コンコちゃんが強すぎる

「稲荷狐となまくら侍 -明治あやかし捕物帖-」

https://kakuyomu.jp/works/16816700429108467966


 明治9年時点で約300歳、現在で約450歳の稲荷狐コンコ。


 男の子とも女の子ともつかない10歳くらいの見た目で、おかっぱ頭に狐らしく吊り目がち。襟付きシャツにたっぷりズボン、ハンチング帽を身にまとう。


 横浜の太田村(現・横浜市南区南太田界隈)でのんびりと田畑を見守りながら、あやかし退治をしていたところ、開港の影響で色々と押し寄せて手に負えなくなる。それと同時に祠の周囲が農地から宅地へと生まれ変わって忘れ去られる。


 偶然出会った元豪商・高島嘉右衛門かえもんの力を借りて、廃刀令で仕事を失った元彰義隊士になまくら妖刀を授け、あやかし退治に誘う。


 コンコが祝詞を詠唱している間、霊力を込めたなまくら刀は青白い光を放ち、あやかしに限って斬れるようになる。


 一人称は「僕」で大好物はおいなりさん。極度の恥ずかしがり屋で肌を見せること、他人の肌を見ることを嫌がっている。

 永らく横浜を見守ったことから一途な性格で、理由があって性別がない。


 お陰様で読者の皆様に愛されております。コメントやレビュー、FAや朗読配信も、ありがとうございます。改めて御礼申し上げます。


 今回は、コンコが生まれた創作的な経緯を中心に話していこうと思います。


 まず、キャラクターを立てた物語を書きたいと思いました。が、文章だけで可愛く出来る自信がありません。

 ならば可愛いと思えるものを詰め込もう。狐耳と尻尾は外せない。狐耳を隠すためのハンチング帽、日本人が見慣れていない洋装ならば飛び出た尻尾もズボンの飾りだと誤魔化せる。そして霊力を無駄遣いしてポンポン服を変えたら面白い。


 同時に、ジェンダーの課題において性別に囚われている社会に疑問を抱いておりました。

 ここは哲学や社会学の話なので誤解のないようにお願いしたいのですが、生産の女性型社会から創造の男性型社会に移行して、現在は資源の枯渇や環境汚染などの問題に世界中が悩まされているのは、皆様の知るところ。

(社会構造の比喩表現です。実際は女性も創造が出来ますし、男性も生産が出来ます)

 それがどんなものかは私にもわかりませんが、諸問題を解消するために男性型社会から「第三の性型社会」に移行するのもひとつの手段では、と以前から考えていました。


 ならばいっそ性別をなくそう、神様だし。

 ならば見た目は第二次性徴期の前までだ、個人差はあるけれど10歳くらいがギリギリかな。

 ならば髪型は男女の区別がない禿かむろ切り、つまりおかっぱ頭だ。……ここはイザベラ・バードの『日本奥地紀行』を佐々大河先生がコミカライズ化した作品『ふしぎの国のバード』で、ずっと女の子だと思っていたおかっぱ頭の子供が実は男の子だった衝撃の余韻です。

 性別がどっちでもないコンコの存在は、私自身に対するジェンダー意識と社会学の実験であり、挑戦でもありました。


 神様としての設定は、古事記(読んだのは漫画『ぼおるぺん古事記』こうの史代先生)を参考にしました。日本の神様って、意外と親しみやすいキャラクターです。


 一番悩んだのは、名前です。名前を決めるのが苦手なんですよ……。狐の子だからコンコ、安直だけど子供っぽいから、いいか。これがリュウの名付けにも繋がるので結果オーライだったかな?


 さて、物語の中で動かしてみれば……。

 ……可愛いんだ、これが。


 当初はお稲荷様だからと妖しげな雰囲気を醸し出してみたものの、よく喋って感情をあらわにする子供っぽいキャラクターに。つらい過去を背負う日陰者で寡黙なリュウがいたからこそ、です。


 そして次第に、コンコの「存在」が過去に追われるリュウを救っていきます。これには、私自身が驚かされました。

「深夜特急」のハイライトは書きながら胸が熱くなりました。我ながら大好きなシーンです。

 コンコに生命が吹き込まれた瞬間です。


 また書いていく中で作られた部分が、たくさんあります。

 神様としてプライドが高いから嫉妬深く、怒ると怖いことを言う、とか。

 コンコ自身は祠が朽ちるほど弱い神様なので、虚空から出した炎を上げる稲荷宝珠ほうじゅは温かくぷよぷよしている、とか。

 リュウと一緒いるときは強気だけど、ひとりになると凄く臆病、とか。


 はてさて、目的のひとつであったジェンダーの実験は……どうなんでしょう? コンコちゃんは第三の性になれたのでしょうか?

 はじめのエピソード「横浜」を読んだ方の多くは「女の子」だと思うようです。そもそも、私が女の子の服ばかり着せているので、可愛いから。

 私はまだまだ、ジェンダーの壁を破れていないようです。


 そんなコンコをメインに据えたエピソードは

「時には昔の話を」①②

https://kakuyomu.jp/works/16816700429108467966/episodes/16816700429563509722

「グリム童話集」①②

https://kakuyomu.jp/works/16816700429108467966/episodes/16816700429494051293

「女学校の怪談」①②

https://kakuyomu.jp/works/16816700429108467966/episodes/16816700429496636446


 最後にサブタイトル回収、キャラクターとしてのコンコちゃんが強すぎます。

 パイロット版と改稿版の2回完結させたのち、コンコを超えるキャラクターを生み出さないと前に進めない、そんな不安にさいなまれました。


 そうして書いたのが「魔女の育て方」です。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860521192630

 異世界物への挑戦など色々な目的があるのですが、私的には困った作品になってしまいました。それについては、別の機会でお話します。


 そして、超えられなかった……。

 コンコちゃんが可愛すぎます。こんなに可愛くなるなんて、思っても見なかった。

 いつかコンコを超えるキャラクターを生み出せるよう、書き続ける所存です。

 でも、コンコちゃん可愛いなぁ。

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