121.答え合わせをしよう


「そう警戒しないで欲しいな。腹を割って話せるようにと、彼らを外させたのだからね。あぁ、お分かりだろうが、うちの者もここにはいない」


 レイモンドはわざとらしく「お互い大変だよね」と言って肩を竦めては続ける。


「特にうちの者たちはおかしいから。いつでもどこでも好き勝手に話してくれてね。こんなに静かな時間は経験がないかもしれない。あなたのところの彼らはどうだったかな?」


「──私も今さら隠し事をしようとは思っていません」


 直前の問い掛けを軽く流されて、レイモンドは再び肩を竦めて苦笑した。

 答えたくないことには黙秘を続ける男が、何を言うのかという想いもある。


「相変わらずあなたは固い。誰にでも優しく答える王子様で通っていたのにね?なんでも叶えてくれるお兄さまの役目の方が好きだったかな?」


 揶揄うように言ってはみても、王弟は言葉を返しては来なかった。

 もう一度肩を竦めたのち、レイモンドはやっと王弟と楽し気に語ることを諦めたようだ。


「ふぅ。最後くらい仲良くなってみるのも面白いかと思ったのだけれど。まぁ、良いでしょう」


 王弟はここでやっと反応を示した。

 意外だというように眉を上げたのだ。


「おや?こんな日があと何回も訪れると思っていたような顔をしたね?」


「いえ……はい、そう思っていました」


「ははっ。正直でいいよ。今日はそういう感じで頼みたいね」


 本当に今日が最後なのかと問うよう見詰められて、レイモンドは大袈裟に頷いてみせる。

 そして急に改まって言った。


「お互いに忙しいのです。今日で一度区切りといきましょう、王弟殿下──」


 王弟はゆっくりと目を閉じていく。

 その閉じられた瞼の裏に映るは、諦観なのか。反省か。後悔、あるいは喜び──。


 レイモンドはまたしても肩を竦めて笑う。

 この部屋に入ってからまださほどの時間は経っていないというのに、もう何度目だろう。


「期待させては悪いから、先に言っておこう。おそらくあなたの予想通りではない。今日はね、答え合わせに来たんだ──」





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彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~ 春風由実 @harukazeyumi

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