大文字伝子の休日8

クライングフリーマン

大文字伝子の休日8

========== この物語はあくまでもフィクションです =========


阿倍野元総理が暗殺された翌日。総理私邸。志田総理が蹴ると、ある男が待っていた。「あんたか。」「どうだ、すっきりしたか?約束は守ったぞ。」

「まさか・・・私は暗殺なんか依頼していない。」「そうか。あの男がいつもケチをつけてくる。邪魔だなあ。いつもそう言っていたじゃないか。」

「あれは愚痴だよ。いつものことじゃないか。それに、君は公設秘書の一人だったじゃないか。何故辞職する時に、2度と逆らえないようにしてあげましょう、と言ったのか不思議だったが。」「あんたは暗殺者を雇ったんだよ。秘書が勝手にやりました、では世間に通用しない。」

『Aparco渋谷店』にミサイルが落下した夜。午後6時。総理私邸。「そうだったのか。」

志田総理は思い出していた。秘書の町屋が捕まったことを。姿元総理の秘書も捕まったことを。(「大文字伝子が行く36」参照)全ては、あの男が黒幕だったのだ。そうか、この私邸爆破もか。

総理官邸で副総監から報告を受けた。陸将、空将、海将からも。彼らは事前に同時進行で侵略に向けての対策を講じていた。

まず、陸自は、駐屯地近くで外国人が空き家を買った案件を洗い出し、駐屯地の近くからのミサイル誘導波のスクランブル化をするシステムを開発し、当日実行した。ミサイルは殆ど海に落下した。唯一例外がAparco渋谷店だった。

海自は、潜水艦護衛艦、海保の協力で仙石諸島に実効支配しようとする那珂国軍の軍艦を体当たりで阻止した。

空自は、ゼロ戦を思い起こさせるペイントを施した戦闘機でこれも体当たりをしてまで那珂国戦闘機を追い払った。

警察は、一律教会と躁化学の会Bが闘争するのを平定した。

官邸に来た4人は。直ちに内閣を招集し、善後策を相談するように要求した。総理と4人の会談は全て録画されていた。

午後9時。総理官邸。志田総理は閣僚の前で土下座をした。「総理。顔をお上げ下さい。」

誰もが口々に言った。総理は、自らの席に戻り、淡々と話を始めた。話の腰を折る者はいなかった。30分後。コップの水を飲み干して、総理は言った。「私は退陣する。ただ、『花道』を作らせてくれ。私は、所謂『事勿れ主義』で、国民から褒められたのは、皮肉にも阿倍野元総理の国葬だけだった。危険はまだ去っていない。自衛隊と警察の話では、侵攻は第2弾以降があるかも知れない。オトロシアのオコルワナ侵攻以上かも知れないそうだ。今まで『お花畑』に押されてきたが、もうそんなロマンは通じない。1週間以内に重要法案を全て可決させる。国会は開かない。そんな時間は勿体ないだけだ。」

官房長官が口を挟んだ。「国会を開かず、どうします?」「閣議の後は与野党代表者会議だ。与党も野党もその後で人員整理をして貰う。」

「人員整理って?」国対委員長が言った。「一般の会社でよくやる『戦力外通告による退職』だ。」

翌日。官房長官から、今は有事であり、それに対応する閣議が進行中である、と国民にはTVを通じて知らされた。記者会見は無かった。告知には、「緊急に決定する事項があり、1週間の猶予を頂きたい」とあった。記者達は総理官邸にも総理私邸にも自宅にも押しかけたが、総理は不在だった。

1週間後。記者会見が行われた。しかし、リモートだった。記者が通された部屋には誰もいなかった。シネマコンプレックス、所謂シネコンの劇場が記者達の席だった。

スクリーンには、どこか別の会場が映っていた。そこには、総理初め、10人程の人物が並んでおり、背後には閣僚がずらり並んでいた。

志田総理は、自らマイクをとり、MCを始めた。

「まず、こういう形を取ることをご容赦頂きたい。また、記者諸君とは、後で時間を設けますので、質疑は暫く我慢頂きたい。まず、事の経緯を簡単に説明します。9月27日に国葬が決まっている阿倍野元総理の暗殺ですが、秘書を通じて『死の商人』を名乗る人物から知らされておりました。時機は知らされておらず、国民の皆様に奈良県の遊説の時に警備に手落ちがあったことを指摘されたことも事実ですが、現行犯逮捕された人物以外にスナイパーがいました。死の商人自身がやった事だと、捜査本部に届いた手紙で判明しております。」

総理は、反応する人間がいないにも関わらず緊張していた。コップの水を飲んだ。

「奴らは、秘書を通じて脅して来ていました。『日本を明け渡せ』、と。無血降伏が嫌なら、追い込んで追い込んで、同時侵攻するぞ、と。私はいたずらだと信じていた。愚かだった。皆に助けて貰って、被害を最小限度にした。ここで、警視庁の久保田管理官に説明をして貰います。久保田管理官。」

「警視庁の久保田です。ご存じの方もおられるかも知れません。Aparco渋谷店にミサイルが落ちた丁度その頃、2つの宗教グループの闘争がありました。旧一律教会から分かれたグループと躁化学の会から別れたグループの闘争です。両団体に問い合わせたところ、分離して勝手にやっている、過激なので困っている、とのことでした。ところで、この闘争も先ほど総理から名前が出た自称死の商人が関わっていました。我々は平定しようとしましたが、とうとう発砲事件まで起りました。この発砲事件に関しては、詳細が判明次第、警視庁からの記者会見を行う予定です。」

「では、陸自からの報告をして貰います。陸将、お願いします。」と総理は陸将に説明を求めた。

「陸将の橘です。那珂国は合計10発のミサイルを打ち込んで来ました。国会で外国人に土地建物を売らない法律が議論されても、なかなか法案が通りませんでした。陸自の駐屯地近くにある金貨は生活する為に買われたのではなく、前線基地として陣取られてしまっていました。それで、陸自としては『自衛手段』を取らざるを得ませんでした。詰まり、その前線基地代わりの家からミサイルを誘導した場合、スクランブル通信、詰まり、妨害電波を発するシステムを開発、全駐屯地に配備しました。そして、悪夢の当日。9発は海に落ちましたが、1発は不幸にもAparco渋谷店に落ちました。お亡くなりになった方々の救済は国がする、とのことです。私事ですが、私の部下も休暇中で、Aparco渋谷店で買い物をしていて、亡くなりました。」

「では、次に総務大臣。お願いします。」と総理は言った。

「総務大臣の時田です。皆さん、ヨーヨーモバイルの大規模通信障害を覚えておられると思います。死の商人の計画では、ケータイキャリア3社同時に通信霜害を起こす予定だったようです。それで、3社には有事には、協同出資しているイチゴJapanのシステムを自動的に行うよう、指導しました。ぶっつけ本番でした。30分のタイムラグが出来ましたが、スマホ所有者の多くが、乗り換えに成功。3社各社にトラブった分は修復して。スマホ所有者が分からないウチに、本来の契約会社のシステムに無事に通信を戻すことが出来ました。総務省から、後でもう1度説明の時間を頂けますか、総理。」と総務大臣は言っ。

「あの件ですね。勿論です。では、先を急ぎましょう。海将、お願いします。」

「海将の仁礼です。日時が予測出来ていたので、仙石諸島海域で待機しておりました。我々は予定通り潜水艦を浮上させ、護衛艦と共に那珂国の艦を体当たりしてまで追い払いました。海上保安庁の船も応援に駆けつけました。」

「では、空将からもお願いします。」と総理は空将を紹介した。

「空将の前田です。ミサイルが発射されると、自動的にスクランブル発進しました。私たちは編隊を組んで並びました。敵は一目散に逃げました。機体の『零戦ペイント』に驚いたのかも知れません。援軍のアメリカ軍が来た時はもういなくなっていました。場所は東北方面、近畿方面、北九州方面です。」

「では、ここからEITOの説明、意見を聞きましょう。斉藤理事官、お入り下さい。」と総理が紹介すると、斉藤理事官が入場して、着席した。

「EITOの斉藤理事官です。EITOとは、エマージェンシー・アンチ・インビジブル・テロリズム・オーガナイゼーションの略です。自衛隊と警察のOB有志とボランティアで結成された、民間自衛組織です。皆さんご存じの通り、防衛費は必要な資金の10分の1にも満たない。自衛隊員の食事もギリギリです。いつか、ご飯とパン、両方食べたことで罰を受けた自衛隊員のニュース、覚えておられますか?過酷な任務を日々送りながら、粗末な食事しか出来ないのが現状です。はっきり言いましょう。今回我々が陰で支えていなければ、Aparco渋谷店だけでは済まなかったのです。そこで、この際総理に公認、前面支援して頂くことになりました。ありがとうございました。」

「予算ですが、正式な予算は国会で審議するとして、暫定的な財源は、『日本学者会議』を解体することで、捻出することを閣議で決定、野党各代表にも追認して頂きました。もう『お花畑』は許されません。防衛力をつけることは軍事力をつけることではありません。日本学者会議は民間アカデミーとして再出発して頂きます。顧問として助言は頂きますが、相談料はお支払い致しません。はっきりと侵攻されたのですから、国交も考え直さなければいけません。次は、官房長官です。」

今度は官房長官がしゃべり始めた。「今、お聞きになったように、自衛隊は『守る知恵』で何とか苦境を乗り越えました。もう限界です。戦争は始まったのも同然です。もうパンダ外交も終わりです。外務省を通じて、パンダを返却し、レンタル料ももう支払わない。いいですね、外務大臣。」外務大臣は頷いた。

「野党の各議員もマスコミに踊らされて、憲法9条があるからダメなどという考え方を押しつけていましたが、現実は甘くない。憲法は、『基本的な考え方』の方針であり、バイブルではありません。私たちは、所謂『スパイ防止法』の仮施行を野党の代表に打診し、快く承諾頂きました。国会で議論していると、結論が長引くだけですから。内閣の『超法規的措置』です。」

「外務大臣から、これからの方針についての話が出ました。お待たせしました、総務大臣。」と総理は総務大臣にバトンを渡した。

「これは、前の総務大臣の市橋氏から提案されていたことですが、電波オークションを行います。来月から。早い話、TV局の再編成を行います。以前からネットでは、かなり話題になっていました。1度、各TV局の免許を取り上げます。そして、手を挙げた企業の中から免許を与えて行きます。BPOも解散。原因理由は『きりとり報道』『ねつ造報道』『誘導報道』『洗脳報道』が多すぎて、見る気が無くなった、というのが、『国民の声』だからです。今日は、TVカメラマンを入場禁止に致しました。この会見模様はViewTubeチャンネル、おさらぎ動画などでライブ中継しています。TV局で『編集』できません。煽ることと真実を伝える仕事は違います。」

「では、最後に政調会長の意見を聞いて頂き、15分の休憩を挟んで記者の質問タイムに入ります。政調会長、どうぞ。」と、総理は合図を送った。

「政調会長の市橋です。我々は1週間、寝る間も惜しんで会議を重ねて参りました。途中経過をお話しなかった理由は2つ。1つ目は、もう侵攻された以上、第2弾のミサイル攻撃がいつ来るか分からないこと。いつものように悠長な議論をしている場合ではありません。敵は、那珂国は本気です。油断していたら、那珂国のイーグル自治区のようになってしまいます。待っているのは奴隷労働です。日本人の言葉・名誉・財産の剥奪です。一刻も早く臨戦態勢を取ることが先決です。2つ目は、スパイの台頭です。スパイはどこにでもいるのが現状です。一番信用がならないのが、マスコミです。死んだ者に鞭打つ悪魔のような所業を国民は知っています。この記者会見でどれだけ邪魔をするか、『見当』はついていましたから、このような形を取りました。人権云々言いたい人は、『平和になってから』振り返って糾弾されるがいいでしょう。なお、質問タイムで不適当な質問をした記者は退場して貰います。退場の際、所属団体名、記者名、所属団体の代表者名を明言して下さい。別室でスパイかどうかの見極めをさせて頂きます。それと、超法規的措置として、『スパイ防止法』は閣議決定で仮執行され、野党第一党の立国賢民党と第二党の日本一揆の会の代表に了解して頂いております。詳細は政府ホームページでご確認下さい。」

「では、休憩タイムに入ります。」と、総理が宣言した。

総理側が休憩に入ったのを見て、各社の記者は預けてあるスマホを警備員達から受け取り、廊下で各社に連絡を取った。「横暴ですよ。」とか「とっちめてやりますよ。」とか行き交う会話の渦の中で、「どうしますか?」と指示を仰ぐ声も混じっていた。

元EITOベース。総理側(スクリーン側)の撮影室。官房長官が「総理、大丈夫ですか?質疑応答は、なるべく私か副総理にやらせて下さい。」と進言した。

「そうだな。想定外の質問だけ私が答えよう。」と言う総理に、「そうしてくれ。正念場だからと緊張しすぎてもな。」と麻生島副総理がいい、自衛隊看護官に「体調は?」と尋ねた。

「バイタルは正常です。」と看護官は応えた。

シネコン。記者会見場。15分が過ぎ、記者達は席に戻った。各所に黒いビジネススーツの女性がマイクを持って待ち構えていた。

スクリーンの向こう側の官房長官が言った。「ここからは、私がMCを行います。座席番号で指示しますので、ご自分の座席番号を今一度お確かめ下さい。挙手をして頂き、こちらが座席番号を指定しますので、その方は、その席でご起立頂きます。係員が参りましたら、そのマイクを使ってお話下さい。その方の質疑応答が終わりましたら、混乱を避ける為、ご着席下さい。一人一回一問です。では、挙手を願います・・・Fの30番の方。所属団体名、記者名をお教え下さい。その後で質問をどうぞ。」

係員がマイクを向けると、「何故、阿倍野元総理は国葬されるんでしょうか?」と記者は言った。

「所属団体名、記者名、所属団体の代表者名を明言して、ご退場下さい。」「お断りします。我々には・・・。」

係員は容赦なく、彼に手錠をかけた。係員は、みちるだった。他の係員がマイクを通じて、こう言った。「公務執行妨害につき、緊急逮捕します。赤目新聞の横田記者は退場。」

その係員はあつこだった。

手錠をかけた、みちるは、わめく横田記者を連行して行った。記者達は思い出した。座席に着くとき、誘導された。どの所属の記者がどこに座ったか、把握されていたのだ。そして、シネコンの劇場が選ばれたのは意味があったのだ。

「では、挙手を願います。」恐る恐る、記者の一人が挙手した。「Bの2番の方。」

「横横新聞の平田です。この記者会見を1週間後とされたのは、何か意味があったのでしょうか?」「いーい質問ですねえ。」と官房長官が言った。

「スパコンの富士山2022が決めた、タイムスケジュールです。詳細は申し上げられませんが、きついスケジュールでした。ご着席下さい。次、どうぞ挙手を。」

3番手の記者が挙手をした。「Qの18番の方。」

「毎毎毎新聞の池田です。Aparco渋谷店の被害者救済はされないんですか?ミサイルを落とされた責任は誰が取るんですか?那珂国に交渉して、これ以上の被害を出さないことが、政府としての急務ではないのですか?」

「一人一回一問です。被害者救済についての審議スケジュールは既に各社に届けてあります。池田さんは、毎毎毎新聞の方ではありませんね。今は『にんちゃく』もコンピュータ処理で早く済みますよ。他の文章も質問ではなく、あなたの意見でしょ。退場。」と、あつこは冷たく言い放ち、みちるは逮捕連行した。

記者会見は2時間に及んだ。

総理や官房長官が『わざと』言わなかったことがあった。ライブ中継は日本国内に向けてではなく、世界に向けて発信された。記者達のレベルの低さは世界に知らしめられた。

TV局は、インターネットの放送を放送しただけだった。

翌日。TVは大騒ぎになった。電波オークションの話が現実化するなんて。今までは、電波オークションを含めて自分たちに都合の悪い話は流されていた。それは、親那珂派の議員や政党が自分たちの思うままになっていたからだ。何なら世間にばらそうか?そんな、チンピラ脅しがまかり通っていたのだ。彼らは知らなかった。そんなネタはとっくにネットで出回っていたことを。そして、総理は親那珂派を一掃する悲惨な決意をしたことを。

EITOベース。志田総理はまた思い出していた。『死の商人』から送られて来た、接待や金でいいなりになっていた政治家や秘書のリストの一部のデータを見せた時の与野党議員の反応を。EITOや自衛隊の有利な環境作りをしない訳には行かなくなったのだ。いつまたミサイルが飛んで来るか分からないのだ。案の定、那珂国はAparco渋谷店のミサイルは誤射だと言って来た。仙石諸島や領空侵犯の件は、若い兵士の捜査ミスだと。

一方の手では握手のポーズを取り、隠した一方の手では銃を持っている、そんな国なのだ。パンダについては、残念ですね、と言って来た。どんな報復を画策しているのだろう?

陸将が入って来た。「眠れませんか?総理。」「色んなことがありすぎたので。」

「ネットでの反応は凄いですよ。総理の英断に感謝するメッセージで一杯です。もう偽りの支持率なんか要りません。これが国民の支持です。」陸将は色んな「証拠」画面を見せた。

「私は阿倍野元総理の国葬儀まで生きていられるだろうか?」「大丈夫です。国葬まではもう攻撃をしてこないでしょう。それこそ国際的に非難されるでしょうから。意外と『世間体』も武器になるのかも知れませんね。食べます?」と、陸将は煎餅を勧めた。

総理は煎餅を食べた。「うん。意外といけるね。世間体と同じか。」

翌日。伝子のマンション。「どうだった?新婚旅行は?」と物部は伝子に尋ねた。

「ああ。たっぷりうまいもん食って、たっぷり温泉入って、たっぷり子作りして来たよ。」

「たっぷり、がやけに多いな。昨日の放送見たか?」「ああ。帰宅してからインターネットの中継を観たよ。あそこでは言っていなかったが、志田総理は退陣するらしいよ。病気を理由にね。」

「え?そうなんですか、先輩。理事官が教えてくれたんですか?」と依田が尋ねた。

「いや。陸将だ。施設は知らないが、EITOが、阿倍野元総理の国葬まで匿うらしい。」

「あれ?今朝病院に緊急入院したって言ってましたよ。」と山城が言った。

「あ。僕もニュースで観たよ。」「僕も。」南原と福本が異口同音に言った。「ダミーってことね、伝子。」と栞が言った。「うん。」

「命を狙われていますからね。普通の警備体制ではちょっと、ね。」

「ちょっと、ね。」と編集長がトイレから出てきて、唱和した。「高遠ちゃん、ペーパー、少ないわよ。」「あ、済みません。」高遠はすぐに補充に行った。

チャイムが鳴った。服部だった。愛宕もいた。二人が入るとすぐに、女性陣が藤井の家からおにぎりと煎餅を運んで来た。

「高遠さん、あのレーザーディスクプレイヤー、まだ使えるんですよね。」

「ええ。たまにメンテしてますよ。」「じゃーん。」服部が袋から出したのはLDだった。

「僕たち、江島1尉のお葬式、出れなかったでしょ?せめて歌で送ってあげたいな、って。」

「服部。お前は私の後輩の中で1番できがいいな。合格だ。」と伝子は褒めそやした。

高遠はレーザーディスクプレイヤーの側に江島の遺影の写真立てを置き、LDをレーザーディスクプレイヤーにセットした。

やがて、流れて来た歌声に合わせて、皆は、暫く唱和した。


―完―

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