第18話 天使のお悩み
「それで、良かったの?」
そう尋ねてくるシャナに俺は小さく頷く。
「ああ、これ以上タスクを増やすといろいろと面倒な事になりそうだからね」
結局、俺はビアンカの頼みを断った。
それに対し彼女は「まあ、そんな気はしてたけどね」という言葉と共にからからと笑った。
個人的には、そう思っていたのならば最初から提案してくるなと感じたが、まあ彼女もとりあえず言っとけの精神で告げてきたのかもしれない。
「タスク……?」
「ん、ああ。この前言ったかもだけど、これでも結構、常連の客がいるんだよ。そういう人達の為にも、あまり一人の客の為に家を空けるって事は、あまり出来ないだろ?」
「その常連って、女性なの?」
「どっちも、かな。男もいるし、女もいる。何故か知らないけど身体を無茶させる仕事をする人が、この街には多いみたいで。だからまあ、俺のような人間は仕事に困らないって訳で」
「ふぅむ?」
「特別に優遇する代わりに定期的にお金を支援してくれる人もいる。まあ、VIPって人だな。そういう人もいるし」
「……その人は女性なの?」
「……いやまあ、その人は女性だけど」
「ふうん。ふぅん」
少し不機嫌になる。
「いやまあ、ね。そう言う仕事だってのは分かってますよ? そういう事は理解するって話だったし」
「仕事だし、仕事以上の事はしてないからな?」
「ええ、はい。分かってる。アルトさんって真面目なのは分かってるし、だからそれ以上の事に発展させようとはしてないんだろうけど。だけどなー」
「だけどなー?」
「私みたいな人がいないとも限らないジャン?」
「?」
「私みたいに、一目惚れしている人もいるかもだし」
「……それを俺に言う?」
「これは、アレだね」
「あれとは」
「正妻戦争、勃発だねっ」
しゅっしゅとシャドーボクシングをして見せるシャナ。
いや、知らんがな。
だけどこちらとしては自分の事でもあるので無視も出来ない。
彼女も彼女で茶化してはいるけれども、一応本気で考えているのだろうし。
「俺は、君の恋人だ」
「それなら、その」
「ん?」
「証明、して欲しい、かな?」
少し頬を赤らめて言う彼女に俺はなるほどと頷く。
「つまり寂しかった、とか?」
「うー、言わないで。私自身、もっと自分が貴方を悩殺出来る魅力的な女性だって思えるほど自信満々な人間だったらと常日頃思ってる」
「シャナは十分魅力的だぞ?」
「でも私ってお姉さんやあの人、ステラさんよりおっぱいないし」
「……知らんがな」
「やっぱり、アルトさん的におっぱいは盛ってあった方が、良いでしょう?」
「それ、俺に聞くか?」
「いやだって、ねぇ。私的には肉体的に劣っているかもって思うと怖くて怖くて」
よよよ、とふざけたように言うシャナ。
それから彼女が何かを告げようとした、次の瞬間だった。
「バーンッ」という凄まじい音と共に店の扉が開かれ、そして一人の女性が必死な顔をして叫んだ。
「アルトさん! 恋人が出来たって、本当!?」
そしてシャナはというとその女性の胸を見て表情を殺した。
「おっぱい……」
異世界でマッサージ屋を始めたけど、リピーターの肩こりの原因がどう考えてもおっぱいです カラスバ @nodoguro
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