第28話化かしあい
「リューキ!?」
「リューキ様!」
「あ……うっ……あ」
俺の名前を呼ぶ二人の少女の声は、なにやらどこから響いているのかがわからないほどめちゃくちゃな方向から響き反響をする。
自分の体を見てみると、腕からはぶすぶすと煙のようなものが上がっており、焦げ付いた自分の衣服を見て初めて、俺は爆発に巻き込まれたということに気が付いた。
「リューキ様!? ご無事で!」
「あぁ……マジで泣きそうだけど」
正直、なんで五体満足で目立った怪我もなく立ち上がれたのかが不思議なぐらい体が痛い。
「とっさに後ろに飛んで爆発を回避したのね……」
「爆発……」
「鋼鉄の体が無ければ即死でした……エリシアさんに感謝です」
「あー……とりあえずさんきゅー……」
ふらりと立ち上がり、俺はハイアンデッドをにらみつけると、そこには体中から煙を巻き上げ、体を修復しているアンデッドの姿があった。
「……エクスプロージョン……物を起爆させる特殊スキルですが……あのアンデッドは、自分の体を起爆させるようです……自らを起爆させ、オーバーダメージになりそうならばガッツで耐えて修復をする」
「なんて卑劣なスキル構成なの……」
「だけど、どうなってんだよ……ステータスの魔法じゃ」
「ええ、確かにそんなスキルあのアンデッドには備わっていません」
「AAA!!」
修復が終わったのか、まだ疑問の答えも出ていない状態で、アンデッドは再度こちらへと迫りくる。
「来るわよ!!」
「エリシアさん! 足止めは!」
「スクロールも使い切った、魔法も
「リューキ様!」
「あぁもう本当は全身痛くてやりたかねーんだけど!!」
体中痛い……。
四肢切断でもされてればここで立ち上がらなくても済むのかもしれないが。
悲しきかな、体は何の問題もなく思い通りに動き、爆心地に一番近かったはずの左手の指も今から裁縫仕事すらできそうなぐらい元気に動く。
流石は鋼鉄の体といったところだろうか。
これではさぼる口実を作ることもできないので、仕方なく剣を再度とり時間を稼ぐことにする。
「リューキ……大丈夫?」
「全身痛いけどどうやら体はぴんぴんしてるみたいなんでね……それよりも魔法を早くお願い」
「う、うん、できるだけ急ぐ!」
エリシアの言葉に、俺は一つうなずくと、そのまま迫りくるハイアンデッドを迎え撃つ。
「AAAAAAAAAAAAA!」
振るわれる剣は先ほど引き抜いた赤く光る剣であり、今度は受けるわけではなく回避をする。
剣は地面をたたき、俺は切りかかろうと剣を振るうが。
「AAAAA!」
刃が体に触れそうになった瞬間ここぞとばかりに、アンデッドは再度爆発を起こし、石造りのダンスホールを破壊し、破片が俺の体を打ち付ける。
「いてえっつーの!?」
今度は少し離れていたため、吹き飛ばされることはなかったが、爆発により舞い上げられた瓦礫が俺を打つ。
体は元気であるが、しかしぶつかる石つぶては痛いものは痛い。
俺は怒りに任せ、お返しに体を修復中のアンデッドの背中を切りつける。
「AA!?」
当然手ごたえなしであり、俺の与えたダメージなどダメージの内にも入らないと言いたげに、黒い霧がその部分を含めて爆発により欠損した体を修復していく。
糞っ垂れ。
「……畜生……何だってんだ本当に」
困惑よりも、疑惑が立ち上り、俺は振るわれる剣を受け止めながらも、爆発をいなしながら効果のない攻撃を繰り返す。
「リューキ様……何か気づいたことは!? このままでは」
「くっそ!」
ミユキの言葉に、俺はその言葉の意味を理解し、同時にアンデッドから距離を置き、足元に落ちている瓦礫の破片を掴み、投げつける。
「AAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
結果は爆発……離れていても相変わらず瓦礫が俺を襲うが、体はぴんぴんしており、俺はその体の修復時間の間に息を整える。
「リューキ様!? ただ戦っているだけでは勝ち目はありません!」
「分かってるってーのミユキ」
そう、闇雲に戦っていてもこの戦いはアンデッドに軍配が上がることに気が付いたのだ。
エリシアに魔法を頼みはしたが、この見えないステータスのカラクリを解かなければ答えは出ないだろう。
そうなれば、体力の消費がないアンデッドに最終的には軍配が上がるのは必至であり。
同時に俺は自分が息切れを起こし始めていることに気が付く。
当然か、魔法の力で底上げをしていても、体力が無尽蔵になるわけではない。
本当の騎士さまであればもっとましな動きをするのだろうが、元々ヒキニートの体を無理やり動かしているのだ……体力的な限界が早々に訪れるのは当然の帰結という奴だ。
早めにこの謎を解かなければ……恐らくここで三人仲良く木っ端みじんだ。
「AAAAAAAAAAAA!!」
「こいつを倒すのがかなり面倒くさいというのは分かったし……なんとなくだが気づいたこともある」
そう……だがこのリューキ。 ただ闇雲にアンデッドを切りつけていたわけでもない。
「……何か分かったんですか!?」
「とりあえずは、奴は戦術的に考えて爆発を起こしているわけじゃねえってことだ。ある一定の距離まで近づくと爆発をするように設定されてる」
「本当ですか?」
「あぁ……さっき瓦礫を投げた時、俺は離れてたのに爆発をしただろう?」
「た、確かに」
「それはつまり、モノや生き物が近づくと爆発するようになってるんだ。 あのアンデッドの力なら、石の破片なんて喰らってもなんでもないだろうしな……あいつが自分の意思で考えながら戦ってるんだったら、間違いなくあの場面で自爆するなんて行動は起こさないはずだ」
「では、どのように!?」
「さっき、爆発した直後に切りつけた時爆発せずに刃が通った。それはつまり」
「連続では爆発することはできない!」
ミユキの言葉に俺はうなずくと、すぐさま瓦礫を拾い上げてアンデッドへと放る。
【AAAAAAAAAAAAAA!】
予想通り、とんできた瓦礫の欠片に対しても、アンデッドは敏感に反応し爆発を起こす。
破片がいくつか俺の体を打つが、爆発するのがわかっていれば飛んでくる破片はさして脅威ではなく。
俺は剣を構えてすぐさまアンデッドへと走る。
【AAA!】
こちらも予想通り……爆発はすることなく、自爆の影響か、鈍い動きのままアンデッドは剣をゆっくりと振るうが。
「遅い!」
俺はその剣を紙一重で回避をすると、そのままアンデッドへと触れる。
アンデッドの傷は修復間近……だが、治りきる前にスキルグラップルでスキルをすべて奪いきってしまえば、ガッツも爆発も起こせないはず!
「オールグラップル!!」
どのようにスキルを隠匿しているのかは知らないが……スキルグラップルからは逃げられない……そのものが現在保有しているスキルをすべて奪いきる!
一瞬、ハイアンデッドの体から電流の様なものがほとばしる。
同時に、敵のステータス画面のスキルは空になり、俺のステータス欄にアンデッドが所有していたスキルが並ぶ。
制限時間は五秒と表示されているが、触れ続けていれば問題はない。
「……おっし……後はこいつ自身のスキルを使って……エリシアの詠唱が終わるまで……」
拘束していればいい……そう俺は安堵のため息を漏らすが。
「いけませんリューキ様!?」
「へ?」
不意にミユキは怒声を発し、俺は間抜けな声を出してミユキの方を見やると。
「爆発と……ガッツがグラップできていません!? まだそのアンデッドはその二つを所有しています!!」
バカな……という声よりも早く。
【A--――――】
閃光がアンデッドの体からほとばしる。
その表情は……どこかざまあみろと笑っているようにも感じた。
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