第3話 時の運


 いくら大きい都市でも土地には限りがある。入る者いれば出る者もいるが、人の増加に際限は無い。そのため家・店を構える、もしくは土地を買うというのはなかなか大変だ。


 商売するには立地も大切だ。貴族街に近い、賑わっている大通り沿い、ギルドの近くなど人気も高く需要があるところほど価値が高い。

 金があるからと言って簡単に建物を買うことはできない。伝手や信用、時の運などが必要になりその上でそれ相応の金額がかかる。


 俺が店兼家を買うことができたのも転移して5年後、今から約2ヶ月程前だ。


 買うこと自体なら、どこでも良いのであればもっと前からでも買えた。

ただ気に入る物件がなかなか見つからなかったから買っていなかった。


 1人の商人もしくは不動産屋が扱う物件はそこまで多く無い。


 いくら欲しい物件があり、その商人や不動産屋の所に話をつけに行ったとしても、それなりの有名な人物であるか信頼できる人物であるか、もしくは力(戦いの方では無く権力など)のある人物からの紹介などが無ければ買うことはできないだろう。

 そもそも人気・需要が高い物件を扱っているのは大手の商会か国有の不動産屋だ。そのため最悪の場合は会うことさえできない。


 そんな中、俺は大通りに面していて、冒険者・商業両ギルド比較的近くの場所を買うことができた。


 俺にもこの世界に来てから5年も経てば、それなりに信用できる商人とのつながりはできる。

 俺の『しる』力は情報が命と言ってもいい商人とは(相手にもよるが)相性が良い。


 知己ともお金を稼ぐパートナーとも言える人物、商人に希望の物件を探すようにしてもらい今の住居を手に入れた。もちろんすぐではないが、これほど立地に恵まれた建物を手にするには早すぎたくらいだ。


 そこそこ要求の高い条件だったが、運が良かったのかもしくは頼んだ相手の力量が高かったのか、かなり良いのが買えた。


 いくら『しる』力で情報を求めたとしても、希望の条件の建物が何時空くのか、売られるのかは知り得ない。


 既存の売られている物件は知ることができるが、人気・需要のある多くの人がこぞって買いに来るだろう物件はなかなか残っていることは無い。と言うか俺の希望をすべて満たしている物件は無かった。仮にあったとして、その時に知って行動に移したとしても手遅れだ。



 普通の大きさの物件で二階建てで、立地の良い物件であり、年季の入った建物というわけでも無い。結構無理して売って貰ったためか、かなり散財した。それこそ帝都では無く他の街などでは貴族並みの豪邸が建てられるほどにだ。

 内装や家具も含めて、この5年間で貯めてきたお金のほとんどを使い切ってしまった。


 とはいえ後悔はないし、現状お金に困っていると言うことも無い。


 稼ごうと思えば『しる』力を用いれば容易だ。


 この能力は前世の世界である地球の知識をも『しる』ことができる。今いる世界とは違うからか、この世界のことを『しる』よりも多くの魔力、体力、精神力と言った様なものを使う。


 それでも、ぶっ壊れのチートであることには変わらないが……


 現在もその力を使い、お金になる知識・情報を知人の商人に教え、その情報料・アイディア料として毎月懐に入ってきている。


 もちろんむやみやたらと地球の知識を出しているわけでは無い。

 むしろ地球の知識は一つしか教えてない。それだけでも毎月入ってくるお金は十分すぎるほどだ。


 多く教えれば文化レベルも上がり、生活もより豊かになり、生涯遊んで暮らせる以上のお金も手に入るだろう。


 だが、そんなことはしない。表面上の良いことだけが見えがちになるが、面倒臭く厄介な出来事が必ず後から付いてくる。


 やらずに後悔するより、やって後悔しろ。的な言葉があるが、今回の場合別にやらずとも後悔しない。むしろやって後悔する気しかしない。


 いくら情報統制をして、ばれないようにしていたところで、関わっている人がいる限り、記録として残っている限り、何時までもすべてを隠し通せるわけが無い。人の口に蓋をしたところで絶対は無い。


 そう思うと、何時かは何かが起こることが分かっているのに考えなしに、使い切れないほどのお金を求める、生活を豊かにしよう、あれこれが欲しいなどの一時の感情で行動を起こすのは、ただの馬鹿か無能・愚者かトラブルを求める奇人だ。


 そのため、情報・知識を扱うのには気をつけなければならない。こればかりは自分で考える必要があるため少し大変だが……


 そもそも地球の知識を出さなくても、情報屋的なことをするだけで生活に困らない。



§ § §



 「ふぁぁ~」


 自宅に面している大通りの人通りが増え雑多音が多くなってきた頃に起きる。


 この建物自体は魔道具によってある程度までの音は防音されるようになっている。

 ただ、建物のすぐそばからの声・音なら効果を示さないという、全くもって人通りの多いところに面している建物には助かる魔道具だ。値は張るが必須と言って良いほどの物だ。



 基本的に俺が朝起きる時間は遅い。昼が近くなってから起き、朝食と昼食を同時にとることが多い。


 夜遅くまで何かをしているということでは無い。何か作業をしていることもあるが基本的にはそうでは無い。


 寝ることは大好きだ。だけど一番の理由はそれでは無い。


 一番の理由はやはり神から貰ったこの能力だ。


 『しる』力は脳をよく使う。既に5年間以上経っているとは言え、この世界の住人なら成人するまでに身に付く常識というのをできるだけ早くインプットしなければいけない。ほとんどはもう頭に入っているが、細かいところはまだまだ多い。


 しかも常日頃から様々な情報(周辺の情報や相手の情報・思考、前世との違いの擦り合せなど)を求めている。


 酷使している部分が脳であるため、おいそれと無理したり疲れを残したりするわけにはいかない。

 それが体も分かっているが故に十分以上の多くの睡眠を取っている。


 だから起きるのは基本遅くなる。



 必要以上の睡眠を取り、自然と目覚めれば、頭もスッキリしており、最高の目覚めだ。




 「さてさて、そろそろ店を開くかな」


 まぁ、そうそう人は来ない。



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