城塞都市《風の盾》でいちばんの勇者が死んだ。心臓を抉り出されて。

彼女――《七つ星》のカイネは、たまたま巻き込んでしまった初対面の男を真剣に心配できる少女だった。
男は勇者ではなかった。ダンジョンに溢れる呪詛を防ぐ装備を身に着けただけの、ただの男。
男は、カイネと出会い、少し話をして、見送って――

男は、気付けばカイネの姿になっていた。
聞くところによれば、男の心臓には聖痕が刻まれていたのだという。
たとえ命を落としても、その心臓を移植すれば移植された体で生きていける《転生》の聖痕が。

カイネは魔王を追い詰めるも、あと一歩のところで殺しきれなかったらしい。
死んだカイネがやり残したことを引き継ぐ者が、必要だった。


容赦のない都市と怪物、悪い状況。
周りにあるものを淡々と見ていく落ち着いた語りと、
それでいながら気付けば感情に引き込まれている読み味。
情を行間に追わせるテキストの鮮やかさ。

カイネを失くし諦めきれなかった仲間たちの激情。
組み合わせることで使い方の広がる聖痕の異能。

そしてずっと付きまとう疑問――彼女の心臓は、どこへ行った?