第30話種明かし

「はぁあああああああああああ……つっかれたもおおぉ」


 粉塵が舞う中で、俺はその場に倒れて体を伸ばす。


 体の痛みは、やはりただ忘れていただけのようで、生き残った安堵感を感じると同時に全身がずきずきと痛みはじめ、俺は大きく息を吐く。


 口の中に血の匂いが充満しており不快だ。


「リューキ!? ちょっとリューキ大丈夫!」


「ふぐおぉ!?」


「え、エリシアさん急に動かしたら!」


 俺が倒れたことで心配してくれたのか、エリシアは慌てたような声を上げて俺の方に走り寄り、倒れた俺を抱き上げてくれる。 柔らかい腕の感触を普段であれば心の奥底に刻み付けるのだろうが……今回ばかりは無理に動かされたことによる激痛により俺は苦悶の声を上げる。


「あっ!? ごめ!? 大丈夫?」


「な、なんとかな……」


 痛みで涙目になりながらも、俺は大きく息を吸って吐き出すと。


 少しだけ痛みが和らいでいく。


 怪我も、目立った外傷は額の切り傷ぐらいであり体はほぼまともに動くが。


 全身が破裂しそうなぐらい痛くしばらくは動きたくない。


「……えと、リューキ。 もうあのアンデッドは動かないの?」


「あぁ……ガッツも発動してないし、ステータスも反応しない」


「そうでした! リューキ様、どうしてあのアンデッドを倒せたんですか!? さっきのスキルグラップルでは倒せなかったのに!」


「あぁ……その答えはあれだ」


「あれ?」


 俺はそういうと、地面に転がっている剣を指さす。


 それは、アンデッドが持っていた剣だ。


「あれが?」


「まぁ、見た方が早いか……でもその前に回復お願い」


「あ、ご、ごめん!?」


 そう言うと、エリシアは慌ててバッグの中から薄い青色の液体が入った小瓶を取り出し、俺の額に半分、そして口の中に半分流し込む。


 味はほんのり甘く、香りはすっきりとしたミントの様な香り……。


 こんな、お菓子の様なものが効くのだろうかと俺は懐疑的な心持でごくりと喉を鳴らすと。


 その不安をあざ笑うかのように、全身に浸透するような感覚がし、同時にあれだけ全身を支配していた激痛が、嘘のように消え。


「うん……良かった、大きな怪我はないみたい……」


 エリシアの言葉に、俺はふとポーションがかけられた額に触れてみると。


 先ほどまでぱっくりと割れていた額の傷が、嘘のようにふさがっていた。


「切り傷も一瞬ですよ! リューキ様!」


「そりゃ残念だ……傷の一つでもありゃ、少しはしまりのある顔になるかとも思ったが」


「何言ってんのよ、今でも十分かっこいいんだから、もったいないわよ」


「え、あ……ありがとう」


「?」


 なるほど、これが無自覚な一撃か……恐ろしいな、心臓が破裂するかと思った。


 ポーションが無ければ心停止の一つでも起こしていたんではないだろうか。


 ただでさえ女性に褒められたことなどない俺には大ダメージである。


「ま、まぁとりあえず……痛みも消えたし!」


 ごまかすように俺は、エリシアの膝枕から離れて立ち上がると、ふらふらと剣まで歩いていき、剣を拾い上げる。


 と。


【スキル・爆裂を使用可能になりました】


 不意にステータスが現れ、そんなテロップがあらわれ。


「そいっ」


 俺はアンデッドを叩き潰した巨大な木の拳に向かって剣を振ると。


【-――――――――――――!】


 爆音が響き渡り、木の拳が破壊される。


「お、思ったより威力でたな」


「なっ……なっ!? リューキ、貴方一体何を」


「要は、エクスプロージョンもガッツのスキルも……この剣の保有しているスキルだったってことさ」


 俺が抱えていた疑問……なぜ自動的に爆発が起こるなら、最初の一撃の時にこいつは爆発をしなかったのか、その答えがこれである。


 爆発をするようになったのは、剣を引き抜いてから。


 そして、スキルをすべて奪ったというのに発動したエクスプロージョンのスキル。


 以下の点から導き出されたのは、マジックアイテムによるスキルの発動だ。


「な、なるほど……確かに、アイテムが保有している特殊効果は~鑑定~のスキルでしか見切れません……だからスキルグラップルでも奪えなかったし、ステータスでは検知できなかったというわけですね?」


「あぁ、何事も万能ではないってことだ」


「むむむ……これはミユキ、神様として改造の余地ありですね……しかし鑑定……鑑定ですか」


 ミユキは難しい表情をしてそう唸る。


 確かにステータスで相手の情報を見れるのは良いことだが、今回は逆にそれがあだになってしまったといったところだろう。


 ま、結果として無事にボスを倒すことができたし……ボスが使うようなレア(っぽい)武器も手に入ったことだし結果オーライという奴だろう。


「後ろの霧もこれで晴れて……」



「……ないですね」



 こういうダンジョンでのお約束は、ボスを倒すと自動的に扉が開くというのが定石であるが。


 そこには依然として靄がかかり続けている出口があった。

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スキルグラップル〜魔王が未実装で安全だって言うから転生したのに、復活するとか聞いてないんですが? とりあえず貰った相手のスキルを奪う力で何とか……え? 効果時間5秒?〜 長見雄一 @nagamiyuuichi

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