第2話 帝都

 俺は何も死んだその時のまま異世界に転移されたわけでは無い。


 神は特に多くのことは語らなかったし、こっちの疑問にも答えなかった…




 「何を成したいか考えよ。そのための力を授けよう」


 これはいわゆる、チート能力がもらえる問答だ。


 何を成したいか。これは意外と難しい。神に嘘は通じないだろう。考えを、頭の中を見透かされている様な視線を受ける。


 ここで聞かれているのは何を成したいかだ。どんな力、能力が欲しいかは聞かれていない。文脈から考えるに、何を成したいかを考え、その考えにあった能力を神が決めるのだろうと思われる。


 だが実際にその場にいるとそこまで考えられる物では無い。心の中をのぞかれているような視線を受け、自分とは存在としての格が違うことが相対しているだけで認識させられる。そんな中で冷静に状況分析できる者はそうそういないだろう。


 そもそも、異世界物の小説は好きだったが、実際に自分がそうなることを考えてはいなかった。


 これまで他の人に流されがちだった人生だ。何を成したいかいきなり聞かれたところで、前世を捨てると決めたところで、そう簡単には思いつかなかった。


 成したいことは思いつかなかったが、転移する自分に必要なことはなぜか不思議と分かっていた。

 なぜか確信している自分がいるような気もしていた…


 そして自然と、無意識に口が開いていた__


 「……しりたい…情報や知識を…しりたいことを『しる』力が欲しい」


 別に知識欲がとか好奇心旺盛とかでは無い。ただただ口が開いていた。自分の意思では無いはずなのに、自分の意思なのだと分かっていた。

 自分自身に自分が引きずり込まれる。内なる自分が見えてくるようで、自分では無いようで、誰かの意思が潜在しているような、いないような……


 

 俺は俺自身が凡人であることを理解していた。俺は、自分は、やろうと思えば何でもできる天才なんだと思っていた時期もある。自分が天才では無いことは少し考えれば分かる。

 上には上がいる。その上の者も下の者に負けることもある。別に哲学的な何かを考えたい訳ではない。


 上には上が、下には下がいるように、平凡・普通と言った存在は厳密には無い。強いて言うならちょうど真ん中の存在がそう言えるのだろうけど、自分がそうであるとは思わない。むしろすべてが平均値に位置しているならそれも一種の才能と言える。


 ____こんな答えの無いことはどうでも良い。なぜこんなことを考えたのかも分からない。自分のことも分かっているようで分からない……



§



 結局『しる』力を貰うことができた。成したいことは無い。だが心の中で思っていたことは識られていたのだろう。


 今では、この力はかなりチートで、役に立っているから感謝している。

 ついでいに、この異世界の平均以上と言える高めの身体能力も授かった。

 体も若く新しくなっている。


 神に感謝はしている。それもすごく。ただ、神様と呼び、信仰や敬うことはしたいとは思えない。


 元々信仰心は無かった。


 だがそれを除いたとしても神「様」とは言えない。何を成したいかの問いの時に感じた、自分が自分では無いような感覚を…自分の深層にあるものを無理矢理引きずり出されたような…自分の底を見られ、自分の底を分かった上でなお出したであろう問いが……

 

 感謝はしている。最大限に。


 ただ神に取ってみれば、俺という人生のアニメの続きを見る様なもんだろう。

 ゲームで言えばコンティニューだ。


 …それが………格が違うのは分かっている…それでも……どうしようも無いと分かっていても…悔しさのようなものを感じている自分がいて、そんな自分に自分が一番驚いていて……


 

§



 『しる』力はどんなことでも、知る・識ることができる。


 『しる』力で知り得ないことは、ほんの少しだ。未来を『しる』ことと、世界の禁忌に触れるようなこと、人の身でしってはいてはいけないこと、そして自分が何を思い心の奥底でどんな感情があるのかは『しる』ことができない。自分の今の状態は分かるが心の奥底の機微などは分からない。


 『しる』力によって識ったことではあるが、この世界の魔法・力は自分次第だ。自分の力・能力をどう捉えるかで変わってくる。


 俺のこの『しる』力もそうだ。情報や知識だけで無く「しりたいと思うこと」を『しる』ことができる。


 例えば、目の前の相手が考えていること、言葉の真偽、自分の周辺の状況などは分かる。


 ただこの力はものすごくチートではあるが、能力が能力なだけに、『しる』ことは脳を使う。知り得たことは直接頭の中に入る。


 そのため、膨大な情報を求めれば頭がパンクするし、得た情報の取捨選択が必要なこともあるし、この力を使えば使うほど疲れもかなりのものになる。


 まぁでも、5年も使い続ければそれなりに慣れるし、使い方も自ずと身につく。



§



 ヴィッセン。それがこの世界での俺の名前だ。前世は捨てた。だからこの世界に来てまず始めに自分の名前を考えた。


 発音や意味が正しいか分からないが、前世のドイツ語で「知る」「知識」とか言った意味だったと思う。違っても名前はもう決めたから変えない。

 そもそも知り合いからはヴィーとかビーとかって呼ばれている。いやディアナのように情報屋って呼んでくるやつもいる。

 まぁ何でも良い


 俺が今住んでいるのは、フィーグンド帝国と言う国の帝都だ。


 このフィーグンド帝国は大国だ。かなりでかく、強い。


 今いる帝都も大陸で1位2位を争うほどに栄えていて大きい都市と言われている。


 それもこれもこの帝都の周辺に数多くのダンジョンが存在しているからだ。ダンジョンというのは魔素が多く溜まるところにできる天然の魔物が生まれる迷宮である。


 ダンジョンと言っても多くの種類がある。既存のダンジョンの多くは階段を見つけ、下に降りていく階層型の物が多い。

 階層型と言っても数階しかないのもあれば100層近くあるのではないかと言われている物もある。また各階は洞窟のようになっていたり、森や山、海や砂漠、火山地帯と言うようなものになっていたりする。

 一層しかなくただただ広大な広さを誇るダンジョン、海の中や空にあるもの、魔法が使えない・目が見えない・足場が無いなどといった特殊型のダンジョンも存在する。


 ダンジョンは成長する。時間をかけ大きくなるものもあれば、元からかなり強いものもある。


 ダンジョンに生まれるのは魔物だけでは無い。冒険者がダンジョンに潜るのは、魔物の素材を求めてという言う者もいるが、多くの者がお宝を求める。

 ダンジョンにはマジックアイテムと呼ばれる特殊な道具、宝箱いっぱいに詰まった金銀財宝、どんな病をも治すことのできるポーション、古の時代の失われた技術などが見つかる。


 これらの物は文字通りのお宝である。現代人の技術では到底再現できないような性能を持つアイテムが見つかることも珍しくない。それらはダンジョン産の物として高値がつけられる。


 もちろんそう簡単にダンジョンに入ったからと言い見つけられるわけでは無い。

浅い階層でも見つかることもあるが、マジックアイテムはピンキリだ。そこまでの物は浅い階層には無い。

 深い階層に行けば行くほど危険は跳ね上がる。ただ、その分破格の性能を持ったアイテムが見つかりやすくはなる。


 既に探索された所にもそのうちアイテムが顕現することはある。

 ただ、マジックアイテムでも魔物と同じように魔素の濃いところの方が良い物、強い物が出やすい。人の手が入りにくい、入っていない様な魔素の濃い深層の方がマジックアイテムは生まれやすい。


 ダンジョンが近くに多く存在していると言うことは魔素が多く存在している場所であり、その分危険も多いがそれと同等以上に利点も多い。


 ダンジョンで得られる資源によって国が潤い、その資源や冒険・金・名声を求めて多くの商人や冒険者、人が集まってくる。


 冒険者の聖地とも言われるほどに多くの強い冒険者がおり、更に、帝国は海にも面しており、塩や海産物、貿易も栄えている。これほどの土地で大きくなれ無いわけが無いと言って良いくらいに恵まれている。


 そんな大国の巨大な都市、帝都は防壁で囲まれている巨大な城郭都市だ。

 貴族街と平民街(下町)の間にも隔てる様に壁がある。


 この国ひいてはこの都市の人口はかなり多い。毎日のように人が流れる。この都市に稼ぎに来るものも多い。

 定住する冒険者もいれば流れの者、商会を建てる・支店を作るために来る者、周辺の町や村から仕事を求める者、国内外からの貴族まで、人種問わず様々な者が訪れる又は過ごしている。


 人通りの多い賑わっている大通りなどは年中人に溢れている。

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