Eagles Long Road Out of Eden を訳す

泊瀬光延(はつせ こうえん)

Eagles Long Road Out of Eden

 イーグルズの2007年リリースの「Long Road Out of Eden」から同名の曲の歌詞を和訳してみた。

 彼らは先の「King of Hollywood」「Hotel Calfornia」などの極めて社会的な歌詞を持った楽曲をみごとにコマーシャリズムに載せてしまった。却ってそれが彼らの警告が無視される結果となったのかもしれない。


 まず原詩を載せる。勿論、すぐ訳詞へ飛んでも差し支えない。




Long Road Out Of Eden

by FREY GLENN LEWIS,HENLEY DON,SCHMIT TIMOTHY B


Moon shining down through the palms

Shadows moving on the sand

Somebody whispering the 23rd Psalm

Dusty rifle in his trembling hands

Somebody trying just to stay alive

He got promises to keep

Over the ocean in America

Far away, Master sleep


Silent stars blinking in the blackness of an endless sky

Gold, silver satellites, ghostly caravans passing by

Galaxies unfolding and new worlds being born

Pilgrims and prodigals creeping toward the dawn

And it's a long road out of Eden


Music blasting from an SUV

On a bright and sunny day

Rolling down the interstate

In the good old USA

Having lunch at the petroleum club

Smoking fine cigars and swapping lies

They say, "Give me 'nother slice of that barbecued brisket

Give me 'nother piece of that pecan pie"


Freeways flickering; cell phones chiming a tune

We're riding to Utopia; road map says we'll be arriving soon

Captains of the old order clinging to the reins

Assuring us these aches inside are only growing pains

But it's a long road out of Eden


(instrumental)


Back home, I was so certain; the path was very clear

But now I have to wonder - what are we doing here?

And I'm not counting on tomorrow and I can't tell wrong from right

But I'd give anything to be there in your arms tonight


(instrumental)


Weaving down the American highway

Through the litter and the wreckage, and the cultural junk

Bloated with entitlement, bloated on propaganda

Now we're driving dazed and drunk


Went down the road to Damascus, the road to Mandalay

Met the ghost of Caesar on the Appian Way

He said, "It's hard to stop this binging once you get a taste

But the road to Empire is a bloody, stupid waste"


Behold the bitten apple, the power of the tools

But all the knowledge in the world is of no use to fools

And it's a long road out of Eden

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 ここから訳詞。()はすぐ上の節の訳者の解説。


♪ヤシの葉陰から漏れる月光

砂の上で影が動く

誰かが賛美歌の23番を囁く

砂埃りにまみれた銃を握る手が震えている

誰かが生き延びようとしている

約束があるから

アメリカの海を超えて

遠いところで神は眠る


(湾岸戦争(1991)などの中東での戦いをイメージしているのだろうか。「神」は「Master」という元歌詞からそうした。キリスト者の多いアメリカ人にとって、戦闘が起こっている場所は、キリストが眠るエルサレムや彼らを派遣した「祖国」から遠くはなれて頼みにならない。もし作者が中東を意識しているならば、イスラムとの宗教戦争の臭いもさせているのだろう)


♪果てない空の闇の中で星が瞬く

金や銀に輝く衛星、その下を幽霊のような隊商が通り過ぎる

銀河は広がり続け新しい星々が生まれている

巡礼や放蕩息子は夜明けを求めて這い回る

我らはエデンからすでに遠くに来ている


(兵士たちが戦いの合間に夜空を眺めている風景であろうか。巡礼や放蕩に身を任せその贖罪をする信者が、聖地で地に這いつくばり進む姿を、匍匐前進する兵士によせているのだろうか)


♪SUVに乗って大きな音を出して走る

なんて明るくて晴れた日なんだ

高速道路を走る

古き良きUSAの幹線道路だ

途中の化石博物館で昼飯だ

高価なシガーを吹かしながら冗談を言い合う

奴らは言う;そこのバーベキュー・ブリスケットをもう一つくれ

ピーカンパイももう一切れな


(場面は転換して荒廃したアメリカを目的地目指して車で移動する者達の視点になる。恐竜などの化石を展示していた廃墟の食堂で虚無的な冗談を言い合うところを見るとアリゾナやテキサスの南部を思わせる)


♪幹線道路の信号は点滅し続け残骸の車から聞こえる携帯電話は同じ音で持ち主を呼び続ける

僕らはユートピアに向かっている;地図ではもうすぐ着くはずだ

旧世界のリーダーたちは古い体制にしがみついている

彼らが言うには今の苦しみは生みの苦しみだとさ(冗談じゃない)

エデンの園から出てからこんなに来てしまったのに


(『幹線道路の信号は点滅し続け』は”Freeways Flickering"を意訳したものだが、他の用例が見当たらなかった。核戦争の痕だろうか?ゾンビドラマでよく見る、車の残骸が残された道路の描写だろう。車に残された携帯電話が一斉に鳴るが同じメロディーだ。これも映画によく描写されるが、前の権力者は同じ状況を維持しようと武力をもって支配しようとする。銃社会のアメリカらしい。繰り返される『エデンの園から追われて遠くまで来てしまった”Long Road Out of Eden"』という歌詞は「人間に対してまだわからないのか」という意味であろう)


(間奏;かなり鮮烈で印象的なギターソロが入り、「こんな暗い詩にそぐわない」と思う人もいるだろう。この曲があまり関心を呼ばなかった理由かも知れない。当時の鑑賞者にとっては「こんなことは起こり得ない。映画の中の話よ」ということだっただろう)



♪家にいたときは俺には確実に見えた;道はまったく明らかだったのに

今は不思議に思う - 俺は何をやっているんだ?

明日(あした)はどうでも良くなり、何が悪いことか、正しいことも分からない

俺はただ君の腕に抱かれて今夜休めるなら何でもするだろう


(冷静に考えると人類はもっとましなやり方があったはずだ。だが破綻した今となってはどうでもいいことだ、と刹那的な想いを歌う)


(間奏)


♪アメリカの高速道路をジグザクに走ってみる

捨てられた屑や要らなくなった荷物、そして文化という役に立たないがらくたの間を縫って

そいつらは権威に酔って、自分の放ったプロパガンダに自ら騙され(後述1)

目眩と二日酔いで運転していたんだ


(人類はいつまで経っても言葉を使い、支配し支配されてきた。それは歴史の表層でその下では限りない濫行と無法があった。今の享受している「文化」もその一部ではないのか?)


♪ダマスカスを通り、マンダレイに向かう

そういえばシーザの亡霊にアッピア街道であったぜ

彼が言うには一回味をしめた奴らは歯止めが効かなくなるそうだ

大帝国を作ったのは血生臭く阿呆な無駄骨だったとさ


(ダマスカスやマンダレイとのシーザーとの関係はよくわからないが、同じ征服者のアレクサンダー大王を暗喩しているのだろうか?ダマスカスと同名の地名はアメリカ・オレゴン州にある。マンダレイはミャンマーの都市だが、イギリスのコンウエール地方に同名の地名がある(小説:レベッカ)。イギリスにあるのならアメリカにもある可能性が高い。ともかくも、そんな都市を巡ってユートピア・避災地に逃れて行く時に、戦争でローマ帝国の礎を築いたシーザーの亡霊に遭ったと言って彼に贖罪を求めたのだろう)


♪奴らは噛じられたりんごをしっかり握り、それを神をも挫(く)じく武器とした

しかし、今まで知恵者が残した全ての知識は、阿呆どもにはなんの役にも立てていない(後述2)

エデンの園から出てどのくらい経ったと思っているのだ


(『奴ら』というのは戦争を始める思い上がった権力者のことに間違いはない。それを止められない人類と言う種族にも知恵は無駄だったのかも知れない)


訳詞終わり



 この曲を含むレコード・アルバムは2009年のグラミー賞を取っているが、対象はこの楽曲ではなかった。私はこの曲こそ記憶にとどめたいと思っているので敢えて拙訳を供する。


 訳詞と節ごとの解説を読んでいただくと分かることだが、典型的な人類終末ドラマのようなストーリで書かれている叙事詩である。一介のロッカー(多分ドン・ヘンリーとグレン・フライの共作)にこのような詩がどうやって書けたのだろうか、と驚くのである。

 とはいうものの、彼らは文学への造詣が深かった。イエーツの詩の一部を引用している曲もある。


 アメリカの高速道路(幹線道路とも:フリーウエイ)は車社会の国でどこへでも行ける「自由の」道という感覚がある。夜などは漆黒の闇の中を走らねばならず、峠を超えて都市の光が見えてきた時、その広大さに圧巻の想いを感じたことがある。


 曲中の道は荒廃し、戦争によってだろうか、車の残骸が点在し、それらと文化の落とし物(カルチャラル・ジャンク)の間を縫うように走行する。ジャンクとはくず・がらくたのことだ。文化のがらくたとは砂漠を走る道路から見える自然物ではない何物かだ。英語に長年接しているがこのような表現ははじめて見た。ポール・サイモンの「コダクローム」という曲で、「高校で教わったクラップ(Cpap)-(うんこ、たわごと、ゴミ)が無くとも壁に書かれたいたずら書きは読めるぜ」のクラップと同じような意味だろう。


 人間が得た知恵はうまく使えば幸福に暮らせる世界を作ったはずだ、でもなぜ?と曲中の主人公は考える。どこで間違ったのだろうか?と。


 (後述1)と記した訳文について書く。知恵をどんなに積んでもその対極に武器や欺瞞うず高く積まれ、それを使う人間は酩酊して気が大きくなった車のドライバーと全く同じなのだ。

 下にこの部分の原詩を示す。


 "Bloated with entitlement, bloated on propaganda"


 これも私がはじめて目にする表現で秀逸と思う。


 Bloatは「慢心する」という自動詞で with が熟語として使われる。entitlement は資格、権利という意味で、前半は「資格・権利に慢心する」。つまり人間の慢心と横暴のことを表している。

 後半の詩でプロパガンダに on を付けているのには英語を学ぶ私にとってはすごい発見だ。辞書には載っていない。with では「に慢心する」と訳すが、on では「プロパガンダに乗じて」とでも訳せばよいのだろうか。プロパガンダは言葉による支配である。しかしそれを発した者もそれに支配されることになる。後戻りが出来ないのだ。


 (後述2)で示した最後の節の一文は、戦争を始める連中や独裁で人間を支配するのが好きなクズどもに投げつけてやりたいものだ。


 「人類の知恵はお前らには無用だ!とっとと出て行け!」と。





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Eagles Long Road Out of Eden を訳す 泊瀬光延(はつせ こうえん) @hatsusekouen

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