第29話決着

【――――――――--――!】


 ひときわ大きな爆発が響き、同時に俺は再度世界を何度も回転させながら宙を舞い。


「いってぇああっ!」


 衝撃により嗚咽を漏らす。


 ぐらりと視界がゆがみ……同時に頭から何かどろりとしたものが流れ出る。


「ま、まぁ……これだけ吹き飛ばされたんだから、これぐらいは……仕方ねーけど……ごふっ……」


 もう少し慌てふためいたり、死の恐怖にパニックでも起こすかと思ったが、どうやら俺という人間は意外にも冷静であるらしく。


 ふらふらと立ちあがりながらアンデッドをにらみつける。


 自爆により、体がボロボロになりながらも、黒い霧が俺をあざ笑うかのようにその傷を修復している。


「リューキ様!」


 ミユキの声が響き、ひらりと俺の血を拭うような感覚が額に沁みる。


「あぁ……そんな、血が!? 私が分かりますか!」


 泣きそうな声が響き、ぽたりと暖かい小さな滴が俺の頬を伝う。


 まったく、そんなに動揺されたらこっちも弱音なんて吐けないじゃないか。


「……なんとか大丈夫だよ」


「すみません……ごめんなさいリューキ様……ミユキが、ミユキが役立たずなばっかりに……」


 ステータス画面を見ると、既に五秒は経過しておりスキルは相手のもとに戻っていっている。


 頼みの綱のスキルグラップルは破られ、鋼鉄の体もこの通りひしゃげ始めている。


 絶望的な状況。


 だが……おかげでいいことを知ることができたようだ。


「……ミユキ」


「は……はい?」


「一つだけ確認するが、スキルグラップルは、相手のスキルを全部奪い取るんだよな」


「え、ええ……ユニークスキル、ゴッズスキルの様なスキルは現段階ではグラップ不可能ですが……ガッツやエクスプロ―ジョンの様なノーマルスキルは間違いなくグラップされます、これはシステムに干渉する能力なので例外はありません」


 流石はミユキ、慌てふためいていながらも回答は迅速かつ的確だ。


 俺はそんな相棒に心の中で称賛の言葉を送りつつ。


 同時に一つの答えを見つけ出す。


「あぁ……とりあえず、ガッツとエクスプロージョンのカラクリは読めた」


「えっ!?」


「次で決めるさ」


「ちょっ!? リューキ様……その体じゃ!」


「何……頭が切れただけ、体はぴんぴんしてる」


 視界が赤く染まっているが、不思議と痛みは消えている。


「エリシア! 魔法の準備は!」


 俺は立ちあがり、剣を構えて背後で魔力を充填しているエリシアに問いかけると。


「あと少し! 二分! いや、一分あればそいつをぶっ飛ばせるわ!」


 威勢のいい言葉だが、その声は震えている。


 魔力の流れとかそういうのは分からないが、無理をして魔法を唱えようとしていることはそれだけでわかる。


 恐らく、この予想が外れであれば俺たちは敗北するだろう。


 だが。


「……行くぞ」


 不思議と、俺の心に躊躇いはなかった。


 その答えが、正しいとなぜか確信をしていたからだ。


「そいや!」


 黒い霧が消え、こちらに向かい再度走り寄るアンデッドに向かい、俺は小石を投げつける。


【AAAA!】


 やはり、同じようにエクスプロージョンのスキルが発動し、瓦礫がさらにまき散らされる。


 だが、慣れてしまえばそんなもの気になることはなく、俺は先ほどの行動の焼き直しのように動く。


 全く同じように、アンデッドは剣を鈍重に振り下ろす。


 また繰り返すのかとあざ笑うように……。


 しかし。


「種は割れてんだよ!! ボッチ野郎!」


 俺はその剣を回避し……。


 剣を握るその腕を叩き切る。


【AAAAAAAAAAAAAAA!!?】


 今までとは異なる雄たけび。


 その声は明らかに動揺を意味するものであり。

 すぐさまもう片方の剣を振りかぶりながら、ハイアンデッドは俺に切りかかるが。


「おせえ!!」


 スキル・一閃を起動し。


 今度は反対側の腕を切り落とし、その体を蹴り飛ばす。


【AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?】


 悶絶をするように体をくねらせるハイアンデッド。


 だが。


【AAAAAAAAAAAA!】


「ぐおっ!?」


 乾いた手が伸び、俺の体を鷲掴みにしようと走り。


 俺はそれをぎりぎりのところで回避をする。


 爆発のダメージはすでに癒えており、ついさっき切り落とした手首も治っている。


 そのことから俺が与えるダメージよりも、アンデッドの自然治癒の力の方が上回っていることは容易に見て取れた。


 やはり剣で倒しきるのは難しそうだ。


「リューキ様!」


 ミユキの言葉に、相手を見やると、剣を失ったアンデッドは口元から淀んだ何かを漏れ出させ始める。


 もはやステータスを再確認するまでもなく、俺はそれが【毒の吐息】であることを理解する。


「まずい!?」


 毒消しがあるとはいえ、戦いの最中に飲むほど時間はないし、恐らく毒により動きを鈍らせた時点で勝負は決まってしまう。


 何より、せっかく武器を落として無力化させたのだ。


「っちいいぃい!」


 俺は急ぎ剣を捨てて、全速力でアンデッドへと駆け寄る。


「リューキ様!? ダメです爆発が!」


 ミユキの驚愕する声が響くが、俺はそれを無視してアンデッドの開いた口に、自分の拳を滑り込ませる。



 ………しかし、爆発は起こらない。





「うえっ!? 気持ちわりい!」


 乾ききり、ひんやりとした嫌な感触に、俺は全身の鳥肌が立つが。


 そんなことを気にしている余裕はなく。


「スキルグラップル!!」


 迷うことなく、アンデッドの持っているスキルをすべて奪い取る。


「A? AA????」


 結果は成功。


 毒の霧は発動することなく、代わりに俺の体にすべてのスキルが流れ込む。


【鷲掴み!】


 スキル、鷲掴みを俺はグラップし、アンデッドの顔面を掴むと、そのまま地面にたたき伏せる。


 スキルを持たず、素早さも力も劣っているアンデッドはもはやおそるるに足らず、組み伏せたアンデッドを俺は続けて縛り上げる。


【冒涜の触手!】


 ぞわりと背中に悪寒が走り、同時に背中からウナギの様な触手が這い出でて、俺の想像した通りにアンデッドを縛り上げていく。


 バインドの魔法とは異なり、強力なスキルらしく、アンデッドはもがき苦しむもその拘束から逃れそうな様子はない。


「エリシア!! いまだ!」


 拘束を成功したと同時に、俺はエリシアに声をかけると。


「タイミングバッチリじゃない!! ぶっ放すわよ!」


 エリシアもちょうど魔力の充填が終わったのか、杖の先端から光を放ちながらそう広いダンスホールにその高い声を響き渡らせる。


「逃げるぞミユキ!


「はい!」


 俺はすかさず、拘束をしていたアンデッドから離れる。


 それと同時に……先ほどまでは感じなかった……体の中を風が吹き抜けていくような感覚が走り……まるで暴風のように縦横無尽に風など拭くはずのないダンスホールに溢れかえる。

 恐らく、これが魔力なのだろう。


 その風はエリシアを中心に吹き荒れ。


 詠唱が始まる。


【遥かなる高みからの一撃……この一撃、神よりの仕置きと知れ!】


 短く、それでいて力強い言葉と共に、エリシアは杖を大地にたたきつける。


 と、同時に……杖の先端が伸び、枝が、幹が、根がダンスホールを埋め尽くし……。


 やがて伸び切った枝は絡み合い重なり合い……一つの拳を作り、アンデッドの頭上へと現れる。


 それは、まるで神の拳の如く強大に……尊大に振り下ろされる。




【AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!】




 孤独なる王の暴政は……神の一撃により瓦解する。


木神拳ゴッドハンド!!】


 ―――――――――――――!!!


 もはや、エクスプロージョンなど比べ物にならないほどの大破壊。


 ダンスホールは隕石が落ちたかのような巨大なクレーターになるほど沈み込み。


 先ほどと同じように黒い霧が一斉にダンスホールの闇の中に消えていき、埃が一斉に宙を舞う。


 ただ、先ほどとは異なり、アンデッドは二度と動くことはない……。



 俺たちは勝利したのだ。

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