第17話 変わり者の淫魔

 ビアンカが現れた事により、シャナの警戒心は見るからにマックスになっていた。


「さ、サキュバス……!」

「シャナ」


 俺はぽんと彼女の肩を叩き、宥める。


「一応彼女も、この店の客なんだ。そういきなり威嚇しないでやってくれ」

「え、はい? いや、でも。淫魔……」

「うふふ、そう言う反応をされるの、久しぶりだわねぇ。なんだか懐かしいわ」


 くすくすと笑うビアンカ。

 明らかにシャナの事を揶揄おうとしているのは目に見えていたので、先回りして「ビアンカ、あまりシャナをイジメるなよ?」と釘をさしておく事にした。


「別に、何もしないわよ。ただ、件の眠り姫がどんな子なのか見に来ただけよ」

「……眠り姫?」

「そう警戒しないで、ただ知っていただけよ。天使族の村に結晶の眠り姫がいると、そう言う話を聞いただけ。どうやら奇妙な魔術が働いていて、だからそこに辿り着く事は出来なかったけれども」

「……」

「だ、か、ら。シャナちゃん、そう固くならないで私と仲良くしましょ♪」

「……」


 凄く難しく、ぶっきらぼうな顔で笑顔を浮かべながら「ええ、そうですねぇ」と返事をするシャナ。

 「ざっけんなこら」とでも言いたげだった。

 差し出された手も握らないし、なんなら叩き堕としたいという感情がひしひしと伝わって来る。


「それで? 何しに来たんだよビアンカ。客としてか? それとも商談の為か?」

「今回は商談の為よ。良い商売の話があって――というか基本的に私は貴方に対してとても良い商売の話をしようとはしているのよ? それなのに貴方、いつもつれなくて、ねぇ?」

「何度も言うけど、俺はお前の専属にはならないからな?」

「え……!?」


 俺の言葉にシャナが驚いた表情をする。


「専属って、何の事?」

「あー、その。ビアンカは俺と契約をして、それで契約通り彼女の提供された場所で、彼女の指示通りの仕事をして欲しいって事だよ」

「それは、え?」

「ビアンカは、見ては分からないけど、実は凄いやり手の商売人なんだ。商会のトップとも言う」

「ぜ、全然見えない……」

「それは私の事をあくまでサキュバスって見ているからじゃないかしら」


 実際、サキュバスという色眼鏡で見なければ、彼女が只者ではない事はすぐに分かる事だろう。

 上等な服。

 ごてごて華美ではない、さりげなく施されている明らかに高価な装飾品。

 メイクなどにもお金をかけている事は明らかだし、全体的に格好にお金をかけているのだ。

 そのように出来る資産がある訳だし、そのように資産を使って利点がある環境にいるサキュバス。

 ……実際、サキュバスとしては珍しいだろう。


「彼女はなんて言うか、変態なんだ」

「へ、変態……?」

「変態とは失礼ねぇ。私はただ、お金が大好きなのよ――お金が貯まっていって、それで私のものとなっていくその様が好き。お金の輝き、金が鳴らす音色が好きなの」

「何度も言うけど、それは普通の感性ではない」

「ま、そこら辺の話をすると平行線になるから、ここら辺にしましょう――商談の話よ」


 ぽん、と彼女は手を叩き。

 商談をする時にする真面目な表情に切り替えた彼女は言う。



「貴方。王族を相手にする気はない?」

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