第8話
今日は5月の金曜日。
授業も無事に乗り越え、笑顔で帰りの支度をしているとイノが声をかけてきた。
「式村、機嫌が良さそうだな」
「それは当然だよ。明後日はデートだからね」
明後日の日曜日に僕は星嶺さんとデートをすることになった。東郷も来るから2人っきりってわけではないけど、星嶺さんは地域限定とはいえアイドル活動もしているし、デート初心者の僕の方としてもありがたいくらいだ。
「へえ、式村、デートするんだ」
そう声をかけてきたのは、クラスメートの譜久山君。チャラい感じに制服を気崩した非公式ながら僕の非モテ仲間だ。どうして非公式なのかというと、僕は出会いがないだけだけど譜久村君はそのチャラさと顔面の作りが合わなさすぎて、わりと女子からハブられていたりする。
「譜久山君、僕だってデートくらい、たまにはするよ」
「そうりゃそうだよな。それで……相手はどこのレンタル彼女なんだ?」
うん、最初っからお金でデート相手を雇っていると思われるのはどうなんだろう。
「違うよ」
「じゃあ、無脊椎動物とか?」
「なんで、いきなり無脊椎動物限定なの。僕は軟体生物たちと、いったいどんなデートをすればいいんだよ。そもそも人類と無脊椎動物とのデートなんて成立するの?」
「それについては、非モテ連合の会報に無脊椎動物とのデート方法の可能性についての論文が載っていたぞ」
「何だって!? ついに生物部の人たち、新たな可能性の扉を見つけたんだね。あとでおめでとうと言いに行かないといけないね」
僕と譜久山君の会話を聞いて、イノが心の底から嫌そうな顔をしている。
「そんな非生産的でアブノーマルな組織もその会報も俺は初耳なんだけど」
「そりゃ、イノには関係ない組織だからね。不本意なんだけど、非モテ連合の会報はこの学校でモテない奴と認定された者にのみ配られる極秘の会報だし、イノは見たことなくて当然だよ」
イノはこう見えてわりとリア充でモテ側の人間だったりする。B研の受付男子っていうのも意外だったけど、噂では彼女もいるらしい。
リア充死んじまえ!
彼女の名前とか聞いたら教えてくれるんだろうか。まあ、嘘をつけない僕じゃあるまいし、誤魔化されて終わりかもな。
一応聞くだけ聞いてみるか。
「イノの彼女って誰?」
「瀬鳥会長だ」
あれ? えっ、ホントに!
「はあ!? 僕、初耳なんだけど」
「別に誰にも言ってないからな」
いやいや、誰にも言ってなくても友達の僕にくらいは教えといてくれてもいいと思うんだけど。
こいつ、本当に僕のことを友達とすら思ってないんじゃなかろうか。
「いつからなの?」
「生まれたときからっていうのが正しいんじゃないか。俺と愛華は幼馴染みで許嫁なんだ」
イノの奴、瀬鳥会長のことを愛華なんて普段は言ったりしてるのか。
なんて羨ましい奴!
「えっ、何、魔力なんてものまで生み出せるようになった現代日本に許嫁なんて文化まだ残ってるの? それに、それってまるでイノが良いところの坊っちゃんみたいじゃないか」
「うーん、良いところの坊っちゃんかどうかは知らないが、親の資産で良ければ数十億程度ならあるぞ」
「数十億!?」
標準的一般家庭の僕からしたら羨ましくてしょうがないんだけど。
「愛華んちはその数倍はあるんだろうけどな。だが、親がどれだけ金を持っていようが関係ないし、俺は俺で稼ぎたいと思っている」
誰かこの男を殺して欲しい。
魔影が人に干渉することが出来ていたら良かったのに。
「おい、式村に譜久山、俺を殺しそうな視線を向けるなよ。思わず通報しちまっただろ」
「えっ、通報しちまうぞじゃなく、もう通報しちゃってんの? イノ、バカじゃないの、警察に怒られるよ」
「大丈夫だ。お前らの俺を見る目を見てもらえればわかってもらえるさ」
えっ、ホントに!
僕らはそんなにヤバい目をしていたんだろうか。
「一応忠告しておくが、式村、今度のデートのときには気を付けた方がいいぞ」
「そうだ、式村は今度デートするんだったんだな。それで、結局誰とデートするんだ?」
「1年の東郷ルリっていう子と……」
「東郷だと! あのクールと特徴的な語尾がギャップ萌えで、今期1年でも五指にはいるといわれる女子じゃないか!」
へえ、東郷の奴、意外と人気があったんだな。
「待てよ。さっき、式村は東郷ルリという子と、と言ったな。まさか、他にもいるというのか?」
愕然とした様子で譜久山君が震える声で話しかけてくる。なんかこのまま話を続けると譜久山君が死ぬんじゃないかと心配になるけど、大丈夫なんだろうか。
「式村、クラスメートのよしみだ、譜久山に止めをさしてやれ」
イノのOKももらったし、多分大丈夫なんだろう。
「いるよ」
「誰だ」
「星嶺さん」
僕の言葉を聞いて譜久山君がついに崩れ落ちた。
「バカな! 星嶺さんといえば、星嶺あみさしかいないはずだ。あんなアイドル級の美少女が、こんなどこの馬の骨ともわからん地味村なんかとデートだと! 俺の耳がバグったか?」
「おい、式村、お前って酷い言われようだな」
「僕もそう思うよ。譜久山君、2人は別にデートしてくれるってだけで、彼女とかじゃないよ」
「当たり前だろ」
譜久山君が僕に殺さんばかりの強烈な視線を送ってくる。
うん、たしかにこんな視線を向けられたら即通報したくなるね。
イノの気持ちがわかったよ。
「猪俣の処罰はまた今度考えるとして、まずはお前の手配書を作成せねば。デッド・オア・デッド生死問わずでいこう」
「いやいや、譜久山君。デッド・オア・デッド言ってる時点で僕に生き残る道はないよね?」
「よし、これで俺へのヘイトはうまく外れたな。まあ、今度の日曜日はゆっくり楽しんでこい」
「イノ、いい感じに締め括ってるけど、結局僕を生け贄にしただけだよね。なんも解決してないとね。見て、あの譜久山君の目を! 獲物を狙う異常者の目をしているよ」
こうして僕のデート前々日はいつも通り賑やかにすぎていった。
現代ファンタジーは機械式 Moka @moka4000
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