアヘとイキまくるなんて、あり得るのだろうか?


 こんな女を俺が望んだとするならば、そりゃあ、どんな奇蹟でも作れないに違いない。

 まるでバカだ、アホ、間抜け。


 でも、それが私だった。


「可哀想だから、そろそろ終わらせようかな」


 そんな調子で、締めの雑炊を食べるかのようにあっさりと。

 俺は、私の首筋に、手を掛けた。


 殺すのだ、嬲りに嬲って、もう飽きたから。


「あがっ……」


 万力のような力が、私のか細い喉を締め上げる。

 ああ、なんて、甘美な、心地良い苦しみ。


「ゴボッ! ガッ」


 のたうち回り、血に溺れながら、ソレでも私は安らかだった。

 もう、認めるしかない。

 私は喜んでいる。死を捧げたい位に、私は目の前の俺が好き。


「???」


 なのに、なのに。もう少しで死ねると言う所で、急に力が弱まる。

 最後まで嬲れるだけ嬲って、ゆっくり殺して貰える。そう言う事か?


 だったら、嬉しい。


 私はチラリと、彼の顔を盗み見る。彼も楽しんでいるだろうか? 最期の瞬間に彼の姿を目に焼き付けようとして……


「??」


 なぜか、何故だか解らないが。


 その表情と、あの時の木村の顔が重なった。


 だから、言った、言ってしまった。


「ねぇ、はやく、わたしを、殺して!」

「ッ!?」


 信じられない! 彼の反応は劇的だった。

 ビクンと大袈裟に驚いて、手を離したのだ。


 ソレを見て、私は急速に頭が冷えるような気がした。


 裏切られたと思った。


「なん……で?」


 殺してくれるんじゃ、なかったの?

 冷え切った脳が、発火する。怒りに沸き立つ!

 許せない! 裏切られた!


 私は千切られた自分の歯をかき集める。両手一杯に。

 すると、手にはシャリアちゃんの短剣が握られていた。


 ソレを躊躇せず、俺に、高橋敬一の姿をしたNZの目の玉に突き刺した。


 だって、コレは! シャルティアの剣だから。

 殺す為の、剣だから。


「あ? ぐっ」


 信じられないと言う顔をして、俺は立ち上がり、後ずさる。


 届いた! コイツに。


 これは神の力だ!

 神の力が戻っている?


 でもなんで、歯から剣が?

 今まで何も作れなかったのに。


 私は無意識に、シャリアちゃんの短剣を作った。

 殺意がそのまま形になったかのように。


 でも、エネルギーから物質を作れば、同じだけの反物質が生まれる。

 だから、魔法少女の衣装を作った時は、生ゴミを捧げ、反物質と対消滅させた。


 だけど、この世界に私が自由に出来る物は殆ど無い。

 真っ白な世界。全ては私には壊せないNZの産物。

 だから、何も生み出せなくなっていた。


 だけど、私の歯なら、私が持ち込んだ物なら、対価になった。


 ならば!


 私は、グチャグチャの顔を修復する。壊れただけでパーツは足りてる。

 そして、魔法少女のふわふわヒラヒラな衣装を分解。大胆に脇や背中を大胆にカットして質量を減らす、代わりに窮屈に胸を締め付けるチェーンを追加。


 そうだ、コレは示威行進の時のドエロい衣装。俺の趣味と言うより、木村の趣味だが、相手を圧倒するには向いている。


 可愛さや愛らしさだったら魔法少女の方が上かも知れない。

 でも、コレには木村の妄執が詰まっている。自分で想像可能な限界を越えたエロスがある。


「あ、あう……」


 だから、俺は顔を赤くして呑まれてしまった。


 きっと、殺したくないと思ってしまったのだ。

 だから、私にも神の力が行使出来た。


 次に、私がかき集めたのは、ボロボロと零れ落ちた命のかけら。

 私の内臓だ、内臓をかき集め、創造する。


 田中の使っていた、日本刀。

 今、ようやく思い出したから。


 一周目、目の前で死んでいく田中は何と言ったのか?

 唇の動きを見返せばもっと早く解ったハズだ。


 だけど、悲しすぎて、辛すぎて、私は参照権でそのシーンを見返せなかった。


 でも、今なら解る。


 アレはに対する愛の告白でも、何でもなかった。




「ああでも、本当は、俺は、お前を……


 殺したかった!」



 アイツはそう言い残して死んだんだ。


 アイツは、初めから俺が全ての元凶だと知っていた。

 殺せない化け物だと解っていた。知っていながらずっと手助けしてくれた。


「今、その望みを!」


 俺の前に、私は刀を構える。


「馬鹿な、君に斬れるハズが」

「斬れる!」


 私は、知っている。殺せない俺を殺す方法を。


 ネルネの、目。ソレを思い出す。

 ただ、在れと。


 グチャグチャの左目が溶けて、生まれ変わる。


 その目を以て、目の前の、俺の姿を見つめる。そこにあったのは広大な宇宙。いや、その宇宙にコイツは居ない、宇宙の外にある宇宙、そして、そのまた外にある世界。


 その奥に、コイツの本体が居る。


 ネルネはこんな存在を殺せるのか?

 そりゃ、星獣なんて簡単に殺せるハズだ。


 投げたダーツが大気圏を越えて、宇宙を飛び出し、外宇宙へ、無の世界を飛び越えて、果てに到着、小さなNの外へ飛び出す、最後にはその殻をも突き破って、コイツに当てるイメージ。


 そのイメージを一本の線にして、目の前の俺を斬る。


 斬る? 斬った? 斬る! 斬った! 斬った!!!


 過去も、未来も、時間軸も多次元も含めて、斬った事象を完結させる。

 でも、実は私はまだ刀を振っていない。振って、斬り裂いた結果に同調するように、そっと重ねる。


「シッ!」


 思い切り、刀を振り抜く。ピタリと影が重なった。

 結果が確定する。


「え?」


 ずるりと俺の体が傾いだ。胴体がずり落ちる。

 そして、消えた。



 勝ったのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


……それで、アイツは死んだのかの?


 目の前にはアイオーン爺が居た。NZの影響が消えて神に戻ったのだ。

 私は空っぽになったままのお腹を切なげに撫でる。


「わかんない、でも多分、死んでない」

そうか……。


 だって、世界のエネルギーの基底となるアイツが死んだのなら、私達の世界諸共滅んでしかるべき。

 きっと、適当な場所に隠れたに違いない。ヘタレだから顔を出せないのだ。


しかし、どうやった? あんなヤツをどうやって追い払ったと言うのじゃ?

「うーん」


 私は、いや俺はガシガシと頭を掻きむしる。

 あまり、言いたくない事だからだ。


随分と男らしい仕草じゃの?

「そっかな? まぁそうだよ」



 だって、女の子らしく、可愛らしく振る舞うべき俺が、もう居ない。


 私は、いや、もう俺で良いだろ? 俺はもうウンザリだ。


「それで、どうやって撃退したかだっけ?」

そ、そうじゃ……


 何故だかアイオーン神は落ち着きが無い。

 どうした事かと思いながらも、話を続ける。


「まぁ、結局さ、ドコまで行っても俺は童貞クソ野郎って事だよ。下らない」

それは? どう言う意味じゃ?

「そのまんま。だって、そうだろ? 変態を極めたみたいな顔して、結局は自分を好きだって言ってくれる女の子を殺す事なんて、出来やしなかったんだよ」


 木村と一緒だ。


 いや、別に俺はアイツに好きだって言ってないけどな。

 言ってないよな? 参照権も効きが悪い。


ふぅむ、結局は口だけだったと?

「まぁ、そうかな? ソレに、可愛い女の子に日本刀でぶった切られたいってのもアイツの望みだったのかも」

業が深いのぉ。


 ひょっとして、俺はヒロイン失格だったのだろうか?


 なんせ最後の最後に俺は、アイツと木村を重ねてしまった。殺そうとして殺せない情けない俺の姿に、とっさに思い出してしまった。


 ラブシーン? でそれは、理想の彼女としては許されぬ事だろう。


 何故だか少し、後悔もある。


「或いは、もっと可愛らしくお上品にしてりゃ殺してくれたのかもね」

むぅ。

「どうしたん?」

いや、お主が殺されなくてよかったとな。

「ふぅん?」


 どう言う意味?


いや、今のお主はワシから見ても、可愛い。

少々荒っぽい仕草がな。可愛いと感じる人間の気持ちが、データではなく本質で初めて理解出来た。

「そ、そうなの?」


 なんだか、照れてしまう。


……ぐぅ。


 そして、神も参っている。どうにも罪作りな俺である。

 所在なさげな神様は、チラチラと申し訳なさそうにコチラを見るのだ。


それでな、相談なんじゃが、神の力を返してくれんか?

「あ、良いよ。内臓を何とかしてからだけど」


 あっけらかんと、俺は言い放つ。別にもうこだわりもない。もっと面白そうな事を見つけてしまった。


いいのか? せっかく神になれるのだぞ?

「爺さんも、アイツの事が気になるんだろ? だから神を止めるつもりがなくなった。今度はアイツの正体を探りたい、違うか?」

違わん。研究者としてあんな存在を見て興奮しない方がおかしいじゃろう。


 そうだ、世界を作った俺達にとっての神は、俺らの世界で言う研究者だ。

 あんなヤツを見せられて、引退して死ぬなんて出来っこない。


それで、お主はどうする? 十分な神の力の片鱗は残すがの?

「うーん、そうだなー」


 それこそ、欠片でも何でも出来る力だ。

 俺は、NZの図を思い出す。


「ねぇ、この世界の向こう側、反対側に負のエネルギーで出来た私が居るんだよね?」

そうじゃな。きっとそうじゃ。

「ソレに会いに行きたい」

馬鹿な! 対消滅して消えてしまうぞ!

「でも、データだけなら?」


 データだけで彷徨っていたユマ姫みたいに、データだけなら向こう側に干渉出来るんじゃなかろうか?


神の力を、全てのエネルギーを捨てて、ただのデータに?


 ま、そう言われるとね……あまりにも酔狂だ。


 しかし、神と話をしているとアレだな、良くない。

 さっきまで良かったが今はダメ。

 自分を好きそうな奴と話を長引かせてはいけないのだ。可愛くなくなる。


 突き離す様に、俺はお姫様の口調を取り戻す。


「ソレも良いかなと言う話です。まずはやりたいことがあります」


 そして、神の領域から外の様子を窺う。混乱するグラウンド。


 そこには、突然消えてしまった俺を探して、キョロキョロと辺りを見回す俺『高橋敬一』の姿があった。


「あれは?」

正真正銘、何の力もないただの学生じゃ。邪悪な何かはあやつのガワを残して何処かに消えたらしいな。

「そうですか、じゃあやり直さないと」

やり直す?


 神の返事も待たず、私は高橋敬一の前に飛び出した。


「あっ! 出て来た? あの、どこに? え??」


 まくし立てる高橋君は、俺の衣装が変わっている事に気が付いてしまった。

 そう、露出バカ高の、おっぱいをチェーンで縛った激エロ衣装である。


「あえうえあえ」


 だから、一瞬にして顔を真っ赤に錯乱する。

 だが、知ったことでは無い。俺はコイツに質問する。ほっぺたをぎゅっと挟んで逃がさない。


「アナタの、名前は!」

「え? 僕? 俺?」

「僕ではなく、俺の! アナタの名前です!」


 もう、強引に聞き出す。

 言わなきゃ今度は、おっぱいでグリグリ挟んで殺してやる。


「あうえ? 俺の名前は……」


 ああもう! じれったい!


「俺の名前は高橋敬一、ドコにでも居る中学生。でしょ?」

「はい!」


 無理矢理言わせた。


 こうして俺は、私と出会った。


 ホンモノの高橋敬一と。


 コホンと咳払いを一つ、私は俺に、堂々と宣言する。


「私の名前はユマ! ユマ×クロスセレナーデ。人呼んで


 死憶の異世界傾国姫!」



―― 死憶の異世界傾国姫 完 ――






お付き合い下さり、ありがとうございます。

もし、警告などありましたら差し替えます



頂いたイラストは活動報告にあげたりしています。

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死憶の異世界傾国姫 ぎむねま @hat0mugi

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